令和の蓑田胸喜

ここのところ、ネトウヨ評論家みたいなことをやっている古谷経衡さんが以下のような記事を書いていることが一部で話題になっている。

news.yahoo.co.jp

つまり、南丹市観光大使として、元ウクライナ大使の馬渕睦夫さんを選んだことに対して、どうも

  • クレーム

を言うために、直接役所に行って「電凸」をやった、という内容のようなのだ。
ところが、どうも古谷さんは、あまり期待した答弁をしてもらえなかったようで、「これ変じゃありませんか?」と世の中に問うている内容だ、と。
まず、古谷さんがなにを問題だと思って「電凸」したのかを示している個所を引用してみよう。

2月24日以降、馬渕氏は開戦前(2014年の、所謂マイダン革命以降等)から同様に陰謀論的世界観を広げ、「ゼレンスキーの背後にDSとユダヤ人がいる」、「ウクライナのロシア軍作戦地域での戦闘被害はすべてウクライナ側の自作自演」、「ブチャ(キーウ郊外の都市)でのロシア軍の虐殺報道は嘘で、やったのはウクライナ側の部隊」などとその主張がエスカレートしている。
news.yahoo.co.jp

南丹市は、2022年3月14日の段階で、”ロシアによるウクライナへの侵略に対して、南丹市議会議長・前田義明氏と南丹市長・西村良平氏の連名で、抗議声明を発表”している(3月2日には市議会が”ロシアによるウクライナへの侵略に抗議し、即時撤収を求める決議”をしている )。それによると、”この行為(ロシア軍による侵攻)は、力による一方的な現状変更を認めないとの国際秩序の根幹を揺るがすもので、ウクライナの主権と領土の一体性を侵害する明白な国際法国連憲章違反であり、断じて容認できるものではない。”とある(全文)。
しかし、どう考えても不思議ではないだろうか。南丹市長と議会議長が「ロシアによるウクライナ侵略」とハッキリ言明して抗議しているのに、それとは真逆の「DSがロシアを攻撃している」「ウクライナ側の自作自演」と陰謀論を展開する馬渕氏を市の文化観光大使に任命することは、市や議会の決意と全く矛盾しているのではないか。
news.yahoo.co.jp

まず、前段で南丹市がロシアによるウクライナへの侵攻に抗議声明を発表した、という事実はいいでしょう。問題は次で、

  • それとは真逆の「DSがロシアを攻撃している」「ウクライナ側の自作自演」と陰謀論を展開する馬渕氏を市の文化観光大使に任命する

つまり、これが「陰謀論」なのかどうかが問われているというより、

といったたぐいの主張を馬渕さんが「している」こと自体を、

  • 観光大使に任命することと「矛盾」している

と言っているわけである。であれば、どう「矛盾」しているのかを論証するのは、古谷さん側のやらなけばならないことだと思うわけだが、彼は

  • 明らか

としか言っていない。つまり、何が問題のなのか、ということについて明確に示していない。

であるなら、「そういった陰謀論というトンデモを言う人はふさわしくない」というなら、(まあこれが「陰謀論」であることを証明する古谷さん側の仕事は残っているが)お気持ち表明としては分からなくはない。
ところが、

  • 彼の主張のどれかが、南丹市の抗議声明と「矛盾」している

と言っているように思われるわけだがら、具体的にどこが「矛盾」なのかを、ちゃんと示すべきじゃないかと思うわけだが、そうしていない。
当たり前だが、戦争なんだから、ロシアだけでなくウクライナ側のも「プロパガンダ」を行っている。そして、

  • ブチャ(キーウ郊外の都市)でのロシア軍の虐殺報道は嘘で、やったのはウクライナ側の部隊

というブチャの虐殺の件などは、まだ検死の結果の発表もない段階での報道に対して疑問を主張する識者もいたわけだし、その後の死体の銃弾の跡の不自然さを指摘する報道もあった。
いずれにしろ、ここで、それぞれの指摘に対して、その真偽を検討したいわけではなく、古谷さんが「どのように」矛盾だと言っているのか、そのロジックをはっきりさせてほしい、と思うわけだ。
そこで、以降に役所の担当の方とのやりとりが記載されている。

―馬渕氏は、ウクライナ侵略については、(ロシア軍が)ディープステートを叩きのめすための戦争をやっている、とずっと主張されているんですけど、このことについてはご存じでした?
広報:はい。その辺は個人さんの意見なんで、うちとしては、どうこうということは無いんですけども。
南丹市ウクライナ支援ということをやっているわけですけれども、馬渕さんが言っていることというのは、市の方針と真逆の事なんじゃないですか。
広報:個人の考え方や思想をですね、考慮して、うちとしてはそこまで考えして任命したわけではないです。
―では、(馬渕氏が)プーチン氏の侵略戦争を肯定しているということを分かって任命したということですか。
広報:いやその、戦争についての肯定否定では無しに、ご本人(馬渕氏)様の経歴だけで考えさせてもらっているだけなので。うちの名誉市民であることと元駐ウクライナ大使というご経歴だけを見ているということなんですね。
―馬渕氏のネット動画や著作での発言について、それを観たり読んだりしたりした有権者が、それを今回のウクライナ戦争の美化とか肯定である、と受け取っていたとしても、それは関係なく経歴だけを見て任命したということで間違いないですか。
news.yahoo.co.jp

まあ、話はこれで終わっているわけだ。広報の側は、

  • 個人の考え方や思想を考慮して任命していない

に尽きている。まあ、そうだろう。そんなことをしたら「思想警察」みたいな話になるわけで、つまり、ある思想傾向をもっている人は、観光大使に選ばれない、という差別をやっているという話になるわけで、けんもほろろに、そういった対応を行われた、に尽きるだろう。
ところが、古谷さんは、これ以降もくらいついていく。

  • 馬渕氏のネット動画や著作での発言について、それを観たり読んだりしたりした有権者が、それを今回のウクライナ戦争の美化とか肯定である、と受け取っていたとしても

最初、古谷さんは

  • 矛盾

が問題だと話を始めたはずなのに、ここでは「馬渕さんの読者がどう受けとったか?」に問題をすりかえている。しかし、話は分かりやすくなった、と言ってもいい。古谷さんは、

といったものが日本社会に広がることを、ある種の「危険思想」として危険視している、わけである。
ようするに、

  • 日本国内に<ロシア寄り><親ロシア><ロシアの味方>と思われる発言をしたり、報道をしている勢力がいること自体が、ヤバい

と言いたいわけだろう。
しかし、である。
もしも「それ」が問題だというなら、これは役所が観光大使に任命したことが問われているんじゃなくて、あくまでも、古谷さん自身の思想的対決が問われているわけで、やるなら、古谷さん自身が、馬渕さんに公開討論を申し込むとか、彼を説得する活動をやればいいということになるわけで、先ほどの「矛盾」と関係なくなってしまう。
古谷さんは「矛盾」が問題だと言ったのだから、何が「矛盾」なのかを示さなければならないはずなのに、役所側がそもそものその前提を受け入れなかったし、それを選考理由にしなかったことで、うまく思った方向に話が進まなかったことに、あせったのか、以下では、かなり強引に相手の主張に反論しようと始める。

―ごめんなさいあの、もう一度確認しますけど、例えばホロコーストを美化している人であっても、南丹の出身と経歴であれば観光大使に任命する可能性が市としてある訳ですね?
広報:えーと、あの、ホロコーストっていうのは。ホロコーストって何でしょうか?
―え?
広報:すみません、私、ホロコーストを存じ上げないもので。
ユダヤ人虐殺ですナチスの。
広報:あー、はあはあはあはあ…。
news.yahoo.co.jp

ネットではこの部分がやたら話されているけど、ようするに、古谷さんがいきなり、なんの文脈もなく「ホロコースト」という言葉を使い始めたから、役所の方としては、それが具体的になんの事件のことを言っているのか、と聞き返しているだけでしょ。
いずれにしろ、後半は完全な「誘導尋問」になっているわけで、やっかいなクレーマーにからまれた、という感じなのでしょう。
この古谷っていう人は、今の日本の「ロシア悪魔論」を信仰して、それに反対している日本の個人やメディアを、こうやって一人ずつ糾弾していって、

  • それを記事にして、飯の種にする

ことを思いついたんでしょう。もちろんそれは、今の日本政府が、その「ロシア悪魔論」を主張しているわけだから、国の方向と同じところを向いているというわけで、「国益」にかなう、と言いたいわけでしょうw
しかし、こういったことはかなりデリケートな話になるわけで、日本は言論・思想の自由があるわけで、だれがどういった思想をもとうが、それを理由に差別されることは許されない。馬渕さんの議論が間違っていると言いたいなら、勝手にそれを言えばいいわけで、馬渕さんへ報酬が払われる仕事を

  • やってはいけない

という形で、邪魔を始めるなら、戦前の蓑田胸喜が大学教授を次々と退学においこんだような、

  • 思想警察

を支援する「民間の自警団」のような活動になりかねないわけで、恐しい話なわけだ...。