不可解なSTAP細胞「論文」

前回紹介した、須田さんという方の本は、今回の事件について、さまざまな角度から迫っているという意味において、まあ、決定版と言ってもいいような内容であることは間違いないのであろう。そして、そういった、いろいろな角度からのアプローチの中でも、以前から疑問であった、

について、再度深く検討されていることは、非常に興味深い。

小保方氏ら、二〇一二年四月にネイチャー、同年六月に米科学誌セル、同年七月に米科学誌サイエンス----と、「三大誌」とも呼ばれる有名科学誌に相次いで投稿した。関係者によると、この三回の投稿論文は小保方誌が執筆し、米ハーバード大学のチャールズ・バカンティ教授が手直ししたという。いずれも筆頭著者は小保方氏で、共著者には、バカンティ氏と若山照彦山梨大学教授のほか、東京女子医科大学の大和雅之教授、バカンティ研究室の小島宏司医師、バカンティ氏の弟のマーティン・バカンティ医師が名を連ねた。
三度の不採択を経て、二〇一二年十二月に笹井氏が加わり、小保方氏と共に全面的な書き直しに取り組んだ。翌年三月、ネイチャーに再び投稿。ネイチャークラスの一流誌の常連である笹井氏の手によって生まれ変わった論文は、査読者が求めた追加実験の結果を加えるなど二回の改訂を経て、十二月二十日に受理された。

捏造の科学者 STAP細胞事件

捏造の科学者 STAP細胞事件

次に気付いたのは、そうした丁寧な指摘の数々が、次の投稿時に生かされた形跡がほとんど見られないということだ。つまり、投稿の回を重ねても、同じような指摘が再びされているのである。
捏造の科学者 STAP細胞事件

このSTAP論文と呼ばれているものは、上記の経緯を経て、都合4回、科学雑誌に投稿されている。しかし、非常に興味深いことは、これらのリジェクトされた際に付された査読者のコメントが、まったく考慮された形跡がない、ということなのである。
普通に考えると、正直、何を言っているのか理解できないであろう。
じゃあ、何をやっていたのであろう、と普通はなるであろう。つまり、査読を通したいという気持ちがあったのか自体が疑わしい、とならないか。やる気があったのか。つまり、この内容に自信があるなら、「誤解」だと思うなら、一個一個その誤解を解いていけばいい。まあ、そうでなければ論文なんて採用されるわけがない。普通はそう考えないか。
これは何を意味しているのであろうか?

「不明瞭で間違った言葉遣いの文章がたくさんある」(ネイチャーの査読者)など、論文の構成や文章の稚拙さ、単語のミスや図の表示上の不備など初歩的な問題点への指摘も目立った。
捏造の科学者 STAP細胞事件

だが、調査委員会によれば、当の小保方氏はサイエンスの査読コメントについてこう説明したという。「精査しておらず、その具体的内容についての認識はない」。
捏造の科学者 STAP細胞事件

まず、この論文の筆頭著者が小保方氏であることから、これらの「全般」において、小保方氏がまずは「責任」を引き受ける位置付けになっていたことを考えるなら、上記の引用は「恐しい」内容だということになるであろう。しかし、記者会見で自分を「不勉強」と言ってしまうような「プロ」なのだから、彼女の場合は何が起きていても不思議じゃない、と考えなければならない。
しかし、だとするなら、上記の経緯を考えたとき、笹井氏の位置付けは、非常に重要な意味をもってくると考えられないだろうか。この人は、いわば、ネイチャー誌の常連であり、すいもあまいもかみわけた、こういった雑誌投稿のエキスパートなのであろう。

----ネイチャーのあと、セル、サイエンスにも送って、全く相手にされずリジェクト(不採択)だったという話だけは聞いたが、それらの三つの論文も査読者のコメントも読んでいない。十、十四日目の発言云々という話も初耳だ----という返事がまずあった。
確かに、CDBの自己点検検証委員会の報告書によれば、笹井氏は、サイエンスに不採択とされた論文を小保方氏が改訂した草稿(二〇一二年十二月十一日バージョン)を参考に、STAP論文の作成をしたとされる。だが、いずれの査読コメントも読んでいないというのは不自然に思えた。
捏造の科学者 STAP細胞事件

笹井氏からはすぐに丁寧な返事があった。「一般論として、こてんぱんに批判された査読コメントを読んでもあまり得ることはありません」としたうえで、西川伸一・副センター長(当時)の話から、「論文の writing(* 書き方)の質が低く、議論がかみ合っていない可能性が高い」と思ったため読まなかったと明かし、こう続けた。
捏造の科学者 STAP細胞事件

笹井さんがリジェクト・コメントを「読んでいなかった」と「言う」意味はなんであろうか? これは、よく考えてみると「恐しい」ことではないか。読まないとは、どういう意味なのだろう? だとするなら、笹井さんは一体、何をやっていたのか。なにを彼の役割だと思って、この仕事を引き受けたのであろうか。
笹井さんは上記のように、この本の記者に返信をしながら、自分がかなり「まずい」ことを口走っていることに、いい加減、自覚されたのではないだろうか。つまり、とにかくも「科学者の態度」として非常に「おかしい」。真面目に仕事をしているように見えない。むろん、こういった「事態」は、なんらかの

  • 別の要因

たとえば、なんとしても「早く」この論文を受理してもらうことが必要だったために、細かい作業を「おろそか」にして、つっぱしったと言うなら、まあ、理屈としては分からなくはないが、もしもそうだとするなら、なぜ

  • こんな基本的な作業自体をおろそかにするまでに

そこまで「急がなければならなかった」のかが、逆に問題になってくるであろう。
大事なポイントは、笹井さんが「ちゃんとやっていた」と自分で思っているのか、そうでないのか、ではなかったのか。今回「だけ」は手抜きで作業していたと笹井さん自身が思っているのか思っていないのか。しかし、彼の「返答」は、まるで、

  • いつも通り「ちゃんとしている」

みたいな官僚答弁なわけであろう。この事件が科学業界の「信用」を失わせた理由が分かるというものである...。