袁静『中国「草食セレブ」はなぜ日本が好きか』

私たちは、つい最近まで、中国は

だと思っていた。そして、多くの人たちがお金に困って、借金をしていて、まさに

  • 先進国

の私たちが「助けて」あげなければならない、と考えていた。
ところが、である。
私たちのこういった「先入観」は、もう少し見方を変えなければならないのではないのか、と思われてきたわけである。

中国は日本人には想像もつかないほどの格差社会で、資産が一兆円を超える超富裕層までいます。でも、彼らは数が少ないうえに、欧米志向が強い(だから、「レクサスでいいか」という発想になるわけです)。
一方、ミドルクラスの人たちは数が多い。多いと聞いて、日本の感覚で考えてはいけません。彼らの数は、日本の総人口より多いのです。何をもってミドルクラスと考えるかは諸説ありますが、最近よく目にするのは3・5億人という数字です。

かつての中国では、家も土地もすべて国家の所有物でした。そこに「商品住宅」という言葉が登場したのが1980年代のなかば。都市によって違いはあるのですが、だいたいこのころ、不動産の「使用権」を売買できるようになった。70年間という期限付きではあるものの、住宅を所有できるようになったのです。
それまで住んでいた住宅は、国から支給されたものでした。当時、そこを百数十万円で買う権利がたえられたのです。それがいまや、上海や北京なら数億円になっている。中心部の一軒家になると、数十億円出さないと買えません。

一人っ子政策が1979年に始まっていますから、八〇後も九〇後も基本的に一人っ子です。だから相続争いがありません。親の家は、いずれ子供の家になる。親が2〜3軒もっているなら、生前に1軒だけ贈与してもらってもいい。
中国はいまのところ相続税贈与税がないので、バブル時代の日本のように、臨みもしない地価高騰のせいで相続税が払えず、泣く泣く先祖代々の家を手放した、なんて事態が起きません。お金持ちはずっとお金持ちなままでいられる、不動産価格は上がれば上がるほどうれしいのです。

あのさ。中国人同士で助け合えばいいんじゃね? なんで、日本人が助けなきゃなんねえの? だって、明らかに、散財の限りを尽している

  • 富裕階層

がいるんだろ? なんで、そんな奴らをそのままにして、中国はまだ「発展途上国」だから、国連から優遇されなきゃならないだとか、日本やアメリカは、中国の貧困層を「救う」ために、お金を恵まなければならないとか、そういう話になっているの?
あのさ。これと似たような構造になっているのが

  • アフリカの飢えて死にそうな子供たち

なわけでしょ?
あのさ。
私たち日本人にとって、中国って、あくまでも「漢籍」の中の中国なんだよね。つまり、そこには「モラル」があるわけ。だから、当然、本場の人たちも私たちと同じなんだろう、と考えてきた。しかし、実際にそこにあるのは、明らかに

  • 資本主義によって格差が拡大された

人間たちの、生々しい実態なんだよねw

「身体髪膚(しんたいはっぷ)これを父母に受く。 あえて毀傷(きしょう)せざるは孝の始めなり」
日本でも有名なフレーズですが、『孝経』の一節です。自分の体を傷つけないのが親孝行の第一歩だというのが、中国人の伝統的な考え方でした。だから、「魏志倭人伝」の時代、顔や体中に入れ墨をしている日本人を見てビックリしたわけです。おそらく「孝の観念すらない野蛮な連中だな」と思ったことでしょう。
五〇後や六〇後には、まだそんな感覚が濃厚にあると思います。「顔をいじくるなんて、絶対にやっちゃいけないことだ」と。私たち七〇後になると、そういう感覚は薄れてきますが、少なくとも人前でもちだす話題ではないと思っている。隠れて整形をしたとしても、あまり人に語るものではないと。
ところが、八〇後九〇後になると、そういう感覚まで消えてきている。むしろ自慢すてくる人が多いのです。

日本の小学校では、子供たちがほうきや雑巾で掃除をします。あの光景も、中国人にとってはショッキングです。掃除というのは「掃除をやる人」がする仕事だと思っている。そもそも自分がやることだと思っていないのです。
八〇後や九〇後が日系企業に就職してカルチャーショックを受けるのは、入社初日に、まず掃除を教えられることです。給湯室に連れていかれて、洗剤の説明を受けたりする。自分は大学を出たホワイトカラーだと思っているので、なぜ「清掃員の仕事」をやらされるのか、まったく意味がわからない。
もちろん、つとめているうちに、日本の会社ではハーバード大学を出ていても、新入部員は掃除をするものなんだと理解します。そういう姿勢が、いずれは仕事につながるのだと。でも、最初は屈辱的な気分になる。
日本の会社の場合、大企業の社長でも作業着を着て工場に入り、油まみれになったりします。それが格好いいと思われているし、そういう人でなければ部下がついてこない。でも、中国は違います。社長は立派なスーツを着て、社長室にふんぞり返っているもの。作業着で油まみれになっていたりしたら、「なんだ、その程度の男か」とみなされ、誰からも尊敬を受けなくなります。人が離れていく。

なんだろう。中国って、一人っ子政策や改革解放路線によって、極端に資本主義化が進んだことで、なんらかの

  • モラル

がなくなっていったのだろう。実際、私たちが中国から学んできた倫理とは

であり、「論語」ですからね。もう、その頃の中国は、今の中国にはないわけだw みんな、資本主義化していき、お金持ちはどんどんお金持ちになり、貧乏人はどんどん貧乏人になる。そして、この「階級格差の拡大」を誰も止めようとしない。共産党は、社会主義なんだから、なんらかの意味での

  • 平等

を目指したはずなのに(だからこそ、多くの日本人も「尊敬」していたはずなのに)、今ではこの「体たらく」というわけである...。