アメリカ合衆国とリベラル

アメリカという国は、もともとイギリスなどから迫害されていた人たちが希望の土地として移民してきた人たちが作った国だとされているわけだが、その含意はそこに、無限のフロンティアがあるということを意味していた。つまり、いくらでも土地が「余って」いて、その土地を耕して自分のものにすれば、それが「新大陸」ということであった。
ところが、月日は経ち、土地も私的所有権で管理され、あらかた「フロンティア」が

  • 枯渇

し始めると、話は違ってくる。人々はここに「錬金術があるよ」と言われたから、宝探しで金鉱をあててやろうとがんばっていたのに、「もうないよ」と急に言われて戸惑っている、というわけである。
つまり、「普通の国」に、アメリカもとうとうなったわけである。
しかし、そうは言っても人々の行動規範はそんなに簡単には変わらない。つまり、その矛盾はなんらかの「制度」の問題として顕現する。
アメリカはなぜか、日本のような国民保険制度を採用していないがために、多くの人はちょっとした難病にかかるだけで、

  • 自己破産

に追い込まれる。つまり、日本で言う「生活保護」である。しかし、なぜアメリカがこのような制度になっているのかと考えると、ようするに、「移民」が多いからなわけであろう。どんどんと、外国人が「国民」になっていくわけだけど、なった途端に、

  • 彼らはもう同じ「国民」なんだから彼らの生活を「国民みんな」で支えよう

と言ったら、原理的には世界中の人がアメリカに移民をすれば、みんなが「アメリカ国民」に支えられるというわけなのだから、ようするに、

  • 一番、福祉の充実した制度にしている国

に世界中の人が住めばいい、ということになるわけであるw
つまりは逆説としてそうだということなのだが、逆にそうできないから、アメリカは国民を「奈落の底」に落とすシステムを内在させなければならなかった。つまり、そういう「福祉の<欠点>」がなければ、あまりにも世界中の人々がアメリカに来てしまう、という問題に直面したわけである。
アメリカはもう「フロンティア」ではない。そうであるのに、今だにそうであるかのように振る舞うことを理念的に強いられる「ストレス」を感じるようになっている。
アメリカという国が、内在的に国民を「奈落の底」に落とすシステムを内在させているということは何を意味するのか? それは国民の中に必然的に「自尊心を傷付けられた」と感じる人々を大量に生産していることを意味する。それは、NAFTAによって、地方の工業地帯にあった工場が、中国やメキシコに移転をして「大量」の失業者を発生させていることとも平行する。人々がこの国にもっていた「期待」を、国家はこのようにして「裏切る」ことによって、国民は次第に国家に

  • 恨み

をもつようになる。自分は若い頃に、この工場で働くようになって、こうして定年まで同じようにこの工場で働ければ、それなりに一定の資産をもてるようになるだろうと期待していたら、資本家が「工場をメキシコにもっていって、安い労働力に変えれば、もっと儲かるよね」とかいって、移転をすれば、そりゃあ資本家は儲かるのだろうけど、それによって大量に生み出された労働者はどうなるの? これって、一種の「棄民」だよね。
なぜヒラリーが選挙で負けたのか? それは、オバマが上記の問題に対して、まったく共感的じゃなかっただけでなく(もともとオバマは白人ではないし、どっちかというと「移民」して入ってくる人たちに共感的なんだろうね)、ヒラリー自身も、基本的には

という人なわけで、選挙戦においても自らを「改革派」としてアピールしていなかった。そもそも彼女は何がやりたいのかを話していなかった。彼女は、いかにトランプが頭が狂っていて、話のわからない「野蛮人」かを強調していただけで、そもそも、わざわざ彼女が大統領にならなければならない理由もよく分からなかったわけだ。
トランプの言っている「アメリカ・ファースト」とは、上記の「矛盾」を彼は解決しようと考えているわけであろう。それは、アメリカ国民を「保護」するということで、もしかしたら、彼は国民健康保険制度でさえ採用するのではないか。
まず、トランプは「アメリカ国民」を守ると言っているわけで、その象徴として、メキシコに工場を作ると言っている企業をターゲットを名指しした形での「増税」によって、圧力をかける方針を示している。
そういう意味では、トランプはおそらくアメリカとカナダの「北米」ブロック経済圏を考えているのではないか。すでに、アメリカ国内はシェールガス革命によって、中東の石油に依存せず

  • 自給自足

が可能な状況になり始めている。また、今週の videonews.com で水野和夫が言っていたように、どこの国が作る「自動車」も同じような性能が見込めるような技術革新が進んでいるわけで、同じことは、IT系についても言えるわけで、もはや

で、「ほとんど困らない」状況ができつつあるわけである。
トランプの言う「メキシコとの国境に壁を作る」というのも、こういったアメリカの「孤立主義」をよくあらわしている。もともとドイツ移民の家系に育つトランプにとって、ドイツのような福祉国家は彼の常識なのであろう。その福祉の理念と、アメリカの多くの移民の受け入れは、すでに「矛盾」の状況にまで来ていて、トランプはより「アメリカ・ファースト」つまり、福祉の方に舵を切ろうとしているのであろう。
おそらく、アメリカも世界中の多くの国と同じように、気軽に「移民」をしてアメリカの住居をかまえることが難しい国に変わっていくのであろう。しかし、そんなことは今の世界秩序において、受け入れ可能なのだろうか? おそらく、今までの世界は、アメリカの強力な移民受け入れ政策によって、バランスされていた。多くの発展途上国では貧困層

  • いつかアメリカに移住さえすれば、その「福祉」を受けられるのだから、大丈夫

と自らを奮い立たせて生きてきたのではないか。おそらく、そういった人々を、トランプのこの孤立政策は絶望の淵に落とすことになる。この「希望」のなくなった世界に、どういった答えを見出すのか...。