鬼頭莫宏「ぼくらの」

この作品は、私には、ほとんど感情移入ができなかった(アニメの方は最初に見た)。
私はこういった、特攻隊マンガを書こうとする大人の気がしれないのだが、もちろん、これが特攻隊マンガでないと言ってみてもしょうがないだろう。むしろ、なんとかして、現代の、もやしっ子たちが、
特攻隊ごっこ
をやるには、どんな「条件」が必要なのか、から「導かれた」ルールに、無理矢理押し込んだ結果としか思えない。特に、原作の、
説教
がうるさい。人は一人では生きていけない。自分の命を犠牲にして、この地球を救うことがもしできるというなら、それは尊いことなのであり、そのことに目覚めることが、
大人
になるってことなんだ、って「子供」を
説得
して自殺させる。
しかし、よく考えれば、日本の第二次大戦において、神風特攻隊にしても、回天にしても、まさに、本来なら、我々の未来の担ってくれるはずの、
若者(子供)
こそ「率先して」日本に命を捧げることの象徴的意味こそが、日本軍の、命を恐れず、狂気のように突撃する
神軍
のベースとなっていたわけだ。
つまり、子供の純粋な心さえもが、自らの命を捧げる。
自分から選ぶ。だから、尊いわけだ。
だから、国民全員が、命を捧げることに、「正当性」「義務性」が生まれる。子供という純粋さの極限において、そのような「自生的な」感情が生まれるとするなら、それは、

なわけである。なんの汚れもない、最も純真な子供の心が、なんの曇りもなく判断して、そのような結論になるというなら、これ以上の証明はない、というわけだ。汚れた、俗世間の判断で、利己的に判断して、戦いから逃げる、というのとは「汚れなさ」で完全に負けてる、ってわけだ。
(私は、今後のサブカルチャーにおける、さらなる、自死救国物語の低年齢化、が進むと思っている。)
特に、原作は、8歳の、女の子に、兄貴を守るために、命を捨てさせるわけで、もう、その女の子の言うことが、全然
子供
じゃないんですね。二十歳越えた、OLみたいな、論理立った、筋道で、なぜ、自分が自殺を選ぶのかを、とくとくと、話し始めるには、そこまでして、子供が自殺を選んでほしいのかとゾッとさせられるんですけどね。
一人一人の子供たちは、まったく、子供じゃない。リアリティがない。まさに、「作者」そのもの、である。たんに、作者の脳ミソが乗っかってる、子供の顔の殻をかぶった、大人でしかない。
たとえば、この原作の、ゲーム設定ですけど、まず、第一巻では、ほとんど、契約で説明をしない。つまり、販売時点で、販売者側の説明責任を果たしてないわけで、こういった契約は、近年においては、あまり契約とは呼ばないようになってきている。後出しジャンケンで、後から、どんどん、新ルールが発表されるわけですから、ますます、読んでいる方は、あきれてくる。クーリングオフできねってなにそれ。共感できない。納得感がない。
あと、はっきり言わせてもらいますけど、このゲームが決定的にダメなのは、ようするに、このゲームの作成側が、
いつでも
この世界を消滅させられることが、このゲームの性格上から、決定していることであろう。ということは、どんなにこれを、ゲームっぽく読者に感じさせ、感情移入させようとしても、どっちみち、このゲーム作成者の気まぐれで、いつでも、消されるだけじゃねーかと考えると、バカバカしくなる。
たとえば、48時間、逃げまわることで、決着がつかなかったら、お互いの世界を消滅させる、っていうわけだけど、まず、
このルールをどうやったら信じさせられるのか
から問わなかったら、少しも真実味を感じない。いーじゃねーか。どーせ、このルールを作った奴は、いつでも、この世界を消せるんだろ。だったら、戦わなきゃいい。そして、勝手に、48時間後の世界を次々消し続けりゃいーんじゃねーの? え? このルールを作っただれかさんよ? もし、それが楽しいんだったらな?
なにが世界を守るだ。アホらし。
ようするに、作者の言いたいことは、この作品の最後の第65話に集約している。

てめーらは 命とひきかえに、絶大な力を 自由にできて、仲間を 救えるんだ。
うれしいだろ?

もう一つ 似合わねーこと やってもいいか?
男の子の夢、ってやつだからよ。
ちょっと 照れるぜ。
ジアース、発進。

作者のナルシシズム、ロマンティシズムが、ここまで肥大して、楽しかったかい?
ただ、このまま終わると、ちょっとフェアでない(かもしれない)。
オフィシャルブックにある、以下の指摘は、もう一つの作者の視点を意味している。

現在とはだいぶ異なる『ぼくらの』世界の国際情勢を決定づけたのが、どうやら「日乃レポート事件」らしい。

現在までに断片的に明らかにされたのは、それが実行されて「那覇基地奪還作戦」(おそらくは、沖縄の在日米軍自衛隊の軍事衝突)が行われ、その結果として日米安保が破棄されて在日米軍が撤退、かわって日本と中国の間に日中安保条約を結ばれたということ。以上のことから、「日本のアメリカからの自立と、アジア諸国との強調へ向けた計画」というのが「日乃レポート」の内容だと推測できる。

大樹連司鬼頭莫宏の世界観」

ぼくらのofficial book (IKKI COMIX スペシャル)

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この作品を読むと最初にぶちあたる違和感こそ、何度も「軍人」という言葉が繰り返されることであろう。もちろん、今の日本に「軍人」はいない。つまり、自衛隊しかないからだが(つまり、この世界は今の現代ではないのだ)、この世界において、日本は、アメリカと一線を画している、ということの意味を理解しないと、ほとんど理解できないようにできているということなのだろう。
つまり、この作品の基本線である、特攻隊精神こそ、まさに、この作品において、日本が戦前に回帰している、ということを意味している。つまり、これこそが、日本のアメリカ独立の一つのシュミレーションとなっている、ということなのだろう。
近年のアメリカの基軸通貨としての弱体化とともに、日本のアメリカからの独立が、一部勢力から空想されることの、その先にあるものこそ、当然のように、日本の再特攻隊化なのかもしれない。つまり、この世界の、ロボットのキテレツさに目を奪われてはならない。この作品によって、一つの未来の可能性が提示されているというふうに、検討する必要がある、ということなのだろう。

ぼくらの 1 (IKKI COMIX)

ぼくらの 1 (IKKI COMIX)