清水美和『「中国問題」の核心』

(そういえば、初公判だそうですね、NHKニュースでやってた。)
どうでもいいですけど、BS世界のドキュメンタリー「よみがえる第二次世界大戦」の、白黒のカラー化は、すごいですね。死体まで、赤いですよ。あれは、白黒だからまだ、見れたのであって、カラーにして放送しちゃだめでしょう。第二次世界大戦は、ほんとに、どこまでも、悲惨すぎますね。
(中国の国内での民主化を求める動きを紹介したなら、他方の、中国国内の政治状況を、対置しないと、バランスが悪い。)
中国共産党一党独裁にも、指導層の高齢化とともに、世代交代となる(5年に一回の全国代表大会)。当然、これだけの組織である。
派閥争い。
これが熾烈であることは、世の東西を問わない。しかも、民主主義体制をしかないとすれば、その権力は絶大である。
今は、以下の三つに主に分かれるのだそうです。

  • 共産主義青年団共青団)グループ ... 胡錦濤李克強。党の青年組織で養成された党官僚を中心にした派閥。
  • 江沢民(前総書記)グループ ... 改革の恩恵を享受した都市の新興富裕層が基盤。
  • 太子党 ... 習近平。革命元老を親にもつ。基幹産業で独占的な地位を保つ国有企業や、国有企業改革を通じ民営化された有力企業の大半を支配。

ところで、胡錦濤は、就任早々、今までの経済優先から、労働者寄りに、かなりの大改革を行っている。

さらに、政府は08年1月から労働契約法を施行した。中国の急速な経済成長を支えたのは農村出身の廉価な労働力で、彼らの賃金は、二十年来、ほとんど上昇していなかった。経営者は彼らを自由に使い捨てることができ、それが他国に真似ができない中国の国際競争力の秘密だった。労働契約法は、有期の雇用契約を二回更新した労働者が三回目の契約を更新する際は、経営者に「無期限固定」の労働契約を結ぶことを義務づける法律で、労働者を保護するのが狙いだった。日本の新聞は、この法律の施行を「中国でも終身雇用制」と伝えた。また、政府は沿海各都市の最低賃金制を拡充し最低賃金は一気に20%も上昇した。
これらの政策が安い労働力を武器に輸出を急成長させてきた加工貿易に打撃を与えるのは明らかだ。しかし、胡政権がリスクを覚悟の上で一連の改革に踏み切ったのは、いつまでも貿易と投資に頼る成長を続けていれば、格差は深刻化し内需が振るわない産業構造は変わりようがないという危機感からだ。中国は低賃金が支える「世界の工場」にとどまり産業の高度化は望むべくもない。

しかし、おりからの、リーマンショックなどで、あまり上手く行っていないようだ。

国家発展改革委員会によると、08年上半期だけで倒産や操業停止に追い込まれた中小企業は六万七千に達していた。低賃金を求め進出した香港や台湾の業者には夜逃げ同然で撤退する企業相次ぎ、置き去りにされた労働者による工場占拠や街頭行動など争議や集団事件が続発するようになった。

しかし、こういった、改革政策が、彼自身の、派閥争いと関係しているのではないか、という指摘は興味深い。

胡政権が07年秋以来示した産業構造転換に向けた性急さを、中国のある経済研究者は「江沢民政権が進めた政策を否定しようとしているのではないか」と疑問を投げかける。また、08年秋に日本を訪れた中国経営者団体の幹部も「現在の政権は労働者や農民寄りで経営者のことを考えてくれない」と不満を隠さずに語った。彼は労働契約法に強く反発する一方で、「改正は指導部が間違いを認めることになるから望むべくもない」と嘆いていた。

胡錦濤は、後継争いで、自派閥からの擁立(李克強)に、現時点でうまくいっていない(習近平が有力と言われていますね)。

胡の「敗因」は何だったろうか。それは党十七回大会に向けた主導権を確立するために、党検察権力を動員した「反腐敗」闘争を激化させたことが、江沢民グループを上回る党内の既得利益を享受する党長老や、その弟子たちの警戒を招いたことである。党長老や二世政治家たちは胡の専横に対する反発から、胡を支持してきた。しかし、彼らは大型国有企業や民営化された優良国有企業の大半を支配下に置き、国有財産の私物化については、上海グループよりも上手だ。胡錦濤から李克強への権力継承が、自らの利益を侵すことを恐れる彼らは、江沢民らと手を結んで、同じ既得利益集団から出た習を推し立てた。

しかし、次の大会までは、まだ、時間がある。
権力者が、自分の思い通りにいかない政情を打破するのに、まず、することとは何か。
軍への接近であろう。
中国は今、たいへんにおもしろい政策を推進している。

米国が中国に強い態度に出られないのは金融危機対策として巨額の財政出動で景気の下支えをするために、最有力の米国債保有国である中国の意向を無視できないからだ。中国は多額の貿易黒字を貯め込み日本を大きく引き離し世界一の二兆ドル近い外貨準備高を誇り七割程度をドル資産で保有している。日米安保体制で防衛を米国に依存する日本とは違い、中国は外貨準備をドルで保有する義理はない。中国がドル資産を売り払えば、米国債のみならず、貿易、金融の基軸通貨であるドルの信用は下落する。

リーマンショックで、ドルの信用が低下している間、どんどん、買い増しているのだそうです。これで、アメリカは、今、中国に完全に何も言えなくなっている。アメリカが、中国の人権問題に、まったく、弱腰になっているのは、そういう理由である(言論の自由を実現しなければ、あれもこれもしてやらない、なんて、「とても言えない」んです)。
イラク戦争を推進したのは、ネオコンと呼ばれた連中でした。彼らが描いていた、アメリカ最強論は、その、軍事力でした。実際に、アメリカはEUのかなりの国々を足しても、まったく比べものにならないくらいの、軍事力を一国で持っていました。つまり、そのあまりの、アメリカの軍事力の「量」の差が、アメリカを「世界の警察」にしていました。
では、アメリカのシヴィリアンが、どうやって、アメリカ軍をコントロールしているか。コントロールなんて無理でしょ。ガス抜き。アフガンで戦争させたりして、ですね。アメリカの軍関連産業は、古い爆弾を処分して、新しいのを買わせるために、「いつも」どこかで戦争をしている、ということなのかもしれません。
(忘れてはいけないのは、アメリカも中国も、第二次世界大戦の、勝者、ですからね。彼らは、日本のように、変わってないんです。あの頃からと、同じなんですね。)
さて、しかし、今、アメリカは中国に何も言えません。
この状況を、中国人民解放軍が、どう思っているか。
今の中国は明治維新からの日本に似ているのだろう。彼らは、人権などよりも、なによりも、経済発展を優先している。
なによりも、国力、の増強。
中国人民解放軍は、今、自分たちの政治力に、なによりも、自信を深めているでしょう。政府も、彼らに一目置かざるをえない。当分、国内の経済的な成功の分け前の大半は、軍の待遇改善にそそがれ続けるはずです。
政府と軍が一枚岩と必ずしもいかないのが、世の常。今後、中国の、経済、政治、軍事、これらが、どういうバランスで進むか、ですね。

「中国問題」の核心 (ちくま新書)

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