GoToトラベルと新型コロナの相関関係

新型コロナの今の第3波については、第2波と同様に、医師会によるアラートによってまず、マスコミの報道の拡大が始まった。
結局、冬場はそもそも例年、新型コロナがなくても、病院は大忙しなわけで、そこに、新型コロナがここまで広がって、医療崩壊が懸念される、というのは、今日までの感染者の増加を考えれば当然なのだろう。
そして、そこで、議論の一つのテーマに、

  • GoToトラベル

があった。なぜこの政府の政策が問題とされるのかについては、当たり前だが、この第3波が

  • 全国への拡大

を示していることと関係している。
例えば、東京都医師会の尾崎会長は、以下の動画で、ちょうど東京がGoToトラベルを開始して2週間後くらいから、「全国」の感染者が増加を始めている「ように見える」という形で、グラフを示して議論をしている。

https://www.youtube.com/watch?v=sXiX2d1JHiE

しかし、そこで一つ、気持ち悪い言い方をしている。それは、つまり「その因果関係が示されたわけではないが」というような注釈をしていることだ。
なぜ、そんなことを言っているのか? それについて、以下の西浦先生のニュース記事が分かりやすい。

厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの第14回(11月19日)会議で、資料3(参考資料)として、内閣官房内閣府が作成した資料(題:「航空旅客数と感染者数の増加には統計的な因果関係は確認できない」)が公開された(資料は、厚労省のホームページ)。
この参考資料は、以下に記すようにアドバイザリーボード会議では明示的に出すべきでないという議論があったものである。会議資料として公開されたのは事実であるが、まるでこの資料をアドバイザリーボードが認めたと捉えられることは同組織の信頼あるいは科学的な分析能力を毀損しかねないものであると認識している。
「GoToトラベル」と感染拡大の因果関係について考える(m3.com) - Yahoo!ニュース

ようするに、アドバイザリーボード会議に厚生労働省が作成した論文が提示された。つまり、それが「因果関係はない」ということを主張する内容だった、というわけで、当事者の厚生労働省が「因果関係はない」と主張しているから、尾崎会長も、あんな言い方をせざるをえなかった、というわけである。
それに対して、西浦先生としては、この論文の主張は認められない、と言っているわけである。つまり、これをアドバイザリーボード会議のコンセンサスとして発表することは認められない、というわけである。
ということは、西浦先生は「GoToトラベルは地方の感染拡大に因果関係がある」という主張だ、ということになる。そして、今、その内容の、査読付きの論文の作成を行っている、と語っている。

  • 1.GoToトラベルの使用者(旅行者)あるいは被使用者(宿泊施設等の事業者)の間で感染を認めた(キャンペーンがなければ感染は認めなかった)
  • 2.GoToトラベルという政策を通じて旅行関連感染者数*が増えた(キャンペーンがなければ増えなかった)(*ここで旅行関連感染者とは、便宜的に発病前7日以内に他の都道府県との境をまたいで移動した履歴があり、当該移動先での感染であった蓋然性が高いと考えられるものを指すこととする)
  • 3.GoToトラベルという政策を通じて(地域などで)流行が起こった(キャンペーンがなければ起こらなかった)

「GoToトラベル」と感染拡大の因果関係について考える(m3.com) - Yahoo!ニュース

西浦先生の主張は明確だ。厚生労働省の論文は、そもそも「ためにする」主張に過ぎない。つまり、たかだか、上記の1について語っているに過ぎない。もっと、3まで含めれば、

  • 常識的に考えても

つまり、二次的な影響まで考えれば、明らかだ、と言っているわけである。ただし、そういった二次的な影響については、どうしても証拠能力としては弱くなってしまうことは否めないが、と。
では、厚生労働省はどのような理論武装で、この因果関係が不成立になりうるのか、と主張しているのかが以下だ。

上記の「移動をしたら感染者が増加するのは自明」なのは感染防御をしない時のことであり、移動先で感染しない行動を徹底することや予防策の詳細をカスタマイズしたガイドラインを通じて各セクターで努力をする挑戦をしたのだと私は理解している。
「GoToトラベル」と感染拡大の因果関係について考える(m3.com) - Yahoo!ニュース

つまり、参加者各個人が「努力」をすれば、問題は起きない、と考えた、というわけである。
そもそも、新型コロナは、症状発症の2、3日くらい前が一番感染力が高く、発症の5日くらいまで感染力が続くと言われている。そのため、エターナルマスクということが言われ、全員がマスクを着用することが求められている。
(これに対してクラスター対策というのは、発症者に対して、その濃厚接触者を探して、そういう人が発症する前に隔離してしまおう、という考えですね。)
そう考えると、旅行中に無症状で、元気であることは、回りの人に感染させないことを意味しない。
しかし、もっと大事なポイントがある。それは、

  • 地方の医療設備は、東京など比べものにならない位に脆弱だ

ということである。つまり、ほんとに数えるほどの、少ない数の地元の人に、東京からのウイルスが感染したとしても、そのインパクトは、東京のそれとは比べものにならない、ということなのだ。
しかも、冬場はただでさえ換気が不十分になり、乾燥して人々の免疫力も下がり、感染が広がりやすい条件がそろっているわけで、そこに、ほんの少しの火種でも投入されれば、またたく間に広がりかねない懸念がある。
以下のブログの方が、11月23日までの、東京の第3波の感染地域の時間推移を視覚化してくれている。

心配なのは感染が都心&副都心から23区外縁部に至っていることです。2015年の統計データから75歳以上の高齢者の人口比を示すグラフを作成したところ、やはり外縁部ほど高齢者の割合が高くなっています。
東京で何が起きているのか/第三波のコロナ空間分布 | マスメディア報道のメソドロジー

これを見ると明らかな特徴は、第3波は23区から、その周辺に見事に「均等に拡散」している状況を見てとれる。
よく分からないのだが、ここまで「広がり」が回りに「電波」していく様子を見させられると、ある程度の割合で、空気感染に近い現象は否めないんじゃないだろうか。まあ、特に、冬の今は、換気も難しかったりするわけだから、夏と単純には比較できないように思われるわけで。
まあ、東京でさえがこうなのだから、地方の田舎に、ほんとに確率としては低くても、まさに、「火種」として、ポツンポツンとウイルスが

  • もちこまれて

そこから、人人感染の伝播が始まれば、地方の医療リソースに、それなりの「インパクト」を与えることは自明だと思うんですよね。そう考えると、このGoToトラベル事業は、そうとう、注意深く、制度設計をする必要があったはずで、上記の厚生労働省の、明らかな

  • 御用学者に作らせた

ようなエセ論文で、(原発推進派が全国に原発を作り続けたときのレトリックのような)疑わしい主張がまぎれこんでいる可能性のあるまま、このプロジェクトを正当化することは難しかったはずなのであって、この

の強力な反発の中で、一人声を上げた、西浦先生の学者としての誠実な姿勢にリスペクトを感じるわけである...。