徴用工問題は何が論点なのか?

ここのところ世間を騒がせている、韓国での徴用工の裁判結果であるが、まあ、さすがに論点が出揃ってきたのではないか。
とりあえず、ここでは3点だけ、確認しておきたい。
まず、最初は、今回の判決でなぜ、このような「金額」になったのか、ということになる:

今回の最高裁新日鉄住金に対して原告に1億ウォンずつ慰謝料の支払いを命じる判決を下したが、実際の賠償金額はさらに多い。被害者が請求した1億ウォンのほか、控訴審弁論終結日の2013年6月19日から計算して年20%の利率に相当する金額を追加で支払うべきという付属決定をしたからだ。結果的に被害者は新日鉄住金に対して2億ウォンほどの賠償金の債権を持つことになった。新日鉄住金が賠償しなければ利子はさらに増える。この裁判で1億ウォンの請求金額が適正かどうかは争点にならなかった。新日鉄住金が賠償責任自体を認めなかった理由が大きい。
「うちの祖父も徴用、訴訟を起こせばよいのか」...韓国政府に問い合わせ殺到

ようするに、今回の裁判で新日鉄住金側は、日本政府の主張を「オウム」のように繰り返していただけだたので、それを否定されたときのリスクを考えていなかった、ということなのであろう。しかし、年20%の利子という、根拠もよく分からない「負担」まで強いたれている。こういったことを考えたとき、そもそも海外での裁判を受ける態度として、正しかったのかが疑問なのだが。
さて。二番目であるが、ここでは、なぜこの問題が、それほど韓国国内では

  • もりあがっていないのか?

といった視点で考察してみたい:

カギとなるのは、徴用工やその遺族らの運動が、「遺族会」というくくりの下、元軍人・軍属の遺族とともに行われてきたことだった。軍人・軍属の一部は、将校や志願兵を中心として、自ら進んで日本統治に協力した者として親日派に分類されがちであり、彼らは時に補償を受ける権利をも否定された。「補償を受けられると聞いて申請した結果、返ってきたのは『お前の父親は親日派だ』という認定だった」。このように憤る遺族たちは1人や2人ではない。
慰安婦より根深い「徴用工問題」を蒸し返した韓国の裏事情

文大統領の歴史観は大統領選挙前から一貫していた。2017年に出版された『大韓民国が問う』という自叙伝で文氏は「親日勢力→反共・産業化勢力(70、80年代の経済成長時代の既得権勢力)→地域主義を利用した保守勢力が長い間韓国社会を支配してきた」と主張した。
そして、「親日と独裁、エセ保守勢力を清算することこそが、革命の完成」だと主張した。政権発足後1年半以上も続いている「積弊清算」とは、ずばり、親日勢力、反共勢力、保守勢力の清算を意味する。
徴用工裁判、文政権下で「原告勝訴」の流れできる(ニュースソクラ) - Yahoo!ニュース

この違いは、従軍慰安婦が、あそこまで韓国マスコミで煽られ、政府も何度も何度も言及し、国民的な関心事となっているのと比べて、あまりにもこの「徴用工」問題が、韓国国内で

  • 無関心

であることをよく示しているのではないか。ようするに、文大統領は「徴用工」たちに

  • 援助

を直接、自分がしたくないのだ。なぜなら、そんなことをすれば、自分の支持基盤から、「親日勢力」というレッテルを貼られるから。だから、今だにこの裁判について、おおっぴらな場での言及がない。

漏れ出てくる情報によると、韓国側は財団を作って問題解決しようと考えていたようです。

「強制徴用問題で国際訴訟に向かう日本...ICJは独の軍配を上げた」
専門家らは訴訟よりは公益財団を活用してこそ過去史問題を解決できると強調する。韓国政府は2014年から行政安全部傘下日帝強制動員被害者支援財団を運営している。1965年、韓日請求権交渉で恩恵を受けたポスコ韓国電力公社韓国道路公社などが拠出した基金で遺族支援事業を展開している。今後、日本の戦犯企業からも募金活動を行う予定だ。
https://japanese.joins.com/article/658/246658.html?servcode=A00&sectcode=A10

つまり、募金と言う形で、判決を正当にしつつ、日本企業から金を集められるという案ですね。日本的には「民間企業が独自に募金で対応した」という形にし、韓国的は「戦犯企業が賠償した」という風になるんでしょう。昔の日本なら乗ったかもしれない二面性のある案です。しかし、判決が正当化されてしまった段階で、日韓基本条約は無効化されてますから、今呑み込める案ではありません。
<徴用工改め募集工問題>文大統領、ドヤ顔で演説し…なかった? あれれどうした? (1/2)

ようするに、自分は手を汚さず、でやり通そうとしたのだけれども...、ということなのであろう。
さて、第3点であるが、言うまでもなく、この「パンドラの箱」について言及しないわけにはいかない:

判決文を読むと、大法院の多数意見の論理は以下のような論理構成になっている。
[元徴用工らが求めているのは、未支給賃金や保証金ではなく、日本の不法な植民地支配や侵略と直結した日本企業の反人道的な強制動員に対する慰謝料だ。請求権協定の過程で日本政府は植民地支配の不法性を認めず、強制動員の法的賠償も否認している。そして、日韓請求権協定は、植民地支配の不法性にまったく言及していない。したがって不法な強制動員に対する慰謝料請求権は、「完全かつ最終的に解決」したとされる請求権協定には含まれない。だから、日本企業は元徴用工に慰謝料を支払うべきである。]
つまり、元徴用工の慰謝料請求権というのは、すでに決着している日韓請求権協定の枠外の話であるから、認められるべきものであるという理屈だ。日本企業の賠償責任を認めるために無理やり作り出した理屈という印象がぬぐえない筋立てとなっている。
植民地支配をもたらした1910年の「日韓併合条約」が合法か違法かは日韓の間で激しく論争され、結論が出なかった問題である。一致点が見いだせないからと言って国交正常化しないというわけにはいかない。結局、日韓基本条約では「大日本帝国大韓帝国の間で締結されたすべての条約、協定はもはや無効である」というあいまいな表現で落ち着いた。これも先人たちの知恵である。
今回の判決はこの問題を蒸し返した。「植民地支配は不法である」と言えば、韓国国内では非常にウケがいい。日本に不満を持つ人たちは高く評価するだろう。
徴用工判決の「放置」は日韓関係を泥沼にする | 外交・国際政治

こちらの引用が一番詳しかったから採用させてもらったのだが、ようするに今回の韓国の最高裁判所は、ほとんど、サンフランシスコ講和条約の枠組みから戻って

  • 間違っていた

と言っているのと変わらないような「革命」的な解釈を行っている、ということなのだ。もう一度、該当個所を引用するなら:

[元徴用工らが求めているのは、未支給賃金や保証金ではなく、日本の不法な植民地支配や侵略と直結した日本企業の反人道的な強制動員に対する慰謝料だ。請求権協定の過程で日本政府は植民地支配の不法性を認めず、強制動員の法的賠償も否認している。そして、日韓請求権協定は、植民地支配の不法性にまったく言及していない。したがって不法な強制動員に対する慰謝料請求権は、「完全かつ最終的に解決」したとされる請求権協定には含まれない。だから、日本企業は元徴用工に慰謝料を支払うべきである。]
徴用工判決の「放置」は日韓関係を泥沼にする | 外交・国際政治

ようするに、植民地支配の「慰謝料」を日本は

  • まだ払っていない

と言っているわけである。お分かりであろう。これは、そもそも個人請求権があるのかないのか、なんてレベルを超えたことを言っているわけである:

今回の判決に対して、政治学者で東京大学先端科学技術研究センター助教佐藤信氏は「個人請求権を認める立場の中で、重要なのは7人の意見」と指摘。13人の裁判官のうち、7人が「協定は日本の不法植民地支配に直結していることから個人請求権は消滅していない」と判断したが、佐藤氏は「単純に『請求権がある』と言われるだけで日本政府としてはありえないのに、さらに植民地支配や侵略戦争の問題が解決されていないと言われてしまうと、今まで起こってこなかった問題が"パンドラの箱"のように開いてしまう。徴用工だけではなくあらゆるところに裁判が及んでくる可能性があって、二重にありえない判決」との見方を示す。
徴用工判決は"パンドラの箱" 政治学者「あらゆるところに裁判が及ぶ、二重にありえない判決」

今回の、裁判の結果は、完全に、文大統領の

  • シナリオ通り

の結果であろう。それは、完璧主義者の文大統領らしい、絶対に国内向けに「隙」を作らない、といった強い姿勢が現れているとも言える。彼はそもそも、韓国国内の

と戦い続けてきたポピュリストである。そして、その最終的な「敵」が、

  • 日本

そのものにターゲットが向けられることは、今の北朝鮮との親和政策が、最終的にこの二国での「日本」攻撃にこそ、その野望がある、ということは、ほとんど自明なわけであろう。
この前の済州(チェジュ)島で、さんざん日本には「旭日旗」を使うな、つまり、国旗だけを使え、と要請していたのにもかかわらず、自分のところは、朝鮮水軍の大将であり「抗日の英雄」である李舜臣(イ・スンシン)を称える旗を掲げていわけで、どんなに自分の言っていることが屁理屈の、矛盾だらけでも、ようするに、

  • 日本の鼻をへし折れ

て、国民からヤンヤの喝采さえ浴びられれば、あとはどうでもいい、というわけであろう。
(ネットの韓国の方の書き込みで、旭日旗のような「戦犯旗」と、李舜臣(イ・スンシン)の旗を一緒にするな、こっちは「戦犯旗」じゃない、といった意見が見られたが、韓国が要請していたのは、「国旗だけ」にしてくれ、だったわけでしょう。それを「自ら」は破って、なにも恥じるところがないというのは、ちょっと会話の通じない人という印象ですけどね。)

自分たちに力がない時に結んだ日韓国交正常化に関する合意を踏みにじって見せる----。これこそが保守、左派を問わず韓国人の夢である。韓国では「約束を破ってこそ強者」との意識が根強い。
新日鉄住金が敗訴、韓国で戦時中の徴用工裁判:日経ビジネスオンライン

まあ、この意見に賛成するかはともかくとしても、今回の韓国の最高裁判所の言っていることをそのまま受けとれば、韓国は、個人請求かどうかを問わず

  • 植民地支配の「慰謝料」を日本はまだ払っていない

という立場なのだから、韓国国民の後押しを受けて、韓国は日本に「お金をくれ、くれ」と言ってくるであろう。まあ、私たちはいつまで「たかられ」なければならないのか、という気持ちもあるかもしれないが、これが

の長い道のりだと考えなければならない。それは今の沖縄で、政府が行おうとしている、強権的な米軍基地の押し付けを見ても、なんら国民の民意を反映していないわけで、それぞれの国家には、それぞれの「事情」があるのだと、まずは考えないと、しょうがないわけである。
そもそも考えてみれば、日本の戦後補償にしても、靖国に関係した、軍人年金ばかりで、民間人の被害には、ほとんどなんの補償も国は行わなかったわけであり、これだって考えてみれば、こんなことでいいのか、とは言いたくなるわけで、その延長で考えるなら、韓国の「徴用工」を主張している方々が、自らの権利で、日本の私企業を訴えて、それなりの「和解」をしていくことは、それがお互いが

  • 納得

したことである限りにおいて、将来において歓迎すべきことなのかもしてない、とは言えるわけであろう...。