本山美彦『金融権力』

なかなか、重い内容である。
私はいつも思うのだが、結局、保守的な考えを言う人というのは、いつも、その裏にある、さまざまな利権、つまり、経済的な動機を、その保守的な言動によって、表現しているんだろうな、ということだ。つまり、保守的なことなど、どうでもいい、たいしたことでないと思っているからこそ、声高に保守的な言動を叫び、そのパワーによって、本来言いたく大事にもっている、裏にもっている経済的な動機を実現しよう、ということ。
そもそも、現代においては、身分差別的な言動は、人権意識の高まりもあり、なかなかできづらくなっている。しかし、経済的な利権というのは、まさに、身分差別でも存在しない限り、正当化できないものでしょう。
結局、保守的な要求そのものは、国民の経済的な状況に直接、影響を与えて、混乱させるものでないからこそ、隠微に主張される。しかし、その要求を受け入れることが、そもそも階級差別を正当化するものであったりして、思想的に多くの妥協を後々、多くの場面で要求される場合のネタとして使われるようになる。
そういった性質のものじゃないかな、と。
そう考えると、やはり、経済なんですね。そもそも、そいつが何によって飯をくっているかが、なにを分析するにも、大事だと。
それでこの本では、前半は、サブプライムローンの問題の指摘(まったくもって大がかりな、ネズミ講ってわけですね)。そして、アメリカ主導の、金融ビジネスの批判。アメリカのパワーの減退とともに、新たな別の金融秩序の模索、となるわけです。
まあ、こういった批判は、いろいろなところでやられているし、また考えたいですが、そもそも、最近の先物取引での、石油や農産物の価格の高騰を批判しています。そもそも、こんな値段の高騰を起こしては、いけないはずです。なんでこんなサービスが、こんな状況になってまで、続けられているのか。今すぐ、規制すべきでしょう。なんで世界の国家は許しているのか。おかしいでしょう。言ってみれば、株ももうからなくなって、最後のタブー、最後の聖域である、食料、エネルギーを使って、世界中の人を相手に、ヘッジファンドがたばになって、ケンカを売ってきた。こんなの、カルテルと同じでしょう。どんどん値段を意味もなくつりあげて、ピンはねしてきますよ。これで人類は、食料、エネルギーを、意味もなくべらぼうな値段でしか買えなくなった。というより、ドル、アメリカの信用がどんどん下がっていく証拠なんでしょうね。こういう状況を放置し続けるアメリカって何?でしょう。
あと、日本の戦前の農民の話がある。

戦前の日本を崩壊に導いたのは、農村の貧しさであった。不在地主一人の収入が、村のすべての小作人の収入を上回っていた。人は、絶対的には低くても、平均線上の自分の収入があるとき、それほどの怒りに駆られることはない。しかし、突出した少数の人たちに収入が独占され、圧倒的多数の人々が平均よりはるかに下の収入しか得られないとき、人は、強烈な貧しさの感情に打ちのめされる。戦前の日本の農民の多くは、後者の状態であった。
そもそも、農業は儲からない代表的な産業である。労働生産性が上がって大量の農産物を作ってしまえば、社会全体の農産物需要に上限があるために、価格は暴落し、農民人口は過剰になってしまう。
農民は生活苦から借金を重ね、借金返済のために農地を手放した。悪辣な金貸しが農地を取り上げて大地主になった。土地を手に入れた金貸しは、土地なき農民に農地を貸し出し、小作料をつり上げた。土地なき貧農が増えれば増えるほど、小作料はつり上がった。農民の貧困が不在地主の懐を潤した。そして、地主に転がり込んだ莫大な小作料収入は、農地の改良事業には投資されず、さらなる農地の買い占めに投資された。
現在の、サブプライムローンを借りた人たちが戦前の日本の小作人である。ローンを貸し、それを転売する金融機関が不在地主である。
小作人は、永年の小作権を保証されないために、短期で目一杯の収益を得るべく、土地を酷使した。彼らは、契約が保証されている短期の期間に最大の収穫を得るべく、土地の能力のすべてを消費し尽すという略奪的農業に、向かわざるを得なかった。こうしてわずかの気温変化にも耐えられない地力のない農地が増えてしまった。貧困の悪循環に戦前の日本の農村は陥っていた。
しかし、戦前の施政者たちは、農村の改善よりも、植民地の農地を零細な日本の農民に分配する政策を選択した。悲しいことに貧しい農民ほど軍国主義時代には好戦的にならざるを得なかった。土地なき農民たちは、他国を侵略する自国政府によって植民地の土地を分配してもらえたからである。

戦中の日本の侵略を「しかたない」とかほざいてるどっかのアホは、こういう事実をどこまで分かって言ってるのかな。
最後に、例のグラミン銀行の話も載っている。有名な「十六の決意」のいくつかが載っている個所を引用すると以下である。

「1 規律・団結・勇気・勤勉」「2 繁栄は家族のために」「3 荒廃した家を修復する」「4 年間を通じて野菜を作り、それを食べ、余った分を売る」「5 家族をたくさん作らない、支出を抑える、健康に留意する」「7 子どもを教育し、教育費を払えるようにする」「8 子どもと周囲の環境を清潔に保つ」「12 不正をせず、不正をさせない」「13 共同でより大きな投資をし、共同でより多くの収入を得る」「14 困難には相互に助け合って対処する」「15 グループが破綻しそうになると回復の手助けをする、社会活動に共同で加わる」

やっぱり、まともな理念を提出し実行できない組織は、信頼されないってことでしょうね。

金融権力―グローバル経済とリスク・ビジネス (岩波新書)

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