柴田ヨクサル『ハチワンダイバー』

主人公、菅田(すがた)は、子供の頃から、ずっと、将棋だけをしてきた。
将棋だけに、毎日の時間を捧げてきた。奨励会と呼ばれる、プロ棋士育成組織で、三段まで、登りつめるが、プロにはなれなかった。しかし、一般に、そのレベルまで、行ったものたちは、ほぼ、プロと差がないと言われる。
これだけ、今までの人生を、将棋に捧げてきた人間が、いきなり、プロに登るルートを塞がれて、プロ棋士をあきらめたとき、どうなるか。
将棋しかやってこなかった。ほかは何も知らない。そんな人間が、こんな青年時代になるまで生きてきて、ここで、失格だと。
しかし、将来の可能性がないなら、ここで「終えなければならない」。その方が、そいつのこれからの人生にとって善行だ。
しかし、ね。
この後、何をすればいいんでしょうね。
それが、この漫画だ。
(しかしこれと似たものについて、ここでも何度もとりあげてきましたね。資本主義。1%の勝者と、99%の敗者。)
彼は、やけになって、街の賭け将棋で、小銭を稼いでいると、若い女性で、彼がまったく、歯が立たない相手に出会う。中静そよ。
彼女に将棋を教えてくれた、父と兄は、将棋に負けたことで「死んだ」。裏の世界。そこでの、賭け将棋では、たんにお金を賭けるだけではない。体の一部や、命さえ、取引きされる。愚かなのであろう(カイジとか、ちょっと似てなくはないですね)。彼女はただ、その「復讐」のためだけを考えて、ひたすら、将棋だけを生きてきた。
将棋とは、何手先を読めるかの勝負と言われる。その感覚とは、どんなものなのであろう。おそらく、コンピュータのような、順列組み合わせとは、違うであろう。棋士ならば、プロたちの過去の対局が頭に入っている。そういったものから、お互いが、厖大な心の中にある、イメージを、いもずる式にひっぱりだしていく。その深さ。
しかし、おそらく、こういった感覚は、さまざまな世界でも、一緒のものがあるのだろう。イメージ。それは空想的であり、関係ない人には、どうでもいいクズ情報。しかし、その深く濃密なスペースは、お前「そのもの」なのだ。
主人公、菅田(すがた)は、昔の師匠に言われた言葉を思い出す。
潜れ。

ハチワンダイバー 1 (ヤングジャンプコミックス)

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