アニメ映画「かがみの孤城」

今映画館で放映されているアニメ「かがみの孤城」は、原作はミステリ作家の辻村深月の小説だ。
映画を日曜に見たのだが、けっこう、本格的に「いじめ」をとりあつかっている、というのに驚いた。
映画を見終わった感想は、確かに「いじめ」は描かれているんだろうが、そもそもこの作品は「いじめ」を本気で、正面から描いているのかな、というのが疑いとして思った。
ただ、それについては、パンフレットでのインタビューで辻村深月も似たようなことを言っているんですね。

この場面では、複雑なことを複雑なまま書く、ということを特に意識しました。大人は子どもの現実を知ろうとするとどうしても「いじめ」とか「被害者」「加害者」という言葉を使ってしまいがちですが、この小説では極力それらの言葉を使うことなく、現実に起こるわかりにくさを、どうそのまま伝えるかを大事にしたかった。こころがされたことも、言葉にするとただ「クラスメイトたちが家にきた」とだけ理解されてしまうかもしれないのですが、それが本人にとったらどれだけ怖くて決定的なことだったのか、本人の言葉でしか語れない複雑さがあるんですよね。そのためにはとても長い説明が必要だし、わかりやすい言葉に頼ることでこぼれ落ちてしまうような繊細さを描けるのが小説や物語のよさだと思っています。そのため、誰が善、誰が悪という書き方もなるべくしないように心がけたつもりです。

主人公の女の子の「こころちゃん」を「いじめ」ているクラスの女の子の真田は、この映画を見ていると、かなり強烈な言葉を使っている。「死んでしまえ」みたいな。ところが、上記の引用から分かるように、原作者はそういった「言葉」が、どこまで

  • 問題

なのかについて、答えを出そうとしない。確かに、こころちゃんは、そういった「積み重ね」によって、学校に行けなくなり、不登校となるわけだけど、そこは、なんというか「曖昧」になっている印象を受けるわけである。
確かに、クラスの男の先生は真田が積極的な性格もあって、仲がいいこともあって、明らかに、真田を「かばう」行動をとっているのは、かなり異様に描かれているが、だからといって、結局、この「こころちゃん」と真田と

  • 関係

を、あまりはっきりと描こうとしていない、というのが気になるわけである。
結果として、こころちゃんは学校に行けていないという結果になっているのに、その「いじめ」の直接の「加害者」が

  • 真田

という形で指示されながら、この関係が結局のところどうなっているのかが、はっきりしていかない。いや、もしもこれが真田による、こころちゃんへの「犯罪」なら、なんらかの「懲罰」が社会として制裁を与えないんじゃないのかと映画を見ている側から思えてくるんだけど、制作は、なんとしてでも、そういった方向に話が向かうことを避けようとして、そこを

  • 曖昧

にしていることへの違和感をもってしまうわけである。
事実として、こころちゃんは学校に行けなくなっている。この「被害」は大きくなっているのにもかかわらず、その「被害」を、社会が真剣に受け止めていない。これが「被害」だと考えられていない。
つまり、こころちゃんにとっては、明確な「被害」感情がありながら、それを回りの大人たちは、

  • 回りの敵からの「攻撃」

として受け止めて、その「敵」と戦う、という形に話が展開しない。
じゃあなぜそうなのかと考えると、確かに、アニメで真田は、かなり強い言葉で、こころちゃんを攻撃する言葉を使っているのだが、そうでありながら、

  • 真田側の描写

を徹底して避けている。真田が、実際にどういった人物なのかを、彼女を「主人公とした物語」として描こうとしない。なぜなら、もしもそれを描いてしまうと、真田に「共感」する人が現れてしまいがちだから、だ。そうすると、こころちゃんの被害の大きさが相対化されてしまう。
そうすると、結局、何が描きたかったのかが、よく分からなくなってくるわけなんですね。
真田の「悪」がより深掘りされるわけじゃない。だから、どこまで、こころちゃんが「かわいそう」なのか、どこまでこころちゃんの「苦しみ」が大きいのかも、そこまで描かれない。ただただ、事実として、こころちゃんがずっと学校に行けない状態だけが描かれて、これを

  • 評価

が誰によっても行われない。
結局、原作者は何が言いたいのだろう?
原作者は、積極的に、真田を責めない。ということは、真田が今のまま、学校で「王様」のように振る舞うことは誰にも止められない、と言っているように思われる。それに対して、「こころちゃん」の側に対しても、積極的な対策が描かれない。ずっと悩んでいて、回りの大人もずっと悩んでいて、ただただ、月日だけが過ぎていく。
うーん。
制作側は、これを見させられている大人たちに、これをなんだと考えてほしいのだろう...。