なぜ「二度目の人生を異世界で」問題は混乱するのか?

うーん。
まあ、今さら言うまでもないが、『二度目の人生を異世界で』問題とされているものについて、私なりに検証してみようかとも思ったのだが、まあ、これも今さら言うまでもないこととして、すでに多くの方が、そういった検証作業をされているわけであり、そこにおいて論点は出尽しているのかな、といった印象を受ける。
ただ、この問題の起点となった、『二度目の人生を異世界で』第一巻の、96歳で大往生した主人公が転生する前の人生がクレジットされる個所の文脈については、まあ、ここが議論の出発点であるだけに、読んでおかなければならないかなと思ったわけであるが、これも知られているのかよく分からないのだが、これが、まんま

で読めるのはどういうことなのだろう? どうも紙での出版は停止されているし、web版では該当個所の削除がされているといったことであったが、この差異は何を意味しているのだろう? あと、漫画版の連載は再開したそうであるが、とりあえず、続いているとのことで、この整合性もよく分からない。
いや。私はこういったことの専門家ではないので、なにが正しいとか、なにが間違っているとかで、神学論争をやりたいわけでなく、とりあえず、なぜ「そうなのか」を、まずは整合的に教えてほしいのだが、一体、こういったことは誰がやるのだろう?
おそらく、本来なら、これはジャーナリストの仕事のはずだ。つまり、フリーのジャーナリストなりが、さまざまな関係者なりに取材をするなりして、この現在の混乱した議論を整理する、というのが筋なのだろうが、いわゆるアニメ化中止を境に、そういったニュース記事としてのこの話題は終わっているようだ。
(例の、南京事件に参加した朝香宮鳩彦王に関係しているとの指摘が、この問題をタブー化している、ということなんですかね...。)
というわけで、以下では、この「問題」を私なりに「まとめ」てみようと考えている。ということで、まずは一次資料的なものの整理というところから始めたい。

  1. ツイッター上での過去の作者のツイート:

これについては、

原作者の差別発言で主演声優全員一挙降板、「二度目の人生を異世界で」アニメ化が台無しに

において、画像ファイルで過去のツイートが見られるようになっている。

  1. 作品の不適切と指摘のあった個所:

これについては、web版「幕間その2らしい」のキャッシュが、同様に

原作者の差別発言で主演声優全員一挙降板、「二度目の人生を異世界で」アニメ化が台無しに

において見られるようになっている。

  1. 作品の不適切と指摘のあった個所に対する作者による謝罪:

これについては、

原作者が「厨国」などとヘイトツイート。アニメ「二度目の人生を異世界で」

において、画像ファイルで謝罪文が見られるようになっている。

  1. 中国でどのように問題となったのか?

まず、個人ブログとして、おそらくネットで一番読まれたと思われる

論点整理:『二度目の人生を異世界で』を巡る議論について

の中で画像ファイルの形で、「ある意見」という形で紹介しています。
また、マスメディア報道としては、

中国人が見たら怒り心頭!?なのにすでに中国に上陸=日本のライトノベルが物議

が私が見かけたものでしょうか。

そこで、以下では、個々具体的な論点に入ろうと思うわけであるが、そのためには、おそらくは上記でも挙げさせてもらった、

論点整理:『二度目の人生を異世界で』を巡る議論について

が、今のところ、人口に膾炙している記事だと思われるので、ここで検討されている個所で、私が気になったところに対して話をするのが、分かりやすいかと考えますので、以下でその旨、検討していきます。

しかしこのブログの内容についての批判が、まず「コメント欄」で繰り広げられています。ここでのブログ主に対するコメント者の批判のかなりの部分は、私の考えに近いという意味で、こちらも一通り読んでもらえれば、と考えます。

当該部分を読む限りにおいて、「世界大戦に従軍」としか記述されていません。
論点整理:『二度目の人生を異世界で』を巡る議論について

ここで画像で引用されている「幕間その2らしい」の該当個所のすぐ前で、以下のような記述があります:

15歳より、武者修行と称し中国大陸へ渡り黒社会で活動。
刀一本で大人数へ切り込み、生還する様から「剣鬼」の異名で呼ばれる。
黒社会活動中の殺害人数は5年間で912名に及ぶ。
原作者の差別発言で主演声優全員一挙降板、「二度目の人生を異世界で」アニメ化が台無しに

これに対して、以下の記事では:

第二次世界大戦で剣を使って殺戮......となると「百人斬り」が思い浮かぶのはもちろんですが
原作者の差別発言で主演声優全員一挙降板、「二度目の人生を異世界で」アニメ化が台無しに

と上記の記述が「百人斬り」を連想させるものであることが強調されているわけだが、なぜこの論点をこのブログ主は「シカト」したのだろう? おそらく、この「黒社会」という表現から、あくまでも裏社会の人間の間の「ヤクザ間の抗争」といった連想から、「中国の一般市民は殺していない」と解釈して、無視可能と考えたのではないか?
しかし、思い出してほしいのは、原作者はどのように謝罪をしたのか、というところなわけである。

本作の一部表現が不適切な内容であるとの指摘を多数いただきました。この件に関して、自らの拙い文章表現と軽率な発言により、不快感を与える文章となってしまっていたことを、深くお詫びいたします。
原作者が「厨国」などとヘイトツイート。アニメ「二度目の人生を異世界で」

問題はここでの「軽率な発言」が何を意味しているのか、にあるわけであろう。つまり、この炎上の文脈から明らかに、上記における「中国のネットでの反応」に謝罪をしている。
中国の若者向けの出版物として販売するものに、このような「(中国の土地で行われた)百人斬り」をまるで肯定しているかのように読める(主人公の過去の行為として、別に、この作品内で批判的に紹介されているわけではないですから)、こういったものが存在していいのか、と議論されたわけであろう。つまり、黒社会だから、おそらく一般人は殺してないだろうから、とか、そういった文脈で中国のネットの文脈はなっていない。つまり、このブログ主の論点と、今回の謝罪騒動がずれてしまっている印象を受ける。

94歳死亡という設定から、南京攻略戦に参加した朝香宮鳩彦王を仄めかしているというのは、あまりにも牽強付会というべきでしょう。
論点整理:『二度目の人生を異世界で』を巡る議論について

登場人物の没年齢にまで気を使え、というのは過大な要求です。
論点整理:『二度目の人生を異世界で』を巡る議論について

これは上記の「百人斬り」問題とほとんど同じように受け取れるわけで、ブログ主は、あくまで自分の感覚として「これはあまりにも牽強付会だろう」と思ったから、そう言っているのだろうが、もう一度、原作者が謝罪した、「軽率な発言」について考えてもらいたい。ここで「軽率」と言っているのは、こういった中国のネットの批判の文脈に合わせて行われたと考えるなら、当然この「94歳」という数字を「選択」したことも含意している。つまり「軽率」というのは、ある意味で、作者は自らこの年齢を選択したことは「意図的」だったことを認めているわけであろう(違うなら「誤解です」と言えばよかったわけで)。よって、「没年齢に気を使え」じゃなくて、知ってて、この年齢を使った(そう読者に解釈してほしかった)と受け取るのが自然なんじゃないでしょうか?(このことは、この後に述べる、南京事件の数字の仄めかしについても、同様と私には思われますが。)

南京大虐殺や殺人試合を仄めかす」という描写については、私は1巻を読んだにすぎないのですが、書籍版でそのような記述は見当たりませんでした。
論点整理:『二度目の人生を異世界で』を巡る議論について

ここが一番の違和感のあるところであり、かつ、コメント欄で論争もされているところなわけですが、ようするに

その後、世界大戦に従軍。
4年間の従軍期間中の殺害数は3712名、全て斬殺。
原作者の差別発言で主演声優全員一挙降板、「二度目の人生を異世界で」アニメ化が台無しに

とあるわけで、

斬り殺した「3712人」という数字も、南京事件が起きたとされる「1937年12月」を想起させるもの。
原作者の差別発言で主演声優全員一挙降板、「二度目の人生を異世界で」アニメ化が台無しに

と中国のネットにおいて受け取られたから、この個所の記述を、中国のネットは「南京事件を仄めかす」ものとして受け取られた、というのが基本的な流れなのでしょう(確かに、ここでの中国のネットの反応として紹介されている記述は、原作にないデマで、尾ひれがついて記述されているわけだが、別にこのブログ主は、この中国のネットの反応しか見ていないわけではないわけでしょう?)。というか、なぜこの数字の問題を、あえてこのブログの本文でブログ主はとりあげなかったのだろう? コメント欄にあるように、とりあえず自分の意見はあったとしても、それを本文で記述していれば、少なくとも、今回のこの中国でのネットの反応と「南京事件」が少なからず関係していた、ということは、このブログを読んでいる読者には伝わったわけで。
正直に言わせてもらうと、私は最後まで、このコメント欄でのブログ主の反論がまったく成功しているように思われなかった。
このブログ主自身が、コメント欄で「8・6秒バズーカ」が「原爆」であり「広島」を想起させることの例を挙げているが、この作品のこの該当個所での、96歳、中国大陸、世界大戦、といった文脈で「3712」という(これだけ具体的な)数字がでてきたら,さすがに南京事件を仄めかしていると受けとるし、事実、中国のネットはそう受けとって、それに対して、作者は「軽率な発言」として謝罪をしているわけですよね。つまり、作者はこの数字と、南京事件の関係を認めたから謝罪をしたんじゃないんですか?
あと、一点だけ、どうしても違和感をもつのが、

記事は、「さらに衝撃的なこと」として、「中国人が見たら怒り心頭のこの日本のライトノベルを、中国国内の某サイトが読めるようにしていた。その上、日本では、今年10月にテレビアニメ化されるという」と伝えた。
中国人が見たら怒り心頭!?なのにすでに中国に上陸=日本のライトノベルが物議

とあるように、基本的にこれは中国の「国内問題」として、まずは受けとられたんじゃないんですかね? こんなものを、中国の若者が、なんの注釈もなしに読んだら、大きな誤解を若者の間に広げてしまうんじゃないのか、といったように。
おそらく、そう考えれば、現在の web版の指摘個所の削除、紙版の出版停止、電子書籍だけは継続の、といった対応は合理的に思われるわけで、一つの整合的な「理由」を説明しているように思われるのですが...。

最後に、まとめ的なことを書こうかとも思ったのですが、案外に自分の言いたかったことが、とりあえずは上記でまとまったかと思われますので、蛇足はなしで行きたいと思います。