マイクロキメリズム

まあ、どうでもいい話なのだが、芸能人の大沢樹生喜多嶋舞の子どもが本当に大沢の子どもなのかを争って、裁判の過程で、DNA鑑定を行われる、という話題が以前にあった。
(ちなみに、今年に入ってからも、子どもの事件が取り上げられ、

暴行日常化、ほとんどヒモ状態… 大沢樹生・喜多嶋舞さんの長男、DVで逮捕 DNA鑑定で注目 - zakzak

今だにこの話題は続いているんだな、ということを思わされた。)
そしてその結果はなんと、大沢の子どもの確率は0%だ、と言うわけである。
しかし、このことはよく考えてみると、なにを言っているのか分からなくなる側面がある。この場合、なにをもって「0%」なのかが、よく分からないからだ。
まあ、そうは言われても、専門家ではない私たちには、なんのことを言っているのだ、という感じで、どっちにしろトンチンカンな話にしか聞こえないわけだが、例えば、以下の記事ではそれを

  • マイクロキメリズム

の観点から迫っている。

たしかに20年以上前と比べて、DNA鑑定の精度は飛躍的に向上しているだろう。しかし、それでも"0%"と言い切れる結果は得られないはずだ。"ほぼ0%"であれば、それは0%ではない。そしてもう一つ、考慮しなければならないのが、「DNAキメラ」の存在だ。
喜多嶋舞の主張は正しい!? 大沢が行ったDNA鑑定の死角「マイクロキメリズム現象」を考慮していない可能性|BIGLOBEニュース

2002年、米国ワシントン州に暮らす26歳のシングルマザーが、生活保護を受けるために3人の子どもとの親子関係を証明するDNA鑑定を受けた。すると、別れた父親と子どものDNAは一致するが、シングルマザー本人と子どものDNAが一致しない。「実母でない」という結果が出てしまったのだ。
しかし有能な弁護士や医師たちによる尽力の結果、シングルマザーの全身50カ所から採取したDNAのうち、子宮から採取したDNAが子どもと一致することが判明。晴れて親子関係が証明されるに至った。そう、シングルマザーのDNAは「DNAキメラ」であり、DNAを採取する体の場所によって、細胞内に含まれる染色体や遺伝子が異なっていたというわけだ。
喜多嶋舞の主張は正しい!? 大沢が行ったDNA鑑定の死角「マイクロキメリズム現象」を考慮していない可能性|BIGLOBEニュース

人間の体を構成する細胞のかなりの割合が、

  • 自分由来ではない

他人の細胞である可能性がある、というこの「マイクロキメリズム」は、しかし、この話はここで終わらない。

遡ること2004年、この謎に迫るべくアメリカの「フレッドハッチンソンがん研究センター」で、男児出産経験のない120人の女性を対象に調査が行なわれた。被験者の女性たちの血液細胞を調べてみるとやはり、男児出産経験がないにもかかわらず、21%の女性がY染色体を持っていることがわかったのだ。
因果関係を分かりやすくするために、この21%の女性を4種類に分類してみると、さらに興味深い傾向が分かったのだ。その4分類と、Y染色体保有の割合が下記だ(3%の女性は分類不可能のようだ)。

  • A=女児のみ出産した女性:8%
  • B=自然流産の経験のある女性:22%
  • C=人工流産(人工妊娠中絶)経験がある女性:57%
  • D=妊娠をしたことがない女性:10%

流産の場合、胎児の性別が不明(あるいは確認しない)であることが多いと思われるため、BとCは男児を懐妊していたかもしれず、そのぶんY染色体保有率が高いのは納得がいく。しかしなぜCとBにこれほどの差があるのかはよく分からない。
ともあれ注目すべきなのは、マイクロキメリズム現象を引き起こす要素がまったくないにもかかわらずY染色体保有しているAとDだろう。そしてAとDがY染色体を獲得するには、以下のことが考えられるという。

  • 1.気づかないで流産した男児からY染色体を獲得(該当していた場合)
  • 2.双子(多胎児)の男の兄弟からY染色体を獲得(異性を含む多胎児の場合)
  • 3.兄から母体を経由して兄由来のY染色体を獲得(兄がいる場合)
  • 4.男性とのセックスでY染色体を獲得

残念ながらこの研究はここで終わっておりさらなる調査を未来に託すことになったが、「4.男性とのセックスでY染色体を獲得」という可能性が指摘されたのは興味深い。妊娠に到らなくとも、セックスによって相手の男性のY染色体を獲得するかもしれないというのだ。とすれば、その後に別の男性と結婚して授かった子どもに、以前セックスした男性の影響が及ぶことも有り得るということになる。
ある個体の遺伝子情報の伝承は、直接我が子を生むことだけにはとどまらないという考え方も以前から注目されている。人間を含む生物はウイルスを媒介にして遺伝子を交流させお互いに影響を与え合い、一部の遺伝子情報を書き換えているというのだ。そして生物の進化もまたウイルスの感染によって起きていると考えるのが「ウイルス進化論」である。
ウイルスが媒介になりうるのなら、妊娠には到らないにしても濃厚な粘膜の接触(!)を伴うセックスが遺伝子レベルの影響を及ぼさないはずがないと考えるのは真っ当なことかもしれない。
あえて誤解を怖れずに言えば、この「ウイルス進化論」は生涯独身でいることが濃厚な男女にとって希望の光かもしれない。生殖行為を行なわなくても、なんらかの形(!?)で自己の遺伝子を後世に残せる可能性があるからだ。また、最愛の人とゴールインする夢を果たせずに結婚生活を送る女性にとっても夢が広がるものになりそうだ。なぜなら過去に愛した人の"遺伝情報"が我が身に消えることなく刻みつけられており、授かった我が子に影響を与えるかもしれないからだ。とすれば、その後別れることになるにしてもしっかり身体に記録される1回1回の"恋の逢瀬"が、これまで以上に大切に感じられてくるのではないだろうか。行きずりの恋、一夜の過ちなら誰でもいい、というわけにはいかないことにもなるのでご留意されたし......。
【驚異の遺伝子学】昔セックスした男の遺伝子は女の体内に残り続ける!? (2015年8月5日) - エキサイトニュース

いや。むしろ、ここで問われているのは遺伝子という

なのではないか? 私たちが考える二人の親から受け継いだ遺伝子という「神聖」なものが、その結果である

  • 家族という共同体

をもたらす、という考えは、そういった確固とした「アイデンティティ」が、まるで自明に「ある」かのように語られるし、それが「科学的」だとされるわけだが、上記の記事では、そうではなく

  • 母親の過去の男性遍歴

が産まれる子どもの「遺伝子」を構成すらする、と言っているわけで、少しも、二人の親の「半分のアイデンティティ」なんかじゃない。
例えば、上記の大沢、喜多嶋夫妻にしても、かなり深刻な「DV」が子どもに対してなされていた、という話を聞く。

「小さい頃、ママからひどいことをされていたのが、僕に残る最初の記憶」として、喜多嶋から包丁を突きつけられたり、髪をつかまれ頭を風呂に沈められるなどの虐待が日常的にあったとし、小学3年生のときにはハイヒールで殴られ大出血。
実父判明!大沢樹生・喜多嶋舞の息子の父親は伏石泰宏だった!? - NAVER まとめ

しかしそれは、まさに「遺伝子」こそがアイデンティティだと考える「イデオロギー」が強いた態度でもあったわけであろう。私に言わせれば、こういった「科学主義」という名の

  • 二元論

こそが、新しい現代の

  • 神学

なんじゃないのか、と疑っているわけで、私たちはもう少し「多様」な人間の関係というものを考えるべきなんじゃないのか、とどうしても疑いたくなるわけである。
例えば、こんなツイッターでの、つぶやきがあった。

私は三年前、中村という男にストーカーされていたのですが、ひと気のない路地で酔っ払いに絡まれた際、咄嗟に「中村ァ!!」と叫んだら物陰から中村が飛び出してきたのでサーヴァントみたいだと思った
@kitsune__neko 2019/06/24 05:12

中村は生前、ムシキングばかりしていたので喧嘩の腕には自信があったそうです
@kitsune__neko 2019/06/24 22:41

もちろんストーカーは深刻な犯罪だが、人間はこうやって、多様な、なんらかの「関係」の中で、現れる現象でしか、ありえないわけで、そこから避けて逃げることはできない。つまり、単純に全てを二元論でわりきるのではなく、さまざまな多様なものとして、それをそのまま「理解」することが求められているのであろう...。