さて。衆議院選挙の結果であるが、これをどう考えるのか、なのだろう。
まずは、投票率だ。旧民主党政権誕生から見てみると、以下となる:
- 投票率:2009年(69.28%)、2012年(59.32%)、2014年(52.66%)、2017年(53.68%)、2021年(55.93%)
つまり、投票率が低かった、ということだ。ということは、当然、「野党苦戦」が考えられた、ということを意味する。組織票をもっている、自民党に野党が勝つには、どうしても、投票率が上がる必要があるわけだが、それが実現できなかった、ということが分かる。
まず、今回の2021年。
詳細が以下。
ここで今、問題になっているのが、
- 立憲:現有109 → 今回96
- 共産:現有012 → 今回10
という形で、「政権交代」を訴えたのにもかかわらず、かなり減らした形になったことで、枝野代表の責任が問われて、ついさっき、辞任を発表した、というわけだ。
また、
- 維新:現有11 → 今回41
と、大幅に拡大した、ということになりますね。
ちなみに、前回の2017年が以下。
こうやって見ると、
- 立憲:前回55 → 今回96
で、まず「増えて」いるんだけれど、前回は「希望の党」があった、というわけですね。いろいろと、離合集散があったので、選挙直前の人数が増えたわけだ。
あと、維新はどうなのかというと、
- 維新:2014年41 → 2017年11 → 2021年41
と、前々回と一緒になった、ということになる。
では、それぞれでの票数はどうかというと:
- 立憲:前回比例37 → 今回比例39
- 共産:前回比例11 → 今回比例09
- 立憲:前回小区18 → 今回小区57
- 共産:前回小区01 → 今回小区01
こうやって見ると、
- 立憲の今回の小選挙区は、かなり勝っている
と言いたくなるわけだ。また、今回の小選挙区は、接戦が多かった。1万くらいしか差がないところが多かった。つまり、これがちょっとしたことで、ひっくり返った可能性はある。
ただ、比例代表制で、立憲も共産党も「変わっていない」というのは、投票率が例年並みに低かった、というところから、本質的な増加は起きていない、と言わざるをえないだろう。
では、過去から振り返ってみて、どういった場合に野党が票を伸ばしたのかといえば、まず一つは
- 投票率が高くなった
とき、と言えるだろう。しかし、これは因果関係ということでは、
- 「革新」の野党
が勢力を伸ばしてきたわけである。たとえば、旧民主党は、子ども手当と高速道路無料化であり、事業仕分けといったような
- 改革政策
で勝ったんだよね。それは、希望の党が躍進したときも、維新の会が躍進したときもそう。なんらかの「改革」を訴えたときに、ムーブメントが起きている。
対して、今回の市民連合主導の野党連合は、そもそもその市民連合が
- 安保法改正
に対する反対運動から始まった集団なわけでしょ。つまり、
を主張する、「学者」集団が、そのコアにいるんだよね。つまり、
- 国家はルールをちゃんと守れ
の一点で、野党は連合「できる」、という旗印の運動だったわけなんだね。そういった、「ルールを守ろう」だから、主張の違う各党も、この一点では行動を共にできるね、で始めているから、今回の野党の公約は、必然的に
といったように、基本的に「みんなで決めたルールを守ろう」といったような主張がメインになってしまい、
- 今の既存のルールを変えて、社会を変革する
といった方面の、改革の主張がすっぽり抜け落ちてしまった、というのが実際なんじゃないか。
つまり、野党連合の主張をまとめると、
となっていて、つまりは、
- みんなでルールを守ろう
という主張なんですね。そのために、必然的に
- 今のルールを「変えて」、新しいルールを作ろう
という主張が弱い。いや、もっと言えば、「それ」が野党連合の「主張」となっていない(各党で言っていることがバラバラ)なので、
- 今まで、野党を応援していた人
は、比較的にそのまま、野党に投票してくれても、
- 今まで、野党を応援していなかった人
が、今回、野党に投票しように「変わらなかった」ということになるのではないだろうか。
今回の野党の主張は、今までの与党である自民党政権は「ルールを守らなかった」から、今の社会がダメになっている。だから、「ルールを守るようにしよう」と呼びかけ、私たちはルールを守れます、から私たちに投票してくれ、という主張なんですね。
しかし、問題は「本当に今のルールを徹底すれば、良い社会になるのか?」なわけでしょう。今のルールをどんなに徹底しても、
- 今の生活が苦しい人
がいるんじゃないですか? つまり、野党はそういった人を救おうとしていないんですね。これって、どういうことかというと、
- 学歴のない人
- 収入の少ない人
に対して、
- あなたたちは「自己責任」ですから、今のまま我慢してください。でも、「セーフティネット」に落ちてきたら「助けて」あげます
という主張なんですね。つまり、基本的には、今の自民党の主張と変わらないわけです。
彼らのアジェンダの中には、
- どうやったら、学歴のない人が今の社会を「生きづらい」と思っている苦しさを「救える」のか?
- どうやったら、収入の少ない人が今の社会を「生きづらい」と思っている苦しさを「救える」のか?
という観点がないわけです。つまり、完全な
- 保守思想
なんですね。保守思想ということは、
- 今の社会階層を基本的には「保持する」
という主張となります。つまり、お金持ちの家と貧乏人の家のこの「格差」をなくさない、ということです。これは「そのまま」にする、と言っている人たちなんですね。
では、なぜこういうことになるのかというと、当たり前ですけど、エッジの効いた、社会変革のアイデアは、少数の人の中から出てくるんですね。つまり、そもそも社会変革は、少数の人のアイデアなわけです。よって、それを全体の共通理解にまで上げていくのには、時間がかかる。つまり、ある程度、トップダウンでやるしかないんだけれど、そうすると
- 組織が、そういった形でトップダウンになっていないと限界がある
ということになります。それが、政党をまたいでまで、共通理解となるのは、難しかったんですね。
早い話、今回の選挙は、野党連合がそれぞれ「言っていることが違う」と感じて、
- 矛盾している
と受けとられたんだと思うんですね。特に、「改革」についてのアジェンダに対しては。よって、疑わしいから、わざわざ(今まで野党に投票していなかったのに)今回は野党に投票しよう、とまで思わなかった、ということなのだと思う。
では、この野党連合の「バラバラさ」がどこから来たのかといえば、一つは間違いなく、
- 連合
に対する立憲民主党の態度がありますよね。
あのさ。以下の動画を見てほしいんだけど、
www.youtube.com
こちら、中野昌宏先生が、
の歴史について講義してくれている動画なんだけど、長いけど、大変に勉強になる内容なんですね。
まず、岸信介がスガモプリズンで、笹川良一と知り合って、この流れで、彼が統一教会の人と関わるようになって、
が語られている。その関係が、2000年代くらいまでに一時期疎遠になったんだけれど、安倍政権くらいから、また復活してきた、ということですね。
あと、
ですね。つまり、「共産主義に勝利するための国際連盟」で、ようするに反共団体です。こちらは、設立者が文鮮明なわけで、当たり前ですけど、統一協会の団体なわけだけど、上記の動画でも紹介されているけど、この勝共連合のホームページで主張している内容が、ほとんど安倍政権当時から今に続く政権の主張と同じなんですよね。
そして、この統一教会系の団体と政治家との関係だけど、古くは、石原慎太郎がいたり、最近では前原前民主党の名前があったりで、まあ、マスコミとかで、「反共」を叫んできた人たちと重複しているわけで、当然予想ができるわけだけど、そういった人たちと統一教会との関係はかなり深いのだろうと考えざるをえないわけだ(私は、東浩紀先生や宮台真司先生も疑わしいと思っていますけどね)。
では、なんで統一教会が反共を叫んできたのかというと、
中野:(統一教会が)なんで反共としなきゃいけないかというと、(宗教には)敵がいるからなんです。メシアに対してサタンがいるわけなんです。共産主義者というのはサタンなんですよ。だから、第三次世界大戦を起こして、サタンを滅ぼさなければいけないと言っているのです。
自民党の団結を生み出す反共の起源〜統一教会や勝共連合などについて中野 昌宏先生とライブ〜 - YouTube
という感じで、まあ、宗教は「敵との戦い」というのをどうしても掲げないと、求心力が生まれないのでしょうね。
対して、上記でも話題にした、連合の「日本共産党嫌い」は、そもそも昔から続く、日本共産党と社会党との根深い対立が、連綿と続いている、ということがあるわけだ。そうした場合に、連合の側が、過去を水に流して、日本共産党と手を組むというふうに、その中枢の人たちはならない。そもそも彼らは、大企業の成功者なわけで、なんで自説を曲げなければならないのか、さっぱり分からない。そう考えると、そもそも、連合の人たちは、
- 政権交代を求めていない
と考えることができる。彼らは、自分たちの給料が高くなればいいと考えているわけで、対して今問題なのは、グローバル企業との競争なのだから、野党とタッグを組まなければならないという動機が少ないのだろう。
例えば、安倍政権の金融緩和や円安政策は、そういった企業の国際競争を後押しするものだったし、アベノミクスと平行して起きた、大卒の就職率の改善も、多くの若者に、野党を応援する動機を失くさせている。また、本気かどうかは疑わしいとしても、首相が企業の給料を上げるように、企業に要請しているわけで、むしろ、与党の方が話が通じる、とさえ考えているのかもしれない。
そう考えてくると、今回の立憲民主党の党首辞任が、
- 連合と日本共産党との「かけひき」
の中で、国民に
- 曖昧な態度
をしていると受け取られたと考えるなら、なんらかの形で、この昔から続く
- 反共イデオロギー
を否定するにしても、一部その主張を認めるにしても、立憲民主党はこれに対して、明確な態度を決めなければ前に進めない、というのは間違いないだろう。しかし、その答えはもう出ているわけだ。つまり、野党連合はその絶大な効果を考えるなら、避けられない。そうではなくて、
- (昔の社会党の頃のまま)なにも変われない連合
と、どうやって距離をとっていくのか、が問われているわけだが、それにしても、今回の立憲民主党の態度は、あまりにも「子どもじみた」ものだったわけだ。野党共闘と言いながら、徹底して、日本共産党をシカトするような態度を続けてw まあ、こんな政党が選挙に勝てるわけないよな。国民を馬鹿にするのも、いい加減にしろ、というわけだ...。
追記:
今回の維新の躍進について触れなかったけど、私は大きな理由の一つは、新型コロナだと思っていう。連日報道され、関西圏のテレビで、府知事が連日発言をして、一定の成果があったと考えられたのだと思っている。そう言うと、ネットでは、「大阪府の新型コロナによる死者の多さ」から否定的な発言が多いわけだけど、そうじゃないんですね。
- 彼ら維新は「政府が自分たちを助けてくれない」から、この程度の不十分な対応になってしまった
というロジックなんですね。だから、敵である政府を倒して、維新を勝たせてくれ、という話になっている。
そう考えると、おそらく、小池東京都知事が国政に、地方政党を作って、選挙戦を行っていたら、一定の票が入った可能性があると思う。
私はこういった視点で考えたとき、野党連合は、小池や維新を巻き込む、「改革」を旗印とした戦略を行う必要があると思っている。例えば、選挙討論で夫婦別姓を容認するか、と党首に聞いたら、自民党以外は賛成したんだよね。あと、最近でも、維新の府知事が、時限的な消費税の5パーセント化に賛成しているわけ。つまり、
- 是是非非
でやらないと、野党の考える政策が実現できない、ということなんですね。あんまり相手の人格を言ってても、国民のためにならない。そんなことばかり言っていると、昔からの、日本共産党と社会党の仲が悪かった関係のようになって、結果として、自民党が漁夫の利を得つづけることになってしまうわけで、なんらかの合理的な臨機応変さが求められていると思うわけだが、もともとが市民連合の「安保法反対」から始まってますからね。お互いが近づいた理由がそれだから、他人に求める倫理的な水準が高くなってしまうんでしょうね...。