NASA学からNASAオタへ

映画「オデッセイ」はどれくらいの人が今、見に行ってるのだろう?
この映画は、ひとまず原作を読まずに、なんの予備知識もなしで見に行かれることを、お勧めする。というか、私も原作を読まずに映画を見たのだが。
確かに、一見すると、科学の専門用語を知らないと、次々と進んでいく難問の解決の「意味」を理解できない、といった印象を受けるが、あまり細かいところにこだわる必要はないんじゃないだろうか。
ようするにこの映画は、火星版ロビンソン・クルーソーだと思えばいい。
一人火星にとり残された、ある男が、一つだけ分かっていることは、4年後には、次の宇宙船による、火星探査が計画されている、ということ。つまり、ひとまずの目標は、そこまで生き残れれば、地球に帰れる可能性がある、ということ。
ここから逆算して、何が必要かを考える。
そもそも、火星に一人とり残されたことは「トラブル」である。そういう意味では、3・11と変わらない。予想していないことが起きたのだから、さまざまなことが、「普通」に考えるなら、想定外の事態だ、ということになる。
ようするに、火星版サバイバル・ゲームと言ってもいいし、火星版DASH村と言ってもいい。
というか、アメリカ移民の開拓者は、あんな感じで、アメリカ各地を開拓していったわけであるし、西部劇の世界だと言ってもいい。
しかし、そもそも、NASA学というものがあるとして、基本的にあそこで行われた、それぞれは、ある意味、

  • NASA学の「基本」に忠実だった

と言ってもいいんじゃないだろうか。まず、空気と水、食物の栽培、地球との通信、太陽光発電原子力電池と、どれも、今の「NASA学」が「想定」している、基本アイテムだと言っていい。
確かに、このように考えると、NASA学は、物理学者でも生物学者でも化学者でも、「不足」だ、ということになる。つまり、それだけの知識だけでは、不十分だ、ということになる。そういった意味において、少し「雑種」な感じがするわけで、いわゆる「SF好き」や「科学オタク」には、なにか、猥雑な印象を受けるのではないだろうか。
つまり、どこか「工学的」だと言ってもいい。
いそいろな知識が必要だが、やっぱち「宇宙」に関連した知識だ、と言うことはできる。
例えば、火星から地球までロケットを飛ばす軌道の計算や、火星から宇宙空間に飛んできたパイロットを、地球からやってきたロケットが「拾って」地球に逆戻りする場面なんかは、ようするに

  • 軌道計算

ができないと、まったく、あさっての方向に行ってしまう。しかし、その計算は「コンピュータ」でもないとできない。つまり、ちゃんと「計算」しないと、算出されない。宇宙空間というのは、こういう世界なんですよね。計算するから、始めて、自分の動く軌道が決定する。
ゼロックス・スーパーカップで、サンフレッチェ広島の、佐藤選手が、あざやかなワンターチ・ボレーをきめたけど(W杯の、鈴木師匠を思い出しましたがw)、あんな感じで、グット・タイミングで、キャッチを成功させなければならないが、それが成功させることは、この「計算」が必要十分だ、ということと同値となる。
確かに、火星で一人の生活は孤独ではあるが、ひとまず、4年後という「目標」はあったわけですし、ああいった孤独さ、というのは、地方出身者が、東京で一人暮しを始めるのに、どこか似てますよね。映画館で、おっさんが小学校の高学年くらいの娘さんを連れて見に来ていたけど、例えば、親が仕事で家にいないとき、山に家族でピクニックに行ったときはぐれて迷子になったとき、一人でどうやって、食事を用意するのかとか、ああいった「感覚」を身につけることこそ、「生きる力」を、子供の中に育てようとする、親の姿勢なのかな、とは思った。
一つ思ったのは、ああいった作品は日本では作られにくい、と思ったことだ。というのは、NASAは何度も、火星にとり残された彼の救助をあきらめようとしていることであり、結局最後は、宇宙船の乗組員たちが「反逆」するかたちで、救助に向かうことであろう。
まあ、普通に考えて、宇宙船のパイロットということは、今、特別な権限をもっている、ということなんですよね。つまり、そういった人たちが、自分たちの独自の判断で行動を始められると、もう、NASAとしても、単純の「軍紀違反」と言って、罰則に処せられない。実際、NASAは、世論の反発を恐れて、「追随」する形で、後追いで承認するしかなくなってしまう。そして、そのことに、彼ら自身も、あまり「深刻に悩まない」わけですよね。
ところがこれを日本でやると、ようするに、軍紀違反は、天皇への反逆になるからすぐ、「賊軍」扱いされて、正統性を失ってしまう。イラク戦争のときの、高遠さんなどへのバッシングが典型だけど、あっさりと、「自分が生きたいように生きればいいんじゃないか」というふうに、世間の認識が揃わないんですよね...。