ロシアのウクライナへの戦争

ウクライナにロシアが戦争をしかけて、まだ、一週間も経っていない。その間に、いろいろな報道がなされている。
西側メディアの一番多い論調は、ロシアによる侵略戦争国連憲章に違反している、という、常識的なものだ。そして、その一点において、プーチンを「悪魔」と称して、ナチスヒトラーになぞらえ、非難している。
もちろん、「嫌戦思想」の延長から、こういった主張は当然ではあるわけだが、対して、忘れられているのが、「嫌戦思想」はリアリズムの認識でもあった、ということだ。事実、ロシアはウクライナに攻め込んでいるわけだが、チェルノブイリ原発などの重要拠点を抑えることをまず行っただけで、今のところ、全面戦争にまで突入していない。どちらかというと、武力による「威嚇」によって、この後の交渉を有利に進めたい、といった、かなり抑制的な行動にも思われる。
その理由ははっきりしていて、当たり前だが、ロシアとウクライナは、民族的には、ほとんど同じだからで、わざわざ「仲間」同士で殺し合い、死者を出すことを潔しとしていないからだ。
そういう意味では、他方で「楽観視」している人は多いのではないかと思う。もちろん、そうであっても、多くのまきぞえや、現地の暴走などで、多くの死者がでることは避けられないわけだが。
大事なポイントは、(少し前にふれた、ファースト・ガンダムを見ていたから言うわけじゃないけど)

  • 「嫌戦思想」から来るリアリズム

の認識から始めなければならない、ということにあるんだと思う。
つまり、ロシアであり、プーチンがどういった「理屈」であり、どういった事実を「利用」して、武力侵攻を行っているのかを知るところから始まる。

ロシアは憲法に定められた国是に従ってこの問題に介入し、分離派勢力を軍事的に支援したが、ドイツやフランスの仲介で、停戦合意に至った。これがミンスク合意である。
ミンスク合意はドンバス地域の自治を拡大するという内容を含むものだった。ロシアとしては、ドンバスの自治が確立されればドンバスのロシア系住民の権利が守られると考えたのである。一方、ウクライナはドンバスに強い自治を与えることは、ウクライナの統合にとって望ましくないと考えるようになり、ミンスク合意の内容は7年以上にわたって履行されなかったわけだ。
このような中、アメリカがウクライナへの数十億ドルに上る軍事支援を行ってきたことで、同国は欧州地域でロシアの次に軍事力が大きい国に成長してしまった。プーチン大統領は、この事実を強く非難する。なぜだろうか。
ウクライナは、ドンバス地域の紛争が「凍結された紛争」となり、分断が固定化されることを望まなかった。自治を与えれば分断が固定化されてしまう。何としてもドンバスとクリミアを取り返さなければならない。そのためには軍事的に制圧する選択肢も捨てていなかった。ウクライナミンスク停戦合意の履行を渋っていた理由である。
toyokeizai.net

ようするに、ウクライナミンスク合意を履行してこなかった。そしてそれを、ドイツやフランスも黙認してきたし、アメリカは軍備支援を行い続けることで「後押し」することになっていた(お金儲けもあるのでしょう)。だから、今回のロシアの軍事侵攻に対して、アメリカもドイツもフランスもそれが、

と言えないし、言っていない理由なわけだ。
(この事情は、言ってみれば、韓国における、徴用工問題であり日韓請求権問題と似ていなくはない。明らかに、当時の日韓がとりかわした文書では、韓国側に請求権はないとされているわけだが、それ以降の国際社会の過去の戦争被害者や被差別者への保障への考えが「変わって」きたことを理由に、韓国側は日本に請求できる、というふうに態度を変えていったわけでしょう。それならそれで話し合えばいいように思うわけだけど、なかなかそうならないのが難しいところなのだろう。)
しかし、元をたどれば、今回起きていることは、やはり

  • 冷戦以降の世界秩序

の後始末が今も続いている、という印象を受ける。つまり、冷戦以降に、いわゆる知識人が「ポストモダン」とか言って、「うかれて」いたわけだが、そもそも彼らは何も考えていなかったわけだ。「嫌戦思想」から来るリアリズムからすれば、その後の「平和」は、どういった国際秩序の認識から来るのかを説明できなければならなかった。言わば、そういった平和構築の理屈を提供することなく、ポストモダンとか言って、はしゃいでいただけだった、というわけだ。
例えば、いつもの、伊勢崎さんは以下の動画で今回のことを、

  • 緩衝国家

の問題として語っている。

www.youtube.com

(こういった専門的な知識が問われる状況においては、まず、専門家が何を語っているのかを聞いた方がいい。特に、大学でそれを専門に研究している学者に。)
まず、今回の行動が国際法から「侵略」と定義されるのかについて、プーチンはこれを「武力侵攻」と言って、それはアメリカも今までやってきたことだと正当化しているわけだが、つまり、今回の件は、明らかに、今の国連憲章の「盲点」が突かれているわけだ。つまり、ウクライナ内の分離独立国を、ロシアが勝手に「承認」して、「集団的自衛権」の問題に変えて行ったわけだ。いや、そうはいっても、同じウクライナ主権国家内の話なわけで、めちゃくちゃだ、と思うだろうけど、普通に考えるなら、

  • もっと国際法が緻密に設定されなければならない

と考えるのが普通なわけだろう(とはいっても、これをアメリカ「も」、今まで、「民主化支援」と称して、世界中の国々で利用してきたわけだよね)。
次に、冷戦後のNATOの扱いがある。
アメリカは過去の文書を破棄しない。だから、なんでも残っているし、時間が経てば、それらは公開される。そういった資料から、冷戦崩壊において、NATOの東方拡大をしない、という約束は、内部文書で残っているというわけね。
あと、当時の政治家の意見として、NATOの仮想敵がいなくなるわけだから、NATOそのものがいらなくなるわけで、であれば、NATOそのものを、軍事同盟から、ロシアの含めた、政治フォーラムにしよう、というものがあった、というわけですね。
こういった視点から考えていくと、じゃあ、なぜNATOはこういった方向に進んでいないのか、今だに、

  • 冷戦の遺物

のように残り続けているだけでなく、拡大し続けているのか、が問われなければならいわけだけど、そういった議論は、アメリカからもドイツからもフランスからも聞こえてこない。
そう考えると、そもそも、今のアメリカによるロシアへの制裁にしたって、ロシアからのエネルギーの購入についてはOKみたいになっているわけでw、やる気があるのか、というふうに思えてしまうわけね。
つまり、誰も今の「国際秩序」を変えることを望んでいない。今が便利だから変えたくない。そんな中で、ウクライナが、今の軍事的示威行動の中で、ぎりぎりのロシアとの停戦のための合意文書を書かされようとしている、ということになるのだろう...。