東京医大による入試差別問題の本質

東京医大の入試における、女性差別問題は、私はこの問題が起きた最初から、少し「違和感」をもっていた。というのは、例えば、けっこう早い段階で、実は「年齢差別」もあったことが分かったからだ。ようするに、なんらかの理由で、留年をした生徒や、それ以前に、なんらかの理由で、学年を「だぶった」生徒は、女性差別と同様に、露骨な差別がされていた。
それで思ったわけである。
この問題の本質は、「女性差別」なのだろうか、と。ようするに、「さまざま」な差別が実は、なされていて、「女性差別」は、その一つに過ぎないのではないか、と。
例えば、この問題が発覚した最初に、医大入試における「女性差別」は

  • 必要悪

なんだ、といった議論が、まことしやかに、ネットのニュースになっていた。しかし、その「理由」は不自然であった。というのも、あまりに「一般論」すぎて、個別具体的な話ではなかったからだ。よく考えてみてほしい。問題は、なぜ東京医大はここまで「露骨」かつ「グロテスク」なまでに、こういった「悪」を繰り返したのか、ということが問われているのであって、少なくとも、他の医大とは差異はあるわけである。

なぜ東京医大は男性受験者を優遇していたのか。それは、東京医大の場合、医師国家試験に合格した卒業生の大半が、東京医大病院をはじめとする系列病院で働くことになるからだ。
東京医大が「女子差別」を続けた根本原因 | プレジデントオンライン

東京医大に限らず、若手医師の待遇は劣悪だ。東京医大の場合、後期研修医(卒後3年から8年程度の若手医師)の給料は月額20万円だ。夜勤手当や超過勤務手当てなどはつくが、この給料で、新宿近辺でマンションを借りて生活しようと思えば、親からの仕送りをもらうか、夜間や休日は当直バイトに精を出すしかない。
しかも、この契約は3年間で満了し、その間も1年更新だ。常勤ではなく、女性医師で妊娠がわかったような場合、雇用契約を継続するかどうかは、東京医大に委ねられる。
この結果、東京医大の人件費率は43%に抑え込まれている。安くてよく働く若手医師を抱えているので、東京医大の利益率は5.8%と高い水準を維持できている。
東京医大が「女子差別」を続けた根本原因 | プレジデントオンライン

彼女たちが大学病院を辞めて困るのは、大学経営者たちだ。医学部経営者が本当に恐れるのは、大学の肩書きを医師たちがありがたがらなくなることだ。市中病院と医師争奪戦をすることになれば、人件費は高騰する。だからこそ、「女性は使えない」ことになり、女性入学者を制限しようとしたのではなかろうか。
東京医大が「女子差別」を続けた根本原因 | プレジデントオンライン

上記のブログは、そもそもの問題を東京医大が実質的な

の「ブラック研修」制度になっていた、ということを暴露したところに特徴がある。
当たり前だが、東京医大病院は、労働力が必要なら、全国の医者から「応募」して、ちゃんと

  • まっとうな給料

を払って、病院の経営を行えばいい。しかし、彼らは「安い労働力」が止められなかった。だから、東京医大の卒業生を「だまくらかし」て、安いお金を働かせた。女性がなぜ、東京医大病院に定着しないのかは、簡単な話で、市中病院に努めた方が、たんに「割がいい」からに過ぎない。
しかし、ここで、ある「疑問」が湧いてくる。そうやって、「安い」給料で、大学病院で働かされた、男の若い医者たちは、「損をした」と思わないのだろうか?
それが、以下のブログでは分析されている:

少なくとも平成8年、1996年ぐらいからは入試不正は行われていたようです。そのことについてサンデー毎日に平成20年、2008年に入試の採点方法がおかしいことをスクープされ、文科省も問題視したため、採点方法を見直そうとしたんだけど、

その後の経緯は定かではないが、上記の確認事項に従って合否の判定を行うと、同窓生の子弟を合格させにくくなってしまったことから、正確な時期は不明であるが、その後の入試委員会において、二次試験の点数を調整するということが行われていた模様である。(p.18)

同窓生、つまりOBOGの子どもを合格させにくくなったことで、再度得点調整をするようになった。
これでも分かるように、東京医大のOBOGからのプレッシャーが得点調整の背景にはあったようで、この点は、内部調査報告書でも指摘されています。

これらに加えて、東京医大では、同窓会から、同窓生の子弟の入学者数を増やすよう理事長や学長に対してプレッシャーがあった点も原因の一つではないかと思われる。すなわち、東京医大新聞の中で、同窓会から、同窓生の子弟の入学が困難であることや同点の場合には同窓生の子弟を優先して入学させることなどの要望が出されたこともあった。
東京医大においては、同窓生からの寄付金が財政上一定の割合を占めていたことから、経営基盤を固める上で、前記(1)ア及びイのとおり、同窓生からの寄付を期待して、その子弟の合格の依頼に応じざるを得なくなっていたことが不正の動機の一つとなっていた可能性がある。(p.36)

入試不正について、個人に起因するものに加えて、このような同窓生からのプレッシャー、その裏側には寄付金があったということからすれば分かりやすいですよね。同窓生からの寄付金の額の割合を調べると入試不正のインセンティブが働きやすい医大とそうでない医大を分けられそう。
ただ、分かりやすいだけに、再発防止は難しいそう。何しろ、寄付金が財政上重要な位置づけなら、入試不正を辞めるというのは寄付金が減るからということだし。
......と思って、東京医科大学の財政情報をチェックしてみたら、教育活動での収入が900億円ぐらいあるうちの、寄付金収入は10億円ぐらいしかありませんでした。
東京医科大学の内部調査報告書を読んでると、入試不正の再発防止は無理なんじゃないかと思ったけど・・・ - 斗比主閲子の姑日記

つまり、この大学を卒業して、医大病院に入って、安いお金で働かされた人たちは、

  • 同窓会

という形で、大学に「権力」をもつようになる。大学は、彼ら、安いお金で働かせた、かつての学生たちに頭が上がらない。よって、彼らの

  • 要望

には、なんとしても叶えなければ、ボイコットされても不思議じゃないわけで、そもそも、大学運営も大学病院運営も成り立たないのだ。
上記の東京医大の内部調査報告書では、一見すると、「同窓会」からの

  • 寄付

が多額で、無視できなかった、といった論調で議論がされているが、上記の最後の引用でも分かるように、それは「嘘」で、金額ということでは、むしろ、医大病院で卒業生を安く働かせられていることによる

  • ブラック現場

錬金術の方にこそ、圧倒的な利益の源があることが分かるであろう。
さて。この事件を受けて、全国医学部長病院長会議という団体が、ある声明を出したそうである。
この声明では、女性差別、年齢差別については、「絶対悪」として、以降、絶対にあってはならない、という基本的な声明を出しながら、ある一点において、もごもごとお茶を濁したような議論をしている:

卒業生の子らの入学枠は容認。委員長を務めた嘉山孝正・山形大参与は「親が医療人であれば医師になるのをやめにくく愛校心が強い」などと説明した。ただ、不正をうむ余地があるなどとして、要件の明示や特定の人物が合格を判定しない制度にすることを前提にした。今後さらに議論が必要だとした。
医学部入試の性差別、許さない 学部長らの会議が規範:朝日新聞デジタル

この結論は、上記までで推論してきたことと整合性があるわけで、ようするに、この東京医大入試差別問題の本質は

  • 子どものコネ入学

をなんとかして実現したかった、ということが分かるであろう。つまり、女性差別も、年齢差別も、「コネ」を実現するための「席順」をなんとかして開けるために考えられた、ていのいい

  • 言い訳

だった、ということになるであろう。
さて。
だとするなら、この問題は、どのように解決されることが望ましいだろう?
私は、とりあえず、大学受験ということに焦点をしぼるなら、以下の持論をもっている:

  • 現在の、一発試験による「篩い分け」は、受験生を非人道的に扱う行為と考えているので、廃止すべき。
  • 大学受験は、基本的に、「一定の理解度」を超えている生徒は、原則「全員」合格にすべき。ここで図りたいのは「授業についていけるのか」などの能力であって、たんに点数の高低による「足切り」は無意味だから。よって、なんらかの全国共通試験のようなものを行うのだとすれば、一年で何回も受けられるようにして、そこから大学が、「うちの大学の授業についてこれる」と判断したら、基本は合格扱いにする。
  • 大事なことは、教育は「権利」なのであって、もしそれが教育だったら、だれもが受けられるようになっていなければならない。逆にそれが、教育ではなく、「研究」ならば、今度は、その「研究」をやってもらう側が、「給料」を払わなければならない、という関係であること。
  • しかし、リアリストが問題にするのが、各大学には、「定員」があって、定員オーバーになった場合にどうすればいいのか、と質問するであろう。しかし、この場合、「定員」とはなんだろう? もちろん、たくさんの学生が入学してくれば、大学には、その分の入学金や授業料が「収入」として入って来て、また、入学生の人数に比例して、国からの補助金もあるだろう。また、医学部が人気がありすぎて、医者が「余って」きたら、そりゃあ、市場原理なんだから、医者の給料も「適正」な値に均衡して、そんなに下がったのなら、わざわざ医者になるのを止めようと考える人も増えていくだろう。
  • そもそも、私は「大学教授」という「役職」をなくしていいんじゃないのか、と考えている。大学で教鞭をふるうのは、あくまで多くの研究を行い、多くの論文を書き、一定の「評価」をされた人が、やればいいというだけで、別に、それであるなら、だれが教壇に立ったっていい。そもそも、例えば博士課程以降の学生も教授も同じ「研究者」なのだから、その扱いを分かる意味が分からない。

なぜ子どもの「コネ」入学が問題になるのか? それは、この行為が、例えば、女性差別や年齢差別のように、他の本来は入学できたはずの子どもの将来の目をつむからなわけであろう。
だから、「コネ」だろうと、なんだろうと、一定の「学力」があることが証明され、これから大学の授業に着いてこれることを大学の先生たちも安心して迎えられるなら、原則、全員入学させる、ってことでいいんじゃないでしょうか? まあ、こんなのダメだー、とか、いきって、怒ってこられる人もいるかもしれないけれど、東京の地下鉄だって、どんなに満員だって、毎日走っていますし、満員なら満員で、新しい路線ができたりしますからね。これと、何が違うんだろう、としか思わないんですよね...。