ルディー和子『格差社会で金持ちこそが滅びる』

いきなり、こんなことを言うのもなんだが、「不安」って、なんなのだろうか、と素朴に思うことがある。というのは、「不安だ」と言ってみたところで、しょうがないからだ。人間だれでも死ぬときは死ぬし、病気になるときは病気になる。せいぜいやれることといったら、病院で健康診断をしてもらうことくらい。
しかし、おそらく、「不安」と言う人にとって、その意味はさらに深いのであろう。もしも、高齢になって、国の年金がほとんど払われなくなったらどうしようか。そのときは、どうやって生きていこうか。
まあ、悩みは尽きない、というわけである。
こう考えてみると、おそらく日本人が「共同体的」という表現は、どこか嘘なのであろう。つまり、日本人は西欧人などと比べても、ずっと「個人主義」なわけである。個人主義だからこそ、もしも貧困になって、自活での生きるための糧を無くしたとき、

  • 誰かを頼る

といったことを考えない。つまり、きっとそれは「他人に迷惑をかけたくない」という、一種の「個人主義」が、私たち日本人を「孤独」かつ「不安」にしている。

二〇〇九年に発表されたアメリカ・ノースウェスタン大学の心理学者や神経科学者による論文には、二九カ国五万一三五人の遺伝子調査の結果が掲載されています。それによると、S型遺伝子を持っている割合はヨーロッパ人は四〇 ~ 四五パーセントであったのに対して、東アジア人は七〇 ~ 八〇パーセントと高いものでした。
国別で見ると、最も割合が高かったのは日本人で八〇・二五パーセント。次いで、韓国人の七九・四五パーセント、中国人の七五・二パーセントがトップ三位に並んでいます。

このS型遺伝子が不安とか恐怖に関係しているということらしいですから、まあ、なにをか言わんや、といったところでしょうか。いわゆる「知識人」が、日本を「いまだに近代化されていない」、遅れた国民だと、土人だと、差別的に嘲笑してきたわけだが、私にはむしろ、こういった知識人こそ、そういった「説教」を行うことで、日本人のこういった「遺伝」的特徴を気合で

  • 乗り越えろ

といったような、どだい無理な要求を、まさに「普通の国家になれ」的なノリで言ってたんじゃないのか、といったような気すらしてくるのだがw

すると、驚いたことに、不安遺伝子の保有割合が高い東アジアでの精神障害発症率が非常に低い。たとえば、日本のうつ病発症率は一〇パーセント以下でした。反対に、不安遺伝子保有率が低い欧米先進国のうつ病発症率は一〇パーセントを声、フランスや米国のように二〇パーセント以上の国もありました。
不安遺伝子の保有割合が高い東アジア地域は、本来ならうつ病の発症率も高くなければいえないのに、そうはなからなかった。
研究者たちは、その理由を、この地域が集団主義文化であるからだと結論づけました。社会的調和や協調性を重視するなかで、他のメンバーと互いに助け合うことによって、気分障害から自分を守る結果となっているのではないかと考えたのです。

私たち日本人は「不安」に弱い。まさに、ハイデッガーが「不安」の哲学者として、哲学の最先端を示唆したように、日本は「不安」の最先端として、世界の最先端だというわけであるw
こういった日本人に対して、「不安になるな」、とか、「お金持ちを妬むな」とか、まあ、お金持ちの知識人が、パンピーに向かって説教をするわ、するわ。そして、パンピーがまったく、その説教に耳を傾けてくれないとかで、

  • うんざり

するとか、何回聞かされましたかね。いかに、日本人は「遅れた」民族か。人権意識の低い、お金持ちを「差別せずにいられない」民族か。プンスカと、オコさせてきたわけですがw
しかし、そういった不安に弱い日本人が、まさにそうであるがゆえに「文化」的に、その「不安」に対して防衛してきたのが、一種の「共同体」的な作法であった、と。だとするなら、こういった協調性に対して、一定の「評価」をすることなしに、マッチョに「強靭な心による個人主義」を日本人に求める、一種の

的な「リベラリズム」的な日本人の「人格改造計画」は、すべて失敗するんじゃないですかね。

貧困層が増えたということはむろんいけないことです。でも、スーパーリッチが増えたわけではないということは、妬んだり不公平感からくるストレスが社会に少ないことを意味します。妬みや憎悪は犯罪を招きます。
海外の富裕層は、自分たちの安心・安全を守るために、子供の送り迎えをし、場合によっては、富裕層だけが住む城塞で囲まれたような区域にガードマン付きで住む。富裕層でなくても中間層でも、一人でぶらぶら歩いてはいけない危険な地域がたくさんある。これでは、毎日の生活にストレスがたまるはずです。
イギリスの新聞「エコノミスト」が治安の良い国&都市ランキング(二〇一五年度版)を発表しました。世界の五〇主要都市のなかで、東京が最も安全な都市として選ばれたのは、やはり、海外のようにチョー富裕層、目立つ富裕層がいないということでしょう。貧しい人たちの妬みや憎悪が、それほど強くないということが証明されたわけです。
日本でも近年、「富裕税を設けるべきだ」といった声が出てきています。それに対して、そんなことをすると働く意欲がなくなるとか、あるいは、チョー富裕層は日本にはもう住めなくなるといった反対意見もあります。富裕層を税優遇する国に移住する人たちが増えると懸念しているのです。
たしかに日本の相続税は五五パーセントの税率。OECD平均の一五パーセントより、フランスの四五パーセントやアメリカの四〇パーセントより高くなっています。しかし、考え方によっては、日本の富裕層は安全・安心を税金を納めて買っているのだということもいえます。
日本人は寄付金額も少ない。税金をたくさん支払い、社会の平等実現に貢献することによって、心理的、社会的ストレスを減らし、犯罪を減らし、その結果、自分の精神的、肉体的健康を維持する。他国では自分の安心・安全をお金を払って自分で守らなくてはいけない。だったら、そういった経費が少ない分、税金を納めているほうがずっと良いと考えることもできるはずです。

まあ、お金持ちは貧乏人に「呪われて」早死にする、というのは、まあ、平安時代から続く、日本的な「呪い」文化の一般的な解釈だと言えるのかもしれない。どこかしら、人と外れた考えをする、まあ、「鈍感」な人でないと、日本ではお金持ちになれない、ということなのかもしれない...。

格差社会で金持ちこそが滅びる (講談社+α新書)

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