呉善花『韓流幻想』

読んでみると、内容としては、大変勉強になる。韓国の土俗の風俗や、占いの位置など、なかなかおもしろい。
また実際に、朝鮮文化を非難して、日本文化を礼賛する、というような、そんな内容じゃない。むしろ、著者自身、韓国の地方の出身の方として、日本への違和感を率直に書いている。
まず、基本的なこととして、大事な視点が、二つほどあるかな、というのを読みながら思っていた。
一つは、韓国という地域が、それほど大きいわけではない、ということですね。大きさとしては、九州くらいの広さなのであって、私たちが普通に、大坂の人の文化とか、九州の人の特徴について、話すレベルで、また、その九州の中で、博多の特徴、鹿児島の特徴、こうやって考えるように、韓国、その地方を考えるべきなんだろう、ということなんです。こういう土地に、人口の4割は、ソウルに集中している。ですからむしろ、注目したいのは、韓国の地方なんでしょうね。
もう一つは、韓国の家族制度であり、それに関連しての、韓国の法律の推移なんですね。

日本の場合は、同姓の婚姻が禁止されることもなく、父母双系制といわれるように、古くは男系と女系の双方が併行して行なわれていた。女性が婿をとって家を継ぐことも当然のごとく行なわれてきたが、韓国ではありえないことである。
韓国で跡継ぎの男子がない場合には養子をとることになるが、可能な限り血筋の近い者からとる。しかし日本では、まったく血縁関係のない者からとることも珍しくない。また、韓国では八親等(古くは十親等)以内が近親で結婚が避けられるが、日本では従兄弟同士の結婚すら行なわれてきている。

韓国も中国と同じように、早くから姓名の区別が確立しており、これによって、近親結婚を避けてきた。そして、この同姓による兄弟意識、血族意識こそがベースにあって、なかなか、同じ民族という意識が成立しない。これは、日本人から見ると意外に思われるが、逆に言えば、それほど、この同血族の問題とからまないような、文化とかそういうところでは、必要以上に、同民族意識が過剰にあらわれるので、こっちばかり目立つので、日本からみると、そんなふうに思うのでしょう。
性が、キム(金)さんが、2割近いそうで、結婚相手を探すのが大変、みたいなことも書いてありますね。
韓国は、八親等まで、血縁としての近さがあれば、法律で、結婚禁止である。また、男の子が生まれなかったとき、まず、同姓同本の血縁のできるだけ近いところから、養子をとって、家を継がせるのだそうだ。
しかし、日本では、婿養子などという言葉があるくらい、反対の傾向がある。

しかし実際には、商才のある若い男に目をつけておいて、自分の娘と結婚させて跡を継がせるというものである。このやり方は、近代以前の日本にあって、焦点を家代々の経営によって持続させることができた大きな要因の一つだろう。こういう擬制血縁システムは韓国にはない。韓国で家の持続がせいぜい三代から五代までなのも、老舗というものがないのも、血縁の持続と家の持続をイコールに考えることと大きく関係している。
制度としての婿養子は江戸時代以来のものだが、これは、いってみれば婿取り婚と嫁取り婚の折衷のようなものである。長年母系と父系が並列した日本独自の「発明」だろう。

著者の認識は鋭く、かなり核心をついていると思う。日本は、かなり母系的であったということである。そして、そのことは、マイナスばかりとは限らない。たとえば、このことによって、家の中の女性は、大事にされ、断然、地位の高いものとなる。
そして、このことが、日本の独自の、イエによる、老舗企業の永続を可能にしてきた。このイエ企業によるワザの伝承が、日本文化にとって、どれだけ重要であったであろうか。
驚くべきことに、韓国において、成人女性の単独での戸籍が認められたのが、1989年から、ということである。それまで、女性は、大人になろうが、離婚したとたん、親の戸籍の中に戻っていた、ということなわけだ。
しかし、著書にもあるように、韓国の法律も、ここ何年かで、どんどん変わってきている。どうも、「西洋並み」=「文明国」ということで、どんどん、キリスト教国並みになってきているようだ。
私は、極端に言うと、今まで、韓流ドラマをみていて、素朴に思っていたような疑問点の、ほとんどがこの本によって、解決してくれたくらいに、思っている。それくらい、よくできた本だと思う。
私は読んでいて、韓国の特徴というが、普通のグローバルスタンダードに近いだろう、という印象しかもたなかった。逆に、その反証として出される、日本の例が、ちょっと世界の常識と離れているのである。しかし、離れているから、日本特殊論なんていう、つまらないことを言いたいわけではない。ちょっと変わっていることは、なんらかの島国根性的なものであったりするだろうし、別に優劣を判断するようなものでもないでしょう。
例えば、韓国人の美人病について書いてあるが、読んでて、大坂のオバチャンのはで好きとなんの違いがあるっていうんでしょう。ですから、こっちは、グローバルスタンダードなわけだ。

韓流幻想―「夫は神様」の国・韓国 (文春文庫)

韓流幻想―「夫は神様」の国・韓国 (文春文庫)