海外批評

マイケル・サンデル『実力も運のうち 能力主義は正義か?』

Vtuberの視聴者数ランキングを見ると、ほとんどホロライブ所属が席巻している状態が、かなり前からずっと続いているわけだが、その、ホロライブの動画を見ていて、もしも一人だけ「アイドル」らしいアイドルを挙げるとしたら、港あくあかなあ、と、以下の3…

ヘルマン・クリングス「経験とアプリオリ−−−−超越論的哲学と言語遂行論の関係に寄せて」

(掲題の論文は、私がよく引用する『超越論的哲学と分析哲学』の中にある。) 経験論者がカントを批判する文脈については、前回議論したように、それが トンデモ だから、ということに尽きる。言っていることが、まるで「おとぎ話」のようで、まるで、根拠の…

A・J・エイヤー『言語・真理・論理』

今思い出すと、なぜリチャード・ローティは、あそこまでカントに攻撃的だったのだろう、というのは疑問だ。というのは、彼の主張する、ある種の「アナーキズム」。つまり、徹底した 不可知論=一切の知識の否定 こそ、カントが主張していた 純粋理性に対する…

ロバート・ブランダム『プラグマティズムはどこから来て、どこへ行くのか』

ウィルフリド・セラーズの『経験論と心の哲学』において、本文の前に、リチャード・ローティが「はじめに」という論文を寄稿しており、また、本文の後に、掲題の著者が「読解のための手引き」という解説論文を寄稿している。 そこにおいて、ローティは以下の…

エドワード・ブルモア『「うつ」は炎症で起きる』

私たちがまず「文系」として思い出す分野として「心理学」があるだろう。これについては、最初に、精神分析学の始祖としてのフロイトがいて、その系列に、フランス現代思想を代表する、ジャック・ラカンなんかがいて、多くの人は、そこにはさぞ「高尚」が議…

ディーター・ヘンリッヒ「挑戦者か競争者か」

掲題の論文は、 ヘンリッヒ他『超越論哲学と分析哲学』超越論哲学と分析哲学―ドイツ哲学と英米哲学の対決と対話作者:ヘンリッヒ,D.,ローティ,アーペルメディア: 単行本 という、1992年に出版された、カント哲学に対する分析哲学からの批判と、それに対す…

リチャード・ローティ「人権、理性、感情」

ローティは、ボスニア戦争の時の掲題の論文において、以下の「ムスリム人は人間ではない」というコメントにインスパイアされて、彼の持論を展開していく。 数カ月前のボスニアからの報告のなかで、デイヴィッド・リーフは次のように述べています。「セルビア…

リチャード・ローティ「予測不能のアメリカ帝国」

(この論文については以前にも、このブログでとりあげて、このタイトルで記事も書いているが、改めて、その主張をまとめておきたい。) 最近の videonews.com では、宮台真司先生が、リチャード・ローティの話をとりあげてばかりだ。そして、おもしろいこと…

ロバート・ノージック『アナーキー・国家・ユートピア』

現在、世界中は、新型コロナの問題でかかりきりであるが、少し前まで、アメリカは ティー・パーティー を中心とした、 リバタリアニズム が、まるで「聖典」であるかのように、国中を席巻していた(最近出版されて、本屋でも売っている、ニック・ランドとい…

ミゲル・アバンスール『国家に抗するデモクラシー』

それにしても、福島第一原発事故にともなう「緊急事態宣言」が今だに解除されていないと聞くと、人々は驚くのではないか。もちろん、福島第一原発の爆発した跡地は、今も悲惨な状態であることは間違いなく、まったく、廃炉の目処もたっていないというのが現…

ジョージ・マッサー『宇宙の果てまで離れていても、つながっている』

そもそも、なぜアインシュタインは、あれほど非局所性の 非合理性 にこだわったのだろう? それにはまず、科学の長い歴史を振り返ってみる必要がある。 知的活動者としての彼らの祖先、古代ギリシア人は、宇宙を巨大なビリヤードのようなものとして描こうと…

クリスティーン・ポラス『「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』

前回紹介した本では、人権という概念が国家の統計的な扱いのレベルにおいては意味のある概念であったとしても、私たちの身近な人間関係においては、具体的にどうしたらいいのか、何が人権的でなにがそうでないのかがはっきりしない、といった意味でのアポリ…

マーク・リラ『リベラル再生宣言』

アメリカ政治におけるトランプ大統領の勝利は、世界中を驚かせた。なぜならそれは、人間の 非理性 を象徴しているように思われたからだ。 なぜ、民主党は勝てないのか? それは、ある意味において、日本においても当て嵌るように思われる。なぜ日本の野党は…

G・マルチン『カント----存在論および科学論----』

さて。カントは「どこから来たのか」。この問いは、なぜカントがあのような議論を行ったのかを問うものであるし、なぜあのような「差異」「差分」を示すものだったのかを問うものでもある。 そしてそれは、おそらくは ライプニッツ なのだ。なんだ、当たり前…

ジェームズ・レイチェルズ『ダーウィンと道徳的個体主義』

ところで、前回紹介した、スコット・ジェイムズの『進化倫理学入門』の翻訳は、児玉聡さんという方で、たしか、ちくま新書で『功利主義入門』という本を書いていらして、そこで、 道徳と倫理を「同一視」する ことから、議論を始められていたことを思い出す…

スコット・ジェイムズ『進化倫理学入門』

そもそも、進化論は「比喩」によって、リテラルには、理論が構築されている。つまり、遺伝子が、まるで「意志」があるかのように、他の遺伝子との「戦い」に「勝って」、「生き残ってきた」かのように説明する。つまり、この進化論の最初の基礎的な部分にお…

ジャック・デリダ『精神について』

掲題の本は、デリダがハイデガーに言及した中でも、比較的まとまった論考になっている、ということで注目されてきた。つまり、デリダはハイデガーをどのように評価しているのかについては、例えば、前回紹介したウォーリンの本のような、ハイデガーの仕事を…

リチャード・ウォーリン『存在の政治』

ハイデガーは、直接には、政治哲学に言及していない、とされている。しかし、前期から中期にかけて、ナチへのコミットが深く知られるようになって、本当にそうなのか、が疑われるようになる。普通に考えて、この二つが 別物 というのは、ありえないんじゃな…

ジョン・スティルウェル『逆数学 定理から公理を「証明」する』

大学に入った時、まず、最初に数学科で習うのが、解析学と線形代数なのだが、その解析学の教科書として使っていたのが、 杉浦光夫『解析入門1』 解析入門 ?(基礎数学2) であった。そして、この最初の方の章の最後の練習問題で、いわゆる 実数論 と呼ばれる…

B.C.ファン・フラーセン『科学的世界像』

掲題の本は、いわゆる「科学哲学」の文脈で有名な「科学的実在論争」の一つの極である、「反実在論」を代表する一つの立場(掲題の著者はそれを、「構成主義的経験論」と呼んでいる)について説明された、代表的な本である。 この場合、「科学的実在論」とい…

スティーブン・ピンカー『人間の本性を考える(上)』

掲題の本の副題にあるように、この本は、人間の本性が ブランク・スレートじゃない ことを証明するために書かれている。つまり、逆に人間の本性がブランク・スレートだ、と言っている過去の数々の学者の学説が、どのように間違っているのかを証明していく。 …

シャンタル・ムフ『左翼ポピュリズムのために』

昔から「新自由主義」無定義論というのがある。つまり、多くの人が、「新自由主義」という言葉を使っているが、その言葉の定義は、常に曖昧で、それぞれの文脈で使用者が勝手な解釈で使っている、と。一方で、ミッシェル・フーコーにまで遡って「哲学的」な…

I・ブルマ&A・マルガリート『反西洋思想』

私が大学で学生をやっていた頃、よく英語の教科書や論文を読むことがあった。そう言うと、英語の本なんて、そうそう読めないんじゃないのか、と身構えるかもしれないが、案外、複雑な文法は使われてなく、だんだんと、むしろ、日本語で書かれているものより…

デレク・パーフィット「平等か優先か」

パーフィットはこの有名な論文の最初を、ネーゲルが紹介したある例から始める: 彼に二人の子供がいるとして、一人は健康で幸福だが、もう一人はひどい障害に苦しんでいるとする。そこで彼は、第二子が特別な治療を受けられる都市に引っ越すか、または、第一…

エリオット・ソーバー『進化論の射程』

私たちは、スコラ哲学の頃からある「普遍論争」と、現代的な意味での「実在論」を区別しなければならない。 普遍論争においては、そもそも「個物」の「実在」は認めている。ようするに、普遍論争は「実在論」なのだ。しかしそう言った場合、いわゆる「科学的…

マックス・テグマーク『数学的な宇宙』

ここで少し、私の、いわゆる「実在論」と呼ばれるものに対する関心について、それを私の、ここのところの「文脈」に沿って、その流れを説明してみたい。 (まあ、最初と言えば、カンタン・メイヤスーの『有限性の後で』を挙げないわけにはいかないであろうが…

クロード・レヴィ=ストロース「人間の数学」

うーん。あんまり、レヴィ=ストロースについては、よく知らないんだが、ここのところ読んでいた、柄谷行人の雑誌「群像」での連載エッセイ「探究3」の以下の個所について、ちょっと気になっていたので少し調べてみようか、と。 たとえば、なぜ数学によって…

キャロル・キサク・ヨーン『自然を名づける』

私たちが生きていくには、まず「食べられるもの」と「食べられないもの」の区別ができなければならない。なぜなら、それすらできなければ飢えて死んでしまうからだ、これは、たんに「人間」だけの話ではない。 全て の生物がそうなのだ。これは、ある意味、…

トルケル・フランセーン『ゲーデルの定理 利用と誤用の不完全ガイド』

掲題の本は、原書が2005年で、翻訳が2011年ということで、比較的最近書かれ、訳者あとがきを読むと、「この分野の専門家や関係者たちから絶賛されて」と書かれており、ただ、作者は2006年に亡くなられている、ということらしい。 読むと、その「…

フランソワ・ジュリアン『道徳を基礎づける』

孟子の有名な言葉に 今にも井戸に落ちようとしている子供を目のあたりにすれば、誰もが恐怖の渦に巻き込まれ、助けようと手を差し伸べる というのがある。いわゆる「惻隠の情」というやつだが。これを、掲題の著者は「道徳の基礎」と考える。つまり、掲題の…