「葬送のフリーレン」のユーベル

アニメ「葬送のフリーレン」は、先期で終わったわけだが、2期に渡って放映された、その2期目は一級魔法使い試験編だった。しかし、この試験編は漫画読者の間でも、賛否両論だった。その理由は、ここだけ、

  • 意図

がよく分からない内容だったからだ。当り前だが、この一級魔法使い試験には、多くの魔法使いが受験した。そして、作者はその中でも、最終的に「合格」となることになる魔法使いを中心として、その活躍を詳細に記述した。この物語はフリーレンの物語だったはずなのに、なぜ、たんに試験の受験者を、ここまで心理描写を含めて、詳細に描写したのかがよく分からなかったのだ。
そして、その中でも、ひときわ、異才を放っていたのが

  • ユーベル

だった。ユーベルの作品内での最初の登場シーンはとても印象的なものだった。その場面は、その土地で海賊行為のようなことを繰り返していたヤクザの下っ端の連中にからまれていた場面だった。そこに現れたのが、以前にフリーレンたちと行動を共にしたこともあった、フリーレンと同じ、長い年月を生きているクラフトだった。クラフトは、そのヤクザの下っ端のような連中を格闘技で返り討ちにして、追い返したわけだが、彼はそのとき、ユーベルの

  • 本質

を見抜いていた。つまり、ユーベルはそもそも、そういった連中を魔法によって殺すことを、なんとも思っていなかったし、実際に今まで生きてきた中で、そうやって彼女に殺された、たくさんの人がいたことを匂わせる内容だった。
ユーベルは最近の言葉で説明するなら、「サイコパス」が一番、ふさわしいだろう。彼女の常に、その目元に漂わせる

  • 三白眼(さんぱくがん)

は、彼女のある種の「本質」を表しているわけだが、他方において、クラフトはそうは言いながら、最後に、彼女の「今後」について、少し予言的な、含みをもたせるような言葉を残して去っていった。
ユーベルの「謎」は、実際に一級魔法使い試験において、説明されることになった。
彼女には姉がいた。彼女は小さい頃、いつも姉と一緒にいた。姉は裁縫の仕事をしていたのだろうか、彼女に着るものの仕立ての仕事の場面を見せていた。ユーベルはいつも、彼女の姉が、

  • ハサミ

を「シャーッ」とさせて、服の生地を裁断していくのを見ながら、その光景に見惚れていた。彼女の魔法の「起源」はそこにあった。ユーベルは、彼女が

  • イメージ

できる範囲で、「なんでも切れる」という魔法をもっていた。この魔法の「根源的」な恐しさは、そもそものその相手が「それがなんなのか」というレベルで、

  • そもそも、なにものによっても切れない

という「知識」レベルでは誰でも知っていることだったとしても、ユーベルの魔法にとって、それは関係なかった。ユーベルの魔法にとって、唯一意味のある基準は「ユーベルが切れるとイメージできるか」だけだった。彼女が切れると「イメージ」できれば、実際に<それ>は切れた。
最終的にユーベルは、一級試験に合格する。しかし、第3次試験で合格を言い渡すゼーリエは、その「理由」を言わなかった。ゼーリエがユーベルを合格させた理由は自明かもしれない。なぜなら、ゼーリエは「強い」「戦士」を絶対の基準としていたから。
しかし、他方において、

  • なぜ作者は、このユーベルの「物語」をここまで詳細に描いたのか?

については説明していない。なぜ、彼女をここまで細かく描写したのか? 実は、この点については、原作の週刊少年サンデーの連載の方では、つい最近、ユーベルが再登場していることが一つのヒントになっているのかもしれない。今のところ、まだよく分からない役割だが、少なくとも言えるのは、クラフトが彼女の「今後」に含みをもたせるような言い方だったように、作者は彼女を、「たんなるサイコパス」といった描写だけで終わらせるために登場させたのではないだろう、ということだけは言えるのだろう...。

D4DJの奇妙な感動

スマホゲームのグルミクだが、テレビシリーズがあった後も、ストーリーはゲーム内でどんどん進んでいる。新たに、アビスメアとユニコードが加わって、ストーリーは、アビスメアのボーカルのネオと、ユニコードのボーカルの一星ルミナの二人を中心として話は進む。
といっても、一星ルミナは人間ではない。ブイチューバーとして活躍する、作品内では「AI」と呼ばれる

  • ロボット

だ。彼女は実体がない。肉体がない。天才科学者が生み出した、人間の心をもつAIであり、その今は亡き科学者の娘がネオであり、この二人は奇妙な「姉妹」関係となっている。
ストーリーは、このAIという、IT系の人たちが身近に思っている話題を中心にして進むこともあり、スマホアプリ開発者にとっては、筆が乗る話なんだと思うが、純粋に音楽を楽しんでいるスマホユーザーにとっては、とってつけたようなチープなストーリーだ。
ただ、XROSS∞BEAT7において、私は少し興味深く話を読んだ。今回は、ある意味で、このシリーズの最終回と言ってもいいような内容だった。
今回、ルミナは自らのプロトタイプとの戦いにおいて、自らを犠牲にして、この世界を守ると約束して、ユニコードのメンバーに最後の別れを語った。しかし、リーダーの海原ミチルはルミナのその主張が納得できなかった。
この戦いが終わって、平安が訪れたわけだが、ミチルは他の人には、ルミナは戻ってくると言っていたと嘘をついた。彼女が自らを犠牲にして、この世界を救ったことが、どうしても受け入れなかったからだ。
日常に戻ったミチルは、朝起きるといつものようにルミナに向かって、自分を起こしてくれなかったことをどうしてと、つぶやくわけだが、もう彼女はいないのだから当然だった。
しかし、ある日、高校の教室で、今日から一緒に学ぶ新入生が転校してきたことを知らされた。それが、一星ルミナだった。
驚いたミチルは、ルミナとの再会を喜ぶ。ルミナは竹下、桜田、清水グループが共同開発したロボットとして、「肉体」をもった形で転校してきた。
そもそも、海原ミチルは「孤独」な少女として、作品内では登場した。ピキピキの犬寄しのぶというDJの天才にいつもからんで、勝負を挑む、一種の「お笑い」キャラとして彼女は作品に何度も登場した。しかし、彼女にはどうしても仲間ができなかった。そんな彼女が始めて、グループを組んだのが、ユニコードであり、ルミナはそのメンバーだった。
ミチルにとって、ルミナとはどういう存在なのだろう? おそらく、日本において「孤独」な子どもの原初的イメージは、どらえもんののび太だったんじゃないか。のび太にとってのどらえもんは、欠かすことできないパートナーだった。いつも一緒にいてくれて、どじでダメなのび太をいつも支えてくれた。そう思ってルミナを見るとルミナの声はどこか、どらえもんを思い出させる少し低音だ。ミチルという友だちができなかった「孤独」な彼女は、ルミナという「どらえもん」に支えられて、ユニコードというグループという形で「友だち」を始めて作ることができた、そういうストーリーだと読むことができるように、私には思われる...。