1+1+...=-1/2

人は、「1+1=2」が好きだ。
人類において、絶対、ゆるがない真実のように、この等式について、語りたがる。
しかし、この足し算を、延々と続けた果てには、何が待っているか。
そりゃ、ずっと増えていくんだから、無限大、でしょ、って、ちょっと数学が得意な高校生でなくても、言うだろうが、オイラー、や、ラマヌジャン、に言わせると、違うらしい。それが、掲題の等式だ。
これは、(すでに、オイラーによって、示唆されてはいたが、)ラマヌジャンが、独力でみつけた結果でもあり、有名な、ハーディへの最初の手紙に書かれている数式、なんですね。
どういうことなのであろうか。
この式の特徴は、左辺が、「発散」級数である、ということである。発散するということは、無限大に行ってしまう、ということである。
ということは、どういうことか。なんのことはない。数学的には、値がない(定義されていない)、ということを言っているにすぎない。
ちなみに、この等式について、オイラーは、以下のような、かなり「きわどい」議論をしている(そうだ)。
1-1+1-1+... = 1+1+(-2)+1+1+(-2)+... = (1+1+1+...)-2(1+1+1+...) = -(1+1+1+...)。
また、1+x+x^2+x^3+... = 1/(1-x)、の、x を -x にして、1-x+x^2-x^3+... = 1/(1+x)、x=1、を代入して、1-1+1-1+.. = 1/2。これと、最初の等式から、証明された、と。
...。無茶苦茶ですな。
でも、これを見ても、ある種、無限大が、無限大によって、うち消されている、光景が多少見えるのではないか。
では、掲題の式の、標準的な証明、とは、どういうものかと言うと、複素解析の、解析接続、を使う方法だ(なお、詳しい証明が、

ベルヌーイ数とゼータ関数

ベルヌーイ数とゼータ関数

にある。また、

絶対カシミール元

絶対カシミール元

は、掲題の式の一般的な表現(ゼータ関数)に対する、掲題の結果の、電磁気学への応用(カシミール効果)の解説がある)。
ここで、複素数の話をしてみよう(ちなみに、複素数の啓蒙的な本としては、

複素数30講 (数学30講シリーズ)

複素数30講 (数学30講シリーズ)

がいいんじゃないだろうか。教科書的なものとしては。

複素解析概論 (数学選書)

複素解析概論 (数学選書)

をひとまず、あげておく。この本は、複素平面上の、図形の扱いが比較的、ちゃんとしてるかな)。
複素数とは、二つの実数をペアにしたものであるが、たんにそれだけのものは、実数体を係数とする2次元ベクトル空間ですが、複素数は、複素数体を係数とする1次元ベクトル空間、となる。
上記の両方とも、実軸を含み、四則演算も、実軸上の拡張と考えられるが、本質的な違いは、複素平面においては、かけ算(割り算)が、平面上の回転になっていることだ。
この事情は、微積分でより、はっきりとした違いがあらわれる。
複素微分は、式の表現上は、実数の場合と、まったく同じだが(実際、実軸上だけで考えれば、同じでもある)、微分点に近づけていくやり方が、「複素平面のあらゆる方向から」近づけても、一定の値に収束する、という、かなり強力な特徴となっている(上記の、傾き、割り算、の特徴を考えてみてくれ)。
このことは、複素微分が可能、な関数(複素正則関数)について、かなり決定的な特徴を与える。つまり、複素正則関数は、その関数の非常に狭い範囲での挙動が分かると、なんと、一気に、全領域での動作が分かってしまうのだ。
つまり、この特徴を使えば、さらに広い領域で定義されている関数との、等式さえ分かれば、その関数で、拡張できる、ことを意味する。これが、解析接続、の考えだ。
もちろん、掲題の式についても、「なんだ、たんに関数の定義域を広げただけじゃん」というのは、半分はあたっているが、この、複素正則関数の性質を考えれば、むしろ、掲題の式は(病的なまでに)「正しい」のだ。
そっちの方が、びっくりしないだろうか。