失われたX0年

日本のバブル崩壊以降、そもそも、日本は「失われた10年」といって、そこから「好景気」に一度もなったことがない、と言われている。
確かに、バブル崩壊は、不動産神話の崩壊として大きかったわけだけど、それ以降の日本経済は

  • 中国

との関係において、絶対的な「労働力賃金の格差」によって、

  • 恒久的なデフレ

が絶対視されてきた、といった側面が大きかったように思われる。つまり、その頃から、アメリカを中心とした、グローバル企業が、中国の労働者を使うようになって、

  • 世界の「工場」が中国に移転した

という、端的な事実がある。まあ、当然ながら日本もその前例に習い、中国進出をしたわけだが、結局、そういった海外進出をした日本企業の工場が、今に至るまで、日本に戻って来たという話は聞かないわけだ。
しかし、それを目的にして行われたのが、アベノミクスだったはずなのだから、そもそも、なんのためにアベノミクスであり、金融緩和が行われてきたのかが、よく分からなくなっている、というのが今の実情なんじゃないか。
アベノミクスが始まったとき、よく話されていたことが、

  • 石油価格

であった。つまり、なぜ今までアベノミクスが続いてきたのかを考えると、明らかに、それまでの石油価格の低さが支えてきたのだろう、ということが分かる。
ところが、ここ半年くらい、右肩上がりで石油が高くなっている。石油が高くなると、ガソリンも遅れて上がるわけだけど、このまま、石油価格の上昇が続くとすると、円安の日本は、海外から石油を手頃な値段で買うことが、ますます難しくなっていくわけで、そう簡単に円安を続けることが難しくなっていくのかもしれない。
また、さまざまな日常品が物価高となっていて、その中でも、半導体の入手が難しくなって、電化製品が品薄となっている。
アジアにおける新型コロナは、それまでは比較的に感染が広がらなかったのにもかかわらず、デルタ株は、今年に入って、アジア諸国全般に、甚大な被害を広げている。しかし、アジアは、世界の工場の集積地である。ところが、その地域に、現在、新型コロナが広がっているわけですから、必然的に、物資の供給が閉鎖されるわけで、ようするに、そういった工場の労働者は、工場で働けなくなるわけだ。
そもそも、日本はバブル以降、完全に成長が止まってしまった。それは、近くに、

  • 急に

超巨大市場である、中国が現れたからだった。それまで中国は、社会主義国として、今の北朝鮮のように、グローバル市場に組込まれていなかった。これを変えたのが、アメリカのグローバル企業だった。彼らは、積極的に中国市場を、

  • 安い労働力

として利用することを、一つのビジネスモデルとして採用することに、成功した。
それに対して、日本は、いわゆる「アベノミクス」と呼ばれる、金融政策で対抗した。意図的に、円安に「誘導」して、日本企業の

  • 輸出能力

を助ける、という政策に出た。
しかし、である。
結果として、日本市場が労働市場として、元の競争力を獲得することはできなかった。その理由は、圧倒的な中国市場の安さであったわけで、この安さを超える「イノベーション」は難しかったわけである。
しかし、それは、そもそも

がそうだったわけである。

沈む賃金 貯蓄ゼロ【兪炳匡のどん底ニッポンを立て直す!】① 20211023 - YouTube
製造業より医療介護~雇用と富を生み出す産業【兪炳匡のどん底ニッポンを立て直す!】② 20211023 - YouTube

上記の動画は、兪炳匡先生の提言であるが、ここでは今のアメリカの現状が語られている。アメリカは確かに

  • GAFA

だけは例外である。しかし、こういった企業はいくら大企業と言っても、しょせんはIT企業なので、そこまでの労働力は必要としない。
では、アメリカの多くの労働者がどこで働いているのかというと、それが

だと言うわけである。それ以外の分野は、そもそも海外にアウトソーシングできる。オペレーターなら、英語が上手なインドとかにお願いすればいいわけだし、わざわざ国内の賃金の高い労働者を使う動機がないわけである。
対して、唯一のその例外が、医療関係である。注射をするのにも、まだ、「ロボット」にそれをさせるわけにはいかない。つまり、人間の間の接触が必須な分野として、最後に遺されたフロンティアが医療関係だ、というわけである。
上記の動画では、アメリカの人気企業のトップ10が紹介されているが、上位のほとんどがGAFAを除けば、医療関係である。医療関係だけが、アメリカでは唯一給料がいいわけである。
アメリカは、医療関係と、政府機関が、日本に比べて、大量に雇用を生み出している。他は、たとえ、国内に工場があったとしても、全部、AI化されていて、雇用を生み出さない。
しかし、他方において、それによって、そういった分野の労働者の

  • 賃金

が非常に高くなっている、という特徴がある。
日本はバブル以降、ほとんど給料が上がっていない。しかし、それと一緒に

  • 物価

も上がってこなかった。
対して、アメリカは、日本が「止まって」いた、この30年間も、まったくそれまでと同じように、給料は上がり、物価も上がっていた。今では、アメリカは日本の給料の何倍と言われるし、そもそも、物価が何倍となっている。
しかし、それは「日本以外」の国では、どこでもそうなのであって、日本だけが、おかしいわけである。
なぜ、日本は、そうなったのか?
まず、今の日本企業を見てみると、そもそも、この30年間。ほとんど、大企業は倒産していない。昔の大企業がそのまま残っている。あれだけアメリカで、淘汰されているのに。まさに、

のように残っている。そういった企業は、そもそも労働者に給料を30年前と変わらない水準しか払っていないだけでなく、企業の成長のための「投資」もしていない。ただただ、ひたすら

しているだけなのだ。
そういった日本企業は、そこまでアメリカと変わったことはしていない。アメリカと同じように、中国にアウトソーシングして、工場は中国にある。日本に工場があっても、AI化されて、労働者は、ほとんどいない。
では、なぜ日本とアメリカには差ができているのか? 日本は「物価」が上がらない。少なくとも、今まではそうだった。それは、例えば、田舎の農家が、海外の技能実習生を、

  • ほとんど奴隷と変わらない

扱いで、その労働力を使ってきたからだ。つまり、徹底したコストカットをやってきたからだ。しかし、そもそも、まともに労働力を雇えないなら、値上げするしかないんじゃないか、と思うわけだろう。しかし、日本はそれができなかった。つまり、

  • 中国の商品

と競争をしてきたからだ。
そうだとすると、だ。
今度は、なぜ日本は、アメリカのように、「医療機関」や「政府機関」で働く労働者が増えないのだろう? これには、日本の事情があるように思う。一つは、日本の皆保険制度が

  • うまくいきすぎている

から、ということになるだろう。つまり、医療費が増えないわけである。いや、正確に言うと、新薬などによって、医療費はずっと増えているのだが、それが

  • 労働賃金

として、支払われない。ある種の「社会主義」が実現できている、ということがある。
まず、医者が増えない。これは、医師会が政治家に圧力をかけて、徹底して、その数を抑えてきたことにある。そのため、一人一人の医者の給料は上がっても、全体の金額は低く抑えられている。
そして、この医師の数に比例して看護師も少ない。他方、介護士などの老人介護に関わる人たちは、徹底して、国が

  • 低い給料

に抑えている。そのため、この市場に参入してくる労働者が少ない、という事態になっている。
しかし、当たり前だが、この低待遇には、アメリカの実情を考えれば、限界は近いのではないか。
おそらく、日本は近いうちに、

に変わってくる。ほとんどの労働者は、医療機関と政府機関で働くようになる。そして、それ以外は、日本のGAFAのようなところ以外は、全て

されるようになる。そうしたとき、ほとんどの労働者が医療機関と政府機関で働くのだから、必然的に

  • これらで働く人の「給料」を増やさないわけにはいかない

ようになる。つまり、労働者の給料が上がる。このことは、

  • 日本の物価が上がる

ことを意味していくわけで、必然的に日本の「アメリカ化」が生まれる。
日本のアベノミクス政策の、分かりやすい特徴は「新卒の就職率」が、一貫して高かったことだ。これは、上記までを見れば分かるだろう。つまり、

  • 古い日本企業を政府が生き残らせた

からであって、円安によって、企業を「倒産させない」という方法を選んだから、必然的に各企業は

  • 去年並みの採用

を続けられる、という結果になった。つまり、倒産の心配をしなくていいから、毎年、例年並みの採用を続けても、倒産しない、というのが続いている、ということを意味する。
この結果は、圧倒的に若者の支持を得た。これが、今の選挙で自民党が若者に強い理由を示している。
確かに、こうやって若者の支持をつなぎとめれば、選挙では有利だろう。しかし、それによって、日本の国際的な地位は、一貫して下がり続けてきた、という現実がある。
まず、国際的な労働者の給料の額が、日本はどんどん、国際水準から下がってしまった。相当なお金持ちでもない限り、そう簡単に、海外旅行は難しくなっている。
そして、おそらくは決定的な「きっかけ」「打撃」となるのが

であろう。これによって、もしかしたら、近いうちに、日本は、そう簡単に立ち直れないくらいに、国際的な地位を下げるかもしれない。そして、それが、もしかしたら今の日銀の、金融政策、低金利政策の「終わり」を意味するのかもしれない。やはり、どう考えても、無理があるように思われる。
つまり、そう考えるなら、北欧のように、

への大転換を、どうしても日本は強いられていくのではないか。つまり、その方向にしか、日本は生き残る道はないのではないか。しかし、もしもそうならば、あまりにも今の日本には、その

  • 覚悟

がないように思われる。いずれにしても、バブル崩壊以降から、アベノミクスにおいて選択された低金利政策は、

  • マーケット・メカニズム

という、国際的なバランスと、あまりにも違っているわけで、そういった(国際基準から見た常識的なものと違った)経済的な態度を、そうそう何十年も、これからも続けられるのか、が今、石油価格の高騰を目の前にして疑わしいわけである...。