松本仁一『アフリカ・レポート』

アフリカ、が「壊れた」。
どうもおかしい。一体、何が起きているのだろう。

ジンバブエは1980年、白人少数支配から独立した。ゲリラ闘争を担ってきた「ジンバブエ・アフリカ民族同盟」(ZANU)の指導者ロバート・ムガベ(1924--)が首相として権力の座につく。87年には大統領に就任した。
独立当時は4500人の白人農場主全農民の20%を所有していた。92年、白人農地を買収して黒人に分配する「土地接収法」が可決されると、白人側も協力体勢をとった。
安定した農業生産と鉱物資源で国の財政状態はよく、90年代には年20億ドルの外貨収入があった。
しかし政権が長期化した90年代なかばから、ムガベの腐敗のうわさが広がる。国民の不満が高まった。それに対して政府は、白人農場への憎悪をあおる方策に出る。
「国民が苦しいのは自分のせいではない、白人が農地を独占しているためだ。あいつらのせいだ」----。
政府は解放闘争の元ゲリラに指示して白人農場を占拠させた。しかし元ゲリラたちには大規模農場経営のノウハウがなく、農場は荒廃する。農業生産が激減し、物価の高騰が始まった。
政府発表によるインフレ率は2007年7月で年率7634%だった。それだけでも異常な高率だ。それが11月には2万6470%となる。12月は6万6212%。そして08年2月、ついに16万%を超したというわけだ。

国家の発行する通貨が、まったくの、二束三文、になっていく。国家が、まったく信用されなくなる。国家が強要する、公定レートは、だれも相手にせず、闇レートでしか、取引が成立しなくなり、だれもが、国外脱出をはかる。
ジンバブエだけじゃない。実は、ここ何年、アフリカは、どこも、おかしくなってしまった。
コンゴソマリア、ナイジェリア、シエラレオネ赤道ギニアコートジボワール、チャド、ケニア、南ア共和国。

ソマリア。バーレ政権の独裁が続いていたが、91年の政権崩壊後は無政府状態におちいり、内戦状態が現在も続いている。
ナイジェリア。サハラ以南アフリカ最大の産油国で年間500億ドルの外貨を稼ぐが、そのほとんどは政府指導者たちの分け取りで消えてしまい、警察や学校教師の給料さえ遅配している。
シエラレオネ。ダイアモンド利権をめぐる争いが、子ども兵を使った内戦に発展。隣国リベリアも絡み、十数年にわたる殺し合いが続いた。停戦後の今も政情は不安定だ。
赤道ギニア。独裁大統領の一族が石油利権を独占。野党政治家の投獄、暗殺が相次ぐ。
コートジボワール。旧フランス植民地の優等生といわれていたが、02年のクーデターであっけなく崩壊。大統領選挙の見通しは立たず、武装解除は進んでいない。
チャド。独立直後から内戦が続き、2008年現在もスーダン支援の反政府勢力が東部を支配。政府は首都を支配するだけで、安定からはほど遠い。
ケニア。順調に成長し、安定した軌道に乗ったかに見えた。かし07年暮れの大統領選挙をきっかけに部族対立が火を噴き、住民殺戮が起きた。

それにしても、この本で紹介されている、ジンバブエ、の近況、ムガベの最近の行動は、まるでマンガである。ムガベよ。たのむから、これ以上、晩節を汚したくなかったら、本当に、この国のために、日々勉学に励み、教養を積んできた、憂国の士、に早く政権を禅譲してくれ。お前が、なにかをやるたびに、この国は、地獄の沙汰となる。
まるで、日本の戦国時代のような、まったくの、無法地帯。
アフリカは、少し前までは、多くの国々が、ヨーロッパからの植民地から、独立し、これからは、アフリカの時代と言われていた。
もともと、アフリカは、人類発祥の地でもあるし、エジプト文明とも関係の深い地域。多くのロマンある地域でもある。
その我らが、「祖国」の大地が、こういう状態である。それも、その暴発が、近年、目立って激しいことが気になる。まったく、収まる気配がない。

植民地時代の国境線は、地理や自然、住民の構成に関係なく、宗主国同士の力関係で引かれた。そのため国境線の中には、多くの部族が取り込まれた。住民にとっては、イギリスやフランスがつくったそんな「国家」に関心はなく、帰属意識など持っていない。彼らが伝統的に帰属感を持ち、よりどころとしてきたのは、部族共同体なのである。
「植民地政府と戦う」という共通の大きな使命感がある間は、部族対立はその下に隠れ、表に現れることはなかった。しかし使命が達成されてしまうと、部族の利害がもろに表面化する。国家の財産をくすねて部族のために使うのは、むしろ褒められることでさえある。
いい車を持って大きな家に住み、部族の若者を多く居候させて食べさせてやる。それは有力な指導者に求められる「優れた資質」なのだ。国会議員や官僚の給料などではとてもやっていけない。だからわいろを取る。わいろをとっても、部族の者の面倒を見ることの方が大切だという文化は、まだアフリカに根強い。
もうひとつは、アフリカの独立政府指導者に強い危機感がなかったことだ。国家形成を急がなければ、武力侵攻を受けて社会が滅ぼされるかもしれないという、外部からの攻撃に対する危機感である。そのため指導者は、形骸化した国家の中で安住し、国民国家の形成に真剣に取り組もうとしなかった。

近代国家の形成には、どこの国も苦労している。なぜ、これが難しいのだろうか。ここには、なにがあるのだろう。
そもそも、人間には、無理なのだろうか。あらゆることは、謀略と陰謀、破壊と人殺し、それしか、ないのであろうか。それだけしか、人間を突き動かす動機は、ないのだろうか。

アフリカ・レポート―壊れる国、生きる人々 (岩波新書)

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