ここのところ、東京の新型コロナの感染拡大に伴って、地方にも、少しずつ感染者が増え始めていて、いろいろと、有識者が発言を再開し始めている。
私がまず、興味をもって視聴した動画は、以下の児玉龍彦先生と、児玉先生の研究に資金的サポートをしている、村上世彰さんを迎えた、以下の会見だ。
「新型コロナウイルス」(33) 児玉龍彦・東京大学先端科学技術研究センターがん・代謝プロジェクトプロジェクトリーダー/ 村上世彰・一般財団法人村上財団創設者2020.7.3
ここで、まず児玉先生は、以前から先生が発言をしている、交叉免疫についての影響が、たとえ日本においてあったとしても、
- 暴露量が多い
場合には、感染の拡大はそれと関係なく起きてしまう、と述べられている。ところが、村上さんは、西浦先生の「42万人」が間違っているという文脈で、その理由として
- 交叉免疫
を挙げられている。まあ、普通に考えて、お互いの言っていることは「矛盾」しているんじゃないのか、と思うわけだが。ただ、この動画が私に興味深かったのは、なぜ村上さんが、ここまで、日本中の病院に、新型コロナ研究に対して、資金援助をしているのかの説明で、その
- 経済への影響
を挙げられていることだ。つまり、言うまでもなく、都市閉鎖をすれば、膨大な失業者が生まれ、最終的に、自殺者の増大になる。そういった「動機」から、その「研究」に、お金を投資することによって、この経済への影響を縮小したい、という動機があったのだ、と言う。
これに対して、児玉先生は、無症状患者が回りに感染を広げる
- メカニズム
の解明が、どこまで経済活動の再開を可能にするのかの、科学的知識を提供する、と考え、この研究に、日本中が全勢力をあげて、研究に取り組むべきだ、という見解を示す。
つまり、ここではなぜ、東アジアにおいて、比較的、新型コロナによる死者が少ないのか、の「評価」が、今後の政策に決定的に関わっている、という認識がある。
まず、基本認識として、日本は特に、東京は人口密度も高く、「高齢者」の割合も高い「先進国」であるため、一般に考えると、非常に
- 新型コロナに弱い
ということが推定される。ところが、今までのところでは、東京はニューヨークになっていない。なぜなっていないのか、の理由として、もしも、山中先生が言っていたように、日本には「ファクターX」があるのなら、日本はアメリカやブラジルのようにはならない、ということなのだから、基本的に日本の感染防御政策は、少なくとも
- アメリカ並みまでやる必要はない
といった解釈ができる、ということになる。しかし、そうではなく、こういった日本の死者数の少なさも、あくまで、
- 日本の保健所を中心とした、先先を読んだ、積極的な感染対策
の「成果」だと考えれば、
- 日本「も」、ひとたび警戒を緩めれば、「アメリカ並み」になる
という推測ができることになり、まったく、感染拡大の警戒を緩めてはいけない、ということになる。
さて。以下の、西浦先生と山中先生の対談は、この「ファクターX」を巡る、上記の、日本の感染対策をどのレベルにすべきかが、まさに論点になって、議論がかわされている。
西浦:致死率についていうと、年齢別でみていくと、海外の例をみても、日本の死亡リスクが海外より低いかというと、そうでもなさそうなんです。
本編 JCS2020 記念対談「新型コロナウイルスの流行における意思決定 〜未曾有の状況
西浦:一方、先生がおっしゃっているような、ファクターXというような、なんらかの日本の人たちが感受性が低い、つまり、感染しうる能力自体がそもそも低い可能性というのは残っていると思うんですけど、まだ明確にこれであるというのは、研究中で特定されていないと。
本編 JCS2020 記念対談「新型コロナウイルスの流行における意思決定 〜未曾有の状況
西浦先生は、基本的には、専門家会議と同じく、日本とヨーロッパやアメリカとの違いはなく、日本の死亡者が少ないのは、保健所を中心とした、前へ前へと積極的にクラスターを潰す戦略が大きい、という立場である(ただし、スーパースプレッダーからの二次感染の大きさの違いは、なんらかの違いがあるかもしれない、とは言及されている)。
それを前提として、山中先生の言うファクターXとして、東アジアがヨーロッパやアメリカより死亡者が少ないことについては、いわゆる交叉免疫については、そもそも日本において見つけられていない、ということを指摘した上で、(あまりありそうではないが、と断りながらも)ある可能性について指摘されている。
西浦:今のところ、明確に交叉免疫がありそうな免疫を日本人がもっているというようなデータは出てないです。可能性があるとすると、実は逆なんじゃないかな、ということを最近は研究者間で言っています。どういうことかというと、季節性コロナウイルスと、細胞性免疫で認識が共有されることがあるみたい、ということまでは分かっているんですけど、それで、アジアだけで流行していないというのは、なかなか、なさそうにも思うんですけど、もしアメリカ側が免疫を部分的にもっていて、アジア側がもっていない、というようなケースというのが、今みつかっていない理由になりそうな可能性があると思っています。あの、ADEといって、antibody-dependent enhancement。誤作動が起こる免疫が、コロナウイルスでは、犬とか猫で起こることが知られてるんですね。
本編 JCS2020 記念対談「新型コロナウイルスの流行における意思決定 〜未曾有の状況
このADE(抗体依存性増強)については、むしろ、児玉龍彦先生が、
- ウイルスの開発
が、いかに難しいか(ほとんど全ての日本人にウイルスを接種させたときに、ほとんどの病気でない日本人が、これで「病気」になるんだったら、誰もウイルスを接種しない、という理由で)、という説明として語っていた記憶があるわけだが、まあ、いずれにしろ、これが「ファクターX」を説明するのかどうかは、あくまで、仮説というわけである。
ところで、(ここで始めて掲題の話に入らさせてもらうが)世の中的には、いわゆる
- K値モデル
なるものが、いつの間にか席巻している、なんてことになっているようである(大阪府知事が言及していたことは知っていたが、大臣までが、これに言及していた、ということのようである)。
K値というのは、大阪大学の物理学の中野貴志先生が提唱したもののようで、以下のサイトに、その内容がまとまっている。
- どこの国でも、この感染曲線が「似た」形状になる
というところから、この曲線を
- できるだけ少ない数のパラメータ
で表現する、という目標から導き出された理論ということになる(ここで、できるだけ少なくすることの理由は、その方が「予測」を行う上では、便利だから、ということ)。
ちなみに、以下のブログでは、このK値について、西浦先生の言及が紹介されている:
まあ、言っている内容は、この「現象」は興味深いけれど、これを研究に使うという考えはない、という穏当な回答という感じだろうか。
このK値モデルは、上記のブログでも検討されているが、以下のような特徴がある:
- これは、完全な「マクロ理論」で、どうやって感染が広がるのか、といった「ミクロ理論」を一切もっていない。
- しかし、そうでありながら、SIRモデルなどの、「ミクロ理論」を内包したモデルで、ここまで、各国のグラフを表現できるものは、パラメータによってはありえても、「ここまで簡単な」形ではないわけだから、そういう意味での興味深さはある。
しかし、そもそもSIRモデルは、パラメータが人々の「接触率」というミクロな具体的な状態が反映しているとされているわけで、ここに政策とモデルとの「関係」がはっきりしている、ということを考えると、そもそもK値モデルというのが
- 何を予言しているのか?
というのが、よく分からない印象を受ける。
ネットでも、いろいろの方がコメントされているが:
中野先生からのアップデート。昨日の集計間違いがありましたが、ドンピシャ予測値です。今日はわずかにずれてます。東京都の積極調査の影響がわずかにでていると思われます。近隣県の感染者としてカウントされるので。8府県では昨日辺りが新規感染者ピークとの予想。あと1週間でわかると思います。
@takavet1 2020/07/10 22:11
阪大中野先生のK値予測最新版です。昨日の数に修正がはいりました。朝パラで解説します。感染者の数字は過去の状況をしますものです。現在がどうなっているかわかりませんので、首都圏はどんちゃん騒ぎはやめるようにお願いいたします。もう少し様子を見て下さい。
@takavet1 2020/07/11 06:20
あれ?
7/9にピークアウトするんじゃなかったんですか。
そもそも、どのタイミングでどう行動変容するかで、将来は変わってくるのだから、K値とやらで未来予測ができる根拠はどこにもないと思います。
@katukawa 2020/07/11 07:52
K値にしがみつくのは社会に対して悪い影響を及ぼす可能性が極めて高い(もともと「K値」は減衰する方向にしかベクトルが向いていないので、増加局面の予測については何の役にも立たない)のでそろそろおやめいただきたいのだが・・・
@ktgohan 2020/07/11 12:56
あのさ。
そもそも、「予想」が合わなかったからって、
- パラメータを「変えて」
合うようにしたら、それ「予測」としてダメでしょうw
宮沢先生は、こんな「うらない」レベルのことを続けるんでしょうか? それでも、これで人々の「危険厨」としての反応が柔らぐなら、これがどんなに
- トンデモ科学
であっても「有効」とかいうような、まさに
- 御用学者
がやっていたような行為を、これからも続けるんでしょうか?
なぜK値モデルが、各国の感染者のグラフと一致するのか? それこそ
- マクロ理論
なわけで、おそらく、さまざまな「隠れた」理由がある(日本でいう、保健所の能力の閾値のようなものから、なにから)。
(そもそも、こういった「相関関係」が指摘されることは、あらゆる分野で起こりうることで、だからといって、本当にそこに「意味」があるのかは、多くのケースを精査していかなければならないわけで、実際、もっと分かりやすい「例外」がでてくるかもしれないわけで、学問とは、そんなに簡単じゃないのだ...。)
しかし、そういったことと
- 未来予測
は全然違う話であることは、当たり前なんじゃないか? なぜ宮沢先生は、こんな「トンデモ科学」的な議論にコミットメントしているんでしょう...。
追記(07/13 00:30):
まあ、今後もいろいろと批判が広がっていくんじゃないかと思うので、それをいちいちとりあげていくことまでは考えていないが、とりあえず、もう一つツイッターから:
この記事のおかげでK値のことが理解できました。
まさか大阪の4月のグラフ、総累計も4/1を起点にしていたなんてずさんなことをしていたとは気づきませんでした。
これは緊急事態宣言の自粛に効果がないという結論を導き出すためだけに作られたグラフです。K値は随分問題のある指標です。
完全に理解しているわけではありませんが、おかしいと思う所をまとめました。
K値について調べてみました。
K値について調べてみました|臨床獣医師の立場から
@tatsuharu2020 2020/07/12 20:25@morecleanenergy 2020/07/12 23:16
頼みますので、ほんと社会に与える実害がとんでもないんで、こういった、特に、同業者の方たちで、こういった学者への「相互批判」での「自浄作用」をお願いしたいですね...。
追記(2020/07/15 14:21):
あーあ。
K値提唱の中野教授、「犯人は10代~20代、もしくは30代~40代、または50代以上の人物」みたいなこと言い出したな(´・ω・`)
>「シナリオは『すでにピークが過ぎているパターン』か、『これからピークが来るパターン』の2通り」
大阪のコロナ第2波、K値の中野教授「収束か増加かこの数日が鍵」(Lmaga.jp) - Yahoo!ニュース
@tomo_hiko 2020/07/14 22:42
だそうですorz