みゆはん「エチュード」

アニメ「八月のシンデレラナイン」は、以前からスマホゲームの方の展開が続いてきて、今回のストーリーは違っているようだが、アニメ化となっている、ということのようだ。
こんな、ただ野球をやっているだけのアニメのなにがおもしろいんだ、と思われるかもしれないが、第一話から引き込まれるものがあった。

  • 宇喜多茜(うきたあかね)

である。彼女は完全に、運動オンチで、野球に向いていない。というか、スポーツに向いていない。しかし、主人公の有原翼(ありはらつばさ)は、自らが作ったばかりの、硬式野球同好会に彼女を当たり前のように誘う。
野球は、少し他のスポーツとは違った性格をもっている。
それは、特に、攻撃においてあらわれる。つまり、誰でも9回のうち、一回は、打席が回ってくる、ということである。つまり、確実にスポットライトに当たる、ということである。
茜は、翼に誘われて、小学生相手の草野球に参加する。まったく、野球なんかやったことがないのに、である。これが

だ! まったく野球をやったことがなく、少し前に、少しだけキャッチボールをやって、まだ少しボールが怖いと思っている間に、目の前に飛んできたボールを拾い、野手に向かって投げ、結果、走者をアウトにしたことで、少し彼女の野球への安心感が増す。
さて。第一話の、茜の、ファーストインパクトに対して、第4話は、

の問題となる。中学時代、リトルシニアのトーナメントの準決勝で、東雲は翼のチームと対戦して9回の翼の逆転ホームランで負けていた。高校に入り、地元のクラブチームのオーディションに挑戦しようとしている東雲は、同好会を作って、素人と「ごっこ遊び」をやっているだけに見える翼を軽蔑していた。
オーディションの当日、バックネット裏には、東雲を応援しようと集まった、その同好会のメンバーが彼女を

  • 応援

していたことに、東雲は驚くと同時に「やめてくれ」という感情を抱く。

翼:フレー、フレー、東雲。がんばれ、がんばれ、東雲。これから、これから、東雲。
東雲:やめてよ、ちょっと。
翼:やめない。
東雲:どうして?
翼:わたしみたいに、あきらめてほしくないから。
東雲:え?
翼:わたしは一度、わたしの野球をあきらめちゃったから、前に進もうとしれいる東雲さん、すごいなって思ってる。一緒に野球できなくても、どこまでも東雲さんの野球を精一杯続けてほしい。だから、応援したい。がんばれー。
(アニメ「八月のシンデレラナイン」第4話)

こういった特徴は、サッカーなどとは極端に違った印象を受ける。サッカーは、完全に、うまい人、足の早い人の独壇場で、応援する女の子も、そういう目立つヒーローの男の子しか目で追っていない。ところが野球は違う。上記で述べたように、必ず、バッターボックスに入り、全員がスポットライトを浴びる野球は、そもそも「みんな」を

  • 応援

するスポーツであるところにこそ、その本質があるように思われる。
そもそも、野球とは、そういった意味で、むしろ

  • 応援

の方にこそ、このスポーツの「主体」があるんじゃないだろうか。つまり、主役は選手じゃない。応援があるから、だから、この試合は成立したし、なんらかの意味をもちえた。優れて、倫理的なスポーツだ、ということになるのだろう...。
さて。掲題の曲はオープニングなわけだが、この第4話と強くシンクロしているように思われる:

夢をあきらめないで
この背中 翼が生えた気がしたよ
呼ぶ声がする 他に何も聞こえない
みゆはんエチュード」)

今回もオーディションに失敗しそうな雰囲気になってきて、絶望を感じ始めて、殻に閉じ込もろうとしていた東雲の耳に、はるか遠くから、彼女を呼ぶ声、翼の声が聞こえてくる。
フレー、フレー、東雲。がんばれ、がんばれ、東雲。これから、これから、東雲...。