八塚春児『十字軍という聖戦』

三島由紀夫に『海と夕日』という短編があるそうだが、まず、それについて書いている。

彼はセヴェンヌの羊飼だった。ある夕暮、キリストに会い、次のように告げられる。
「異教徒のトルコ人たちから、お前ら少年がエルサレムを取り戻すのだ。沢山の同志を集めて、マルセイユへ行くがいい。地中海の水が二つに分れて、お前たちを聖地へ導くだろう」
やがて彼は親しい羊飼いにこの話をし、噂は広まった。フランス各地で同じようなことが起っていた。フランスやドイツの各地から数千人の子供たちがマルセイユに向った。マルセイユの港に着き、岸壁で彼は祈った。永いこと祈った。何日も空しく待った。しかし、海は分れなかった。

少年十字軍ですね。日本では、明治の頃から、かなり知られていて、戦前の教科書にも載ったりしたようだ。子供たちが、聖地エルサレムに向かって行進していく姿、その純粋な感情、汚れのない姿を想像して、三島は描くんですね。
ただ、史実としては、少年十字軍は、まともにあったとも言えないようなもので、とてもそんなもんじゃなかったようだ。
この本の方は、十字軍の歴史を、実証的に分析しているもので、興味深い。

十字軍という聖戦 キリスト教世界の解放のための戦い (NHKブックス)

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