トランプは大統領になるのか?

選挙とは、そもそも私たちが何かを「選択」する制度ではない。というのは、選挙とはこの限られた被選挙人の中の、さまざまな要素を「総合」して、どちらを選ぶか、という行為なのであって、その候補者の「どの要素」を考慮して、このような選択をしたのかを「測る」ような要素をもたないからだ。
さて。トランプは何を言っているのか? 彼が言っているのは、

  • ヒラリーが言わないこと

である。それはヒラリーの「不正義」だ、ということになる。多くの人は思うであろう。もしもヒラリーが不正義なら、彼女が大統領になることはない、と。しかし、ヒラリーとは「党派」的な存在であって、彼女が言う「正義」は、党派的「正義」なのであって、その範囲の外については

  • 言及しない

わけである。というか、だからこそ彼女は、富裕層から「支援」を受けられたのであり、民主党の候補になれたのだ。
他方、トランプの戦略とは何か。彼は、今、目の前にいる聴衆が「言ってほしい」ことを言う。それは、ヒラリーが

  • 言わない

ことなのだ。ヒラリーには絶対に言えない。しかし、ヒラリーが言えないということは、それは「正義」なのではないか。ヒラリーが、なんらかの意味で「不正義」であることを示すのではないのか?
マイケル・ムーアが最近、トランプの「大統領」を予言したことは、彼自身がトランプの性差別、人種差別的な側面を批判しながらも、彼の主張には、ヒラリーにはないような、いや。そもそも、今までの、民主党共和党

  • 一人もいなかった

ような、重要な提言をしていることに注目しているわけである。

マイケル・ムーアデトロイトで財界の会合に出席したトランプがフォードの役員たちを前に、もしメキシコへの工場の移転を進めたら、逆輸入れる車には35%の関税をかけてやる。そうすれば誰もフォードの車など買わないぞと脅しをかけた。驚くべき発言だった。これまでそんなことを言える政治家は民主党にも共和党にも一人もいなかった。その言葉はミシガンやオハイオペンシルバニアの人々の耳には心地よい歌声のようだった。
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私たちはここで、もう一度「保護貿易」について考えなければならない。驚くべきことに、トランプはすでにNAFTAからの撤退を公約として確定している。このことが意味するのは、彼の

についての哲学なのだ。そもそも保護貿易は、近代経済学においては、好ましくない行為と考えられている。なぜなら、経済学とは「比較優位」の哲学のことを言っているから。自由貿易を否定することは、市場機能の「放棄」を意味し、社会主義となる。そうである限り、経済学者は絶対に保護貿易を認められない。
しかし、物事はそう単純なのだろうか?
マイケル・ムーアがこだわっているのは、アメリカの「田舎」において長い間発展してきた「自動車産業」である。彼自身のルーツでもある、こういった工業地帯は、最初は日本、次は中国や南米へと、

  • 工場の移動

によって、慢性的な不況に落とされた。多くの白人の中産階級から没落し、借金を抱え、家を売り、子どもの進学をあきらめ、一体自分たちはなにが悪かったのか、なにか悪いことをしたのか、と問いかけたわけである。
彼らは子どもたちを育てるために、毎日、必死になって働いた。一日一日、きっと未来は良くなると希望をもって生きた。ところが、ある日、経営者は工場をNAFTA地域や南米、中国に移転すると言い始めた。
こうして、アメリカの田舎には「なにもなくなった」。ただただ、毎日の仕事を求めて彷徨う労働者たちを生み出した。
これが「経済学」だ。
しかし、こんなことが許されるのだろうか。彼ら労働者は、毎日、ほんとに一生懸命働いていた。少しも怠けることなく、努力した。そんな人が、こんな「仕打ち」を受ける社会のどこが「理想社会」だろうか。
ようするに、こういった現象は「プロテスタンティズムの経済倫理」に反するのだ。彼らキリスト教徒たちは、その「労働」を「天が与えた使命」と同じように、その命令に尽したのだ。そういった人たちを残酷に扱うことが、本当に許されるのだろうか。
あらゆる労働は「ソフトランディング」しかありえない。それは「政策の知恵」によって、本当は可能だったはずなのだ。
(このことは、完全に日本の工業地帯にもあてはまる。アメリカに起きたことは、次には、日本で起きた。日本はアメリカの敵であるだけでなく、日本もアメリカに「なった」のだ。)
そもそもアメリカは、世界で唯一の軍事大国であり、国内のパトリオティズム、地域愛に対して、なんらかの

を行うことは可能だったはずなのだ。しかし、それをアメリカは行わなかった。アメリカ人が「アメリカ愛」を失くした。そりゃあ、そうである。99%対1%の世界なのだから。
一つだけはっきりしていることは、ヒラリーは今までのアメリカをなに一つ変えようとしていない。この構造に挑もうとしていない。彼女が大統領になる限り、

  • 今まで

が続く(彼女の本質がそれそのものであろうw)。それに対するオールタナティブが「トランプ」であることに、マイケル・ムーアはアイロニカルな態度で答えるしかないわけだ...。