グーグル社の女性差別的発言社員の解雇

さて。グーグル社が自社の社員が、女性差別的発言をしたことにともなって解雇をした件については、まあ、当然の結末という印象も強いわけだが、興味深いのは、ある意味、

  • いつものメンバー

が、この議論に参戦している、というわけで、俄然、興味がわいてきたわけである。

グーグルの思想的残響室(Google’s Ideological Echo Chamber和訳) 前編
グーグルの思想的残響室(Google’s Ideological Echo Chamber和訳) 中編①
グーグルの思想的残響室(Google’s Ideological Echo Chamber和訳) 中編②
グーグルの思想的残響室(Google’s Ideological Echo Chamber和訳) 後編
グーグルの思想的残響室(Google’s Ideological Echo Chamber和訳) 脚注

まあ、これがその社内に出回った文書の日本語訳というわけで、まあ、この内容については、今さら言うこともないであろう。これに端を発した解雇について、いつもの、ピーター・シンガー先生が猛然と反論をされているという話で、では読んでみよう。

まず、ダモアの議論は歪んだ主張でもクレイジーな主張でもない。査読付きの科学ジャーナルに掲載された真剣な論文のなかにも、ダモアの主張を支持するものは存在する。
そして、ダモアの主張は重要な問題について論じたものである。採用の際に性差別が働いていることは多くの業界で見受けられることなのだから、自社の社員の大多数が男性であることをGoogleが問題視するのは充分に正当であるし、性差別に対して敏感になり性差別が起こらないように予防に努めることは望ましい。
Google社員の「反多様性メモ」の内容は間違っていたのか? - 道徳的動物日記

...しかし、性差別に対抗する処置が取られた後にも尚、ある業界に努める人の大多数が男性であり続けるとすれば、その男性比率の高さは性差別が原因でないという可能性がある。例えば、その業界で行える仕事が、女性よりも男性にとって魅力的な仕事であるという場合だ。...ダモアの主張が正しいとすれば、(Googleが提供しているような)ソフトウェア・エンジニアリングの仕事は、一般的に女性よりも男性の方が魅力を感じやすい仕事である。そして、男女比の偏りの原因が性差別でないとすれば、採用の際に男性よりも女性を優遇することには疑問の余地が出てくる。
Google社員の「反多様性メモ」の内容は間違っていたのか? - 道徳的動物日記

ここでの前提として、現状において、グーグル社は社員の男女比が依然として、均等には向かっていないことが指摘できる。つまり、この現状を基本的にグーグル社は改善していこうという、会社としての方針をもっているが、掲題の解雇された社員の方は、それは「間違っている」と言いたかった、ということになるのであろう。
しかし、多くの人にとって、この話を聞いて大きな違和感をもつのではないか?

雇用問題を専門とする法律家は、ダモア氏が解雇を不当として訴えても認められる可能性は低いと述べた。また、もしグーグルがダモア氏を解雇していなかったら、グーグル自体が訴えられるリスクがあったという。
グーグル「批判した社員の解雇」は許されるか | ロイター | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

そもそも、グーグル社が社員の男女均等を目指そうとしていることは、そういったことが一般社会の側の「コンセンサス」となっているという認識が最初なわけであろう。社会の公器であろうとするグーグル社が、そういった社会の側の「要望」に答えたいとすることは当然なわけである。
それに対して、ピーター・シンガーやダモアが語っていることは、一つの

  • (科学的な)仮説

に過ぎない。つまりは別の解釈だって、ありうるわけである。

(行き過ぎなくらい)単純に言えば,大学に進めるくらいすぐれた男性は STEM が得意な男性しかいないってことだ.一方,女性は STEM 以外の分野にも STEM 分野にも進めるくらいすぐれている.このため,大学生全体をみると,STEM 以外の分野は女性が多数を占め,男性は STEM 分野で生き延びることになる.
アレックス・タバロック「理系科目の男女差はみんなが思ってるようなのじゃないよ」 -- 経済学101

まあ。これと非常によく似たことを、次の方も言っている。

例の文章の中で、「女性」の特徴として挙げられていたどれもが、エンジニアリングにおいて成功するために一番大事な特徴だということが分かるだろう。だれでもコードを書くくらいできる。そりゃ、L7 階級くらいまで昇進するまでに、技術を基本的に完全に習得していることくらいは求められている。でも、この仕事で本当に難しいのは、そもそもどういうコードを書くのか、どの目的をどの順番で達成するかのはっきりとした計画を練ること、そして、実際にそうなるのに必要な合意を得ることだ。
2017-08-09 - 白のカピバラの逆極限 S.144-3

ようするに、ただのプログラマーだとか、そういった連中は、腐るほど世の中にはいて、そんなことに秀でているから、

  • 優秀

だとかなんとかっているのは、ちゃんちゃらおかしい、ということなのだ。
どうも、私たちは、高校までの「受験競争」という

  • まったく社会に出て役に立たないもの

を、あまりにも、世の中の物差しとして使おうとしすぎなんじゃないだろうか。大学受験の「筆記の能力」というのは、単純に言えば、ただの

  • オタク

だよw こんなの社会に出て、ほとんど意味がない。社会に出て大切なことは、「人と話せる」という常識的な能力なのであって、そういう意味では、上記の指摘の方が、ずっと説得力があるように、私には思われる。

エンジニアリングっていうのは、装置を作る技のことじゃない。問題を解決する技のことだ。装置は手段でしかない。目的じゃないんだ。問題を解決するっていうのは、まず、問題を理解することである。そして、ぼくたちがしていることのまさに目的が、外の世界の問題を解決することである以上、人々を理解すること、そして、つくったシステムと人々がどうやって関わっていくかを理解することが、システムを作るひとつひとつの過程において本質的だ、ということなんだ。
2017-08-09 - 白のカピバラの逆極限 S.144-3

本質的に、エンジニアリングというのは、きみの同僚やお客さんと、協力して、協調して、共感することがすべてだ。もしも、だれかが、きみに、エンジニアリングというのは人々や感情の相手をせずに済む分野だ、といったならば、残念ながらきみは騙されているといわなければならない。一人でできる仕事は、かなり初心者のときにしかない。それも、だいたいは上司だろうけど、だれか上級者が、長い時間をかけてチームの中に、コードを書くのに集中できる組織構造を作ってくれたからだ。
2017-08-09 - 白のカピバラの逆極限 S.144-3

ようするに、なにかを「勘違い」しているわけである。
しょせん、企業とは、なんらかの利益追及を目的とした団体であるに過ぎず、別に、政治団体でも、学者でもない。そういった「政治活動」や「学問活動」がやりたいなら、政治家になるなり、大学に行くなりすればいい。
しかし、ある企業に務める社員が、その企業自体が、自らの社会的公器としての役割に準じて、公的活動をしていこうとしていることに対して、敵対的な態度をとるなら、それは普通に、解雇されるのではないだろうか。というか、嫌なら、自分から辞めればいい。この会社の気風が自分と合わないと思うなら。
それは、グーグルという会社の「主体的」なものがどうこうという前に、たんに「社会の公器」としての役割レベルのものに対してまで、いちいち敵対的に振る舞わざるをえない人間が、そういった会社の中に、居場所を見つけられない、ということなのではないか。
よく分からないのが、この人は別に、今すぐ解雇されそうだったわけでもなく、表立って、こんな「行動」をとらなければ、今まで通りに、エンジニアとしての作業をやれたわけであろう。まあ、普通に仕事をしていれば、一定の収入は確約されていたわけで、サラリーマンの「目的」とは、そこにあるのだから、なんでこんなクーデターみたいな、「目立ちたがり」みたいなことを始めちゃったんだろうね。つまり、なんで、この人は、この会社に入ったんだろうね...。