進化と道徳の関係

人間がさまざまな慣習をもっていることには、おそらく、なんらかの進化論的な意味があるのだろうと言うことには、一体、どういった意味があるのだろうか?
例えば、ある商品を買おうと店の前の行列に並んでいるとき、その列がいつまでたっても進まないので、イライラすることは、まさに、私たち人間はそういった場合にイライラするように作られているんだ、と言いたくなるであろう。
これを進化論的に説明するなら、そういった場合に「イライラ」するような存在だった「から」、私たち人間は生き残ってきた、というわけである。こういう場面で、イライラしないような人間は、さっさと肉食動物に食べられて死んでしまったのだろう、つまり「淘汰」されたのであろう、と。
しかし、である。
問題は、こういった「説明」が一体、何を言っていることになるのか、なのである。
ここで問題としているのは、そういう場合に「イライラ」する感情である。しかし、そのことは「その人は何を意図して行動するのか」を別に説明しているわけではない。その人は、どういう理由で「イライラ」しているのであろうと、とにかく、その場面で、その人は行列に並んでいるのであって、それ以上でもそれ以下でもない。つまり、「行列に並ぶ」ことを意志している。
しかし、その人がまさに行列に並ぼうとうする場面で、自分がその列に並べば「イライラ」することが分かっているとして、行列に並ぶことを止めたとしたらどうなるだろう? 確かにこういった場合なら、その行動には「進化論」的な傾向性が影響を与えた、と言えるのかもしれない。
しかし、だとしたとしても「それがどうした」問題ではあるわけである。
つまり、どんなに「不快」な感情になることが分かっていても、その行列に並ぶ人は並ぶ。それは、その行動が結果としてもたらすことになる利益を考量することで、その実益を優先したから、となるわけであろう。
私たちには、おそらく、なんらかの「傾向性」がある。そして、その傾向性はさまざまな行動に実質的な影響を与えているであろう。しかし、たとえそうだとしても、その傾向性を

  • 越えて

私たちは実際に行動している。そして、そういった傾向性が比較的「弱い」人が、その行動を選びがちなのかもしれない。
しかし、その「分類」は、最初に言った「淘汰」された存在となにも違わないわけである。
多くの進化論的に不利な傾向性をもっていた人たちのほとんどが過去に死んで、遺伝子を残せなかったとしても、その生き残った人たちの子孫が、結果として、その傾向性が今の時代にはむしろ、「有利」に働くとするなら、今度はこちらが「生き残って」いく。
では、こういった「傾向性」と「道徳」の関係はどうなっているのだろうか?
道徳とは、ある「ルール」である。つまり、そのルールに従うかどうかは、意志による「決断」として解釈される。この決断を行う場合に、上記の傾向性は、

  • 比較的、なんの抵抗もなるルールに従う

場合と

  • 強烈な傾向性からの「抵抗」を行うことによってルールに従う

場合とでは、随分とその様相は違っている、ということになる。道徳は社会のルールなのだから、比較的、少ない「抵抗」でこれに従える人の方が、「生きやすい」と解釈することは可能なのであろう。
このことは、「勉強」にも同じことが言えるだろう。比較的容易に学校の勉強についていける人は、おそらく、そういった傾向の「遺伝子」をもっていることを意味しているのかもしれない。しかし、そうであることがその人にある「才能」があることを意味するだろうか?
例えば、数学が得意で、次々と未解決の問題を解決していく人は、本当に上記で振り分けた

  • 比較的抵抗なく道徳に従える人

なのだろうか?

  • 比較的抵抗なく勉強できる人

なのだろうか?
むしろ、本当の才能を開化させる人というのは、

  • 大きな抵抗を乗り越えた人

なのではないだろうか? というのは、ある「疑問」があるからである。それは、

  • なぜこの人は「生き残って」きたのか

が説明できないからだ。なぜ、その人は生き残ってきたのか。それは、他人には普通の基準では「評価」できないような、特異な才能をその人がもっていたからではないのか?
しかし、そういったふうに解釈するからといって、その人がそんなに「うまく」生き延びられるかはまた別なのであろう。あっさりと、淘汰に負けて滅びるのかもしれない。それが人類の未来にとっての「損失」なのかもしれないが、まあ、だからこそそういう人というのは、社会の中には少ないということなのだから。
しかし、少なくとも言えることは、

  • その人も、<なぜか>は分からないけれど、今まで生き残ってきた

ということであって、そういう意味では、「それなり」にこの社会に適応してきたから、生き延びてきた、とは言えるということなのだ...。