海外批評

クリスティーン・ポラス『「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』

前回紹介した本では、人権という概念が国家の統計的な扱いのレベルにおいては意味のある概念であったとしても、私たちの身近な人間関係においては、具体的にどうしたらいいのか、何が人権的でなにがそうでないのかがはっきりしない、といった意味でのアポリ…

マーク・リラ『リベラル再生宣言』

アメリカ政治におけるトランプ大統領の勝利は、世界中を驚かせた。なぜならそれは、人間の 非理性 を象徴しているように思われたからだ。 なぜ、民主党は勝てないのか? それは、ある意味において、日本においても当て嵌るように思われる。なぜ日本の野党は…

G・マルチン『カント----存在論および科学論----』

さて。カントは「どこから来たのか」。この問いは、なぜカントがあのような議論を行ったのかを問うものであるし、なぜあのような「差異」「差分」を示すものだったのかを問うものでもある。 そしてそれは、おそらくは ライプニッツ なのだ。なんだ、当たり前…

ジェームズ・レイチェルズ『ダーウィンと道徳的個体主義』

ところで、前回紹介した、スコット・ジェイムズの『進化倫理学入門』の翻訳は、児玉聡さんという方で、たしか、ちくま新書で『功利主義入門』という本を書いていらして、そこで、 道徳と倫理を「同一視」する ことから、議論を始められていたことを思い出す…

スコット・ジェイムズ『進化倫理学入門』

そもそも、進化論は「比喩」によって、リテラルには、理論が構築されている。つまり、遺伝子が、まるで「意志」があるかのように、他の遺伝子との「戦い」に「勝って」、「生き残ってきた」かのように説明する。つまり、この進化論の最初の基礎的な部分にお…

ジャック・デリダ『精神について』

掲題の本は、デリダがハイデガーに言及した中でも、比較的まとまった論考になっている、ということで注目されてきた。つまり、デリダはハイデガーをどのように評価しているのかについては、例えば、前回紹介したウォーリンの本のような、ハイデガーの仕事を…

リチャード・ウォーリン『存在の政治』

ハイデガーは、直接には、政治哲学に言及していない、とされている。しかし、前期から中期にかけて、ナチへのコミットが深く知られるようになって、本当にそうなのか、が疑われるようになる。普通に考えて、この二つが 別物 というのは、ありえないんじゃな…

ジョン・スティルウェル『逆数学 定理から公理を「証明」する』

大学に入った時、まず、最初に数学科で習うのが、解析学と線形代数なのだが、その解析学の教科書として使っていたのが、 杉浦光夫『解析入門1』 解析入門 ?(基礎数学2) であった。そして、この最初の方の章の最後の練習問題で、いわゆる 実数論 と呼ばれる…

B.C.ファン・フラーセン『科学的世界像』

掲題の本は、いわゆる「科学哲学」の文脈で有名な「科学的実在論争」の一つの極である、「反実在論」を代表する一つの立場(掲題の著者はそれを、「構成主義的経験論」と呼んでいる)について説明された、代表的な本である。 この場合、「科学的実在論」とい…

スティーブン・ピンカー『人間の本性を考える(上)』

掲題の本の副題にあるように、この本は、人間の本性が ブランク・スレートじゃない ことを証明するために書かれている。つまり、逆に人間の本性がブランク・スレートだ、と言っている過去の数々の学者の学説が、どのように間違っているのかを証明していく。 …

シャンタル・ムフ『左翼ポピュリズムのために』

昔から「新自由主義」無定義論というのがある。つまり、多くの人が、「新自由主義」という言葉を使っているが、その言葉の定義は、常に曖昧で、それぞれの文脈で使用者が勝手な解釈で使っている、と。一方で、ミッシェル・フーコーにまで遡って「哲学的」な…

I・ブルマ&A・マルガリート『反西洋思想』

私が大学で学生をやっていた頃、よく英語の教科書や論文を読むことがあった。そう言うと、英語の本なんて、そうそう読めないんじゃないのか、と身構えるかもしれないが、案外、複雑な文法は使われてなく、だんだんと、むしろ、日本語で書かれているものより…

デレク・パーフィット「平等か優先か」

パーフィットはこの有名な論文の最初を、ネーゲルが紹介したある例から始める: 彼に二人の子供がいるとして、一人は健康で幸福だが、もう一人はひどい障害に苦しんでいるとする。そこで彼は、第二子が特別な治療を受けられる都市に引っ越すか、または、第一…

エリオット・ソーバー『進化論の射程』

私たちは、スコラ哲学の頃からある「普遍論争」と、現代的な意味での「実在論」を区別しなければならない。 普遍論争においては、そもそも「個物」の「実在」は認めている。ようするに、普遍論争は「実在論」なのだ。しかしそう言った場合、いわゆる「科学的…

マックス・テグマーク『数学的な宇宙』

ここで少し、私の、いわゆる「実在論」と呼ばれるものに対する関心について、それを私の、ここのところの「文脈」に沿って、その流れを説明してみたい。 (まあ、最初と言えば、カンタン・メイヤスーの『有限性の後で』を挙げないわけにはいかないであろうが…

クロード・レヴィ=ストロース「人間の数学」

うーん。あんまり、レヴィ=ストロースについては、よく知らないんだが、ここのところ読んでいた、柄谷行人の雑誌「群像」での連載エッセイ「探究3」の以下の個所について、ちょっと気になっていたので少し調べてみようか、と。 たとえば、なぜ数学によって…

キャロル・キサク・ヨーン『自然を名づける』

私たちが生きていくには、まず「食べられるもの」と「食べられないもの」の区別ができなければならない。なぜなら、それすらできなければ飢えて死んでしまうからだ、これは、たんに「人間」だけの話ではない。 全て の生物がそうなのだ。これは、ある意味、…

トルケル・フランセーン『ゲーデルの定理 利用と誤用の不完全ガイド』

掲題の本は、原書が2005年で、翻訳が2011年ということで、比較的最近書かれ、訳者あとがきを読むと、「この分野の専門家や関係者たちから絶賛されて」と書かれており、ただ、作者は2006年に亡くなられている、ということらしい。 読むと、その「…

フランソワ・ジュリアン『道徳を基礎づける』

孟子の有名な言葉に 今にも井戸に落ちようとしている子供を目のあたりにすれば、誰もが恐怖の渦に巻き込まれ、助けようと手を差し伸べる というのがある。いわゆる「惻隠の情」というやつだが。これを、掲題の著者は「道徳の基礎」と考える。つまり、掲題の…

ローレンス・S・シードマン『累進消費税』

先週の、videonews.com のNコメでの宮台先生は相変わらず、消費税、消費税とうるさいわけであるがw、なんで、逆進性の激しい消費税ばかりを上げたがるんだろうねw さんざん所得税は減らされてきて、法人税は減らされてきて。法人税の増税はグローバル化で…

アンゼルム・W・ミュラー『徳は何の役に立つのか?』

ここのところずっと問題にしている、東浩紀先生の「観光客の哲学」であるが、そこにだれも触れないが、非常に問題が大きいと思われる記述がある。 たとえば少子化問題を考えてみよう。ぼくたちの社会は、女性ひとりひとりを顔のある固有の存在として扱うかぎ…

P・F・ストローソン「自由と怒り」

スピノザの頃から、この世界には「自由はない」といった議論が行われている。つまり、この世界は唯物論的に機械論的に「決定」している、というわけである。 そこで、掲題の著者によれば、どうもこの世界は二つの勢力に分かれるようである。悲観論者と楽観論…

スティーブン・ダーウォル『二人称的観点の倫理学』

そもそも、この本はなぜ今さら「二人称」などということを言い始めているのか。 もちろん、この著者の今までの人生がそこには反映されているのであろうが、端的には、クリスティーン・コースガードの『アイデンティティと義務の倫理学』が関係している。 そ…

ゲアハルト・シェーンリッヒ「尊厳・価値・合理的な自己愛」

カントの実践理性批判を現代的なパースペクティブのもとに再検討をしている人として、クリスティーン・コースガードの本(『義務とアイデンティティの倫理学』)を紹介したことがあるが、この本が興味深いことは、明らかにカントを超えてしまっていて、もは…

バラク・クシュナー『思想戦 大日本帝国のプロパガンダ』

日本の明治以降からWW2での敗戦までの、その「軍事」的な特徴を考えたいわけだが、その前に、この日本というのがなんなのかに言及せざるをえない。 明治・大正時代には、日本人は学校の授業や教育政策を通じてナショナリズムや愛国主義を学んでいたため、…

クリスティーン・コースガード『義務とアイデンティティの倫理学』

進化論は、人間は動物なのだから、進化の「法則」に照らして、「合理的」に行動するものだ、と解釈する。というか、「合理的」でなければ、死んでいた、と。まあ、いずれにしろ、進化によって、人間の「行動」は説明できる、というわけである。 しかし、私た…

ヘルガ・クーゼ「ピーター・シンガーの実践倫理」

よくトロッコ問題というのが言われる。1人を殺す行為をしなければ、間違いなく5人が死ぬ場合、5人を殺すより1人を殺す方が罪は軽いんだから、そっちを選ぶべき、というわけである。 しかし、これは変だ。なぜなら、人がそれぞれの場面で、なにを選択し、…

リチャード・ローティ「予測不能のアメリカ帝国」

トランプの得票よりヒラリーの得票の方が多かったのにもかかわらず、代議員制度のせいで、ヒラリーが負けた。だったらそれは、「一般意思」じゃない、というのは分からなくはない。しかし、そう言うなら、アメリカは国家ではなく合衆国だ、ということなので…

広瀬巌『平等主義の哲学』

フランシス・フクヤマは、ヘーゲルのアナロジーとして、資本主義国の社会主義国に対する「勝利」をもって、資本主義によって 歴史の終わり を語ったわけだが、どうだろう? 資本主義は社会主義になる。事実、そうなっているのではないか? 日本の金融緩和政…

A・A・ロング『ヘレニズム哲学』

以前から思っていたこととして、私には、いわゆる「功利主義」というのは、なにかがおかしいんじゃないのか、と思っている。というのは、「幸福」の計算として、最大多数の最大幸福というわけだが、まずもって、そんなことは可能なのかが疑わしいからである…