島内剛一『数学の基礎』

高校生までの、子供たちに、一風、変わった、数学を、紹介するとしたら、どういったものがありうるであろうか。
私は、まず、なによりも、声を大きく言いたいことは、「高校までの数学は、嘘、だ」、ということだ。
これは、高校生までの、数学をやってきた人たちにとっては、誰でも、分かっているんじゃないでしょうか。
まず、一般に言われることは、微分積分、の「嘘」、ですよね(最近の教科書は知りませんが)。
大学に行くと、イプシロン・デルタ法が、まず、最初にでてくる。
余計なお世話でしょうけど、もちろん、ライプニッツ流の、局限操作(無限大、無限小)が、数学基礎論のモデル理論を使った、無限小解析、によって、理論的正当化を与えられる、わけで、そういう意味では、それなりに、理論的正当化は、されうる。
しかし、私が言いたいのは、そういうことではない。
まったく、証明になっていないものを、なんかそれらしく、イッチョマエ、に書いてある教科書の、欺瞞性を言っているわけだ。
まったく、そこら中、証明、やってないじゃん。なんで、そんなものを、信じないといけないの。信仰や、宗教でもあるまいし。
これは、多くの、高校生には、理解できるのではないだろうか。
特に、ナイーブな子供ほど、つまづくんじゃないかな(こういうのを、スラスラ、やり過せるような、優等生タイプの、ガリ勉は、私は嫌いだ)。
じゃあ、「厳密な」数学を、子供たちに、プレゼント、してあげよう、となった場合、一体、どうしたら、いいのでしょうか。
これは、ちょっと考えると、絶望的なまでに、やっかいな作業となる。
なぜか。数学は、ずっと、生モノでして、いろいろ変わってきたし、そもそも、現代の数学にしたって、現代の数学者は、全然、満足していないからだ。
しかし、まあ、暫定的に、提示することはできる。
それは、数学基礎論の扱いを要求することになるのだが、とりあえず、今回は、この「神学的な」議論は、全部、すっとばそう。
それが、掲題の本である。
この本の特徴は、なんと、高校までの、ほとんどの基礎的な、知識について、その基礎付けを目標として、「達成されている」ことだ。
もちろん、これを読まれると、すぐ分かると思うが、この本自体は、それほど、おもしろい、という感じのものではない。
そもそも、なぜ、こうやって、「構成」しているのか、そういう啓蒙的な話が、まったく、ないわけだ。
ちなみにですが、こういう発想は、別に、この本のアイデアというわけでもない。例えば、ブルバキという数学集団がつくった、『数学原論』という、一連のシリーズものがあるが、これも、同じような発想だ。
数学は、歴史的には、ずっと、哲学に近いものとして、あまり、厳密性が問われることなく、行われてきた面が、実はある。結局、実用として、それぞれの場面で有効であったなら、その基礎的な磐石さは、それほど問われないで来たのだ。ただ、そうはいっても、非常に基本的な所で、パラドックスも起きますから、それなりにその基礎を問う活動は傍流として続いてはきた。そういう、流れなんですね。
ちなみに、ブルバキについて、以下のコメント(評価)が載っていたので、紹介しておこう。

ヒルベルトの公理主義の強い影響下で始まった20世紀の数学は、すべての数学を線形代数学と位相空間論に帰着できると信じたブルバキの『原論』に象徴される。(中略)ブルバキズムに沿った形でもっとも直観的な答えは、必ず体系的に解けるような数学の問題は連立一次方程式だけであって、その他のあらゆる数学は要するに解けない問題を線形代数に帰着しているのである、というものだろう。つまり、完全に成立している方法論としての基礎である。構造主義の影響を受けた文系の諸学問と同様に、確立した方法論こそがもっとも信頼できる基礎である、という思想である。あらゆるイデオロギーと同様に、この線形代数原理主義にも弊害があって、大学生には『代数学講義』のような生き生きした数学的内容に触れる機会がなくなった。しかしブルバキズムは数学の研究においては確固とした方法を示したのであり、その代表的な成果が代数幾何学と表現論であろう。
(吉田輝義「類体論と現代数学」)

現代思想2008年11月号 特集=〈数〉の思考

現代思想2008年11月号 特集=〈数〉の思考

じゃあ、そういった、スコープをもって、もう少し掲題の本の周辺を、(大学数学への入口もかねて)一応、紹介はしておこう。
まず、論理、とは、どういうものか、については、

記号論理入門 (日評数学選書)

記号論理入門 (日評数学選書)

が、おもしろいんじゃないだろうか。なかなか、細かい議論をしている。
あと、公理的集合論、の簡単な説明ということでは、

現代集合論入門 (日評数学選書)

現代集合論入門 (日評数学選書)

の、第二章が、まあ、まともだろうか(この本自体は、かなり高度な話が、たくさん書いてある)。
あとは、基本的な数(自然数、整数、有理数、実数、複素数)、の構造については、

数―体系と歴史

数―体系と歴史

を紹介するにとどめておきましょう。
一応、大学数学の導入、的なものについても、ここで書いておくと、解析学では、

解析入門 ?(基礎数学2)

解析入門 ?(基礎数学2)

ですかね。この本は、上記の流れにあると言ってもいいかもしれない。大変、細かい所まで、証明がしっかりしている。辞書的な、内容の多い本だ。
線形代数では、

線型代数学 (数学選書 (1))

線型代数学 (数学選書 (1))

あたりですかね。上記の、ブルバキの話にもありますけど、このあたりから、いろいろな分野に入っていくのが、今の大学数学のスタイルなんですかね。

数学の基礎 (日評数学選書)

数学の基礎 (日評数学選書)