秘密?

特定秘密保護法案について、なんと、「みんなの党」が賛成に回りそうだ、という話である。しかし、「みんなの党」は、自分が、どんな内容に賛成することになるのかを分かっているのであろうか?
まず、この「秘密」という概念について、検討しておこう。「秘密」とは、なんだろう? 秘密とは、誰かが、他の人に知られることを避ける、ということである。では、この場合、

  • 「それ」を秘密であると決定するのは誰であろうか? なぜそれを「秘密」とすることの「正当性」があると言えるのか? その理屈を担保するものなどありうるのか?
  • その人を含めて、一体、誰と誰が、その秘密を「知る」役割を担うのか? なぜ、それらの人に対しては、秘密でないことにすることが許されるのか? どんな権限で「その人たちは秘密を知っていい」と決定できるのか。
  • それらの人が果して、その秘密を「守る」ことが可能なのか? 例えば、これらの人に、例の、酔っ払って記者会見をした大臣が含まれていたとする。そうした場合、その大臣が、記者会見で、ベラベラと秘密をしゃべりまくっら、なんの「秘密保護」にならないということにならないか。
  • しかし、そうやって「しゃべって」も、だれも気付きません。だって、そもそも、なにが秘密なのかは、数えるくらいの人しか知らないのですから。つまり、その全員が、口をつぐんでシカトをしたら、この犯罪は「なかったこと」になってしまいかねません。
  • では、その「犯罪」、つまり、秘密を知っている人間が、その秘密を、公にばらしてしまって「罪」を秘密を知っている人間全員で握り潰した、その全員の「罪」を裁く方法はあるだろうか? それは一つしかない。この「秘密」を「時限立法」にするしかない。つまり、なんとしても、ある一定期間が過ぎたら、また、別の人に「公開」して、その人に「判断」させなければならない。
  • ところが、ここで問題がある。その秘密期間が過ぎたというのを、一体、誰が知れるのか? まず、なにかの情報が「秘密」指定されたとする。その時、その「内容」ではなく、なにかの情報が秘密になったという「事実」を知れる人は誰か? おそらく、これを知れるのも、その秘密の内容を知れる人以外は無理であろう。なぜなら、「それ」と特定しているものの、その「輪郭」をだれも知らないからだ。だから、「何」という情報自体が意味をもたないのである(数えることに意味がない)。
  • 私たちは、その秘密期間が過ぎたことを知ることもできなければ、たとえ、秘密期間が過ぎたということを教えてもらったとしても、「それ」が、本当に「それ」なのかを確かめる術(すべ)がない。どんなに適当に「改竄」されていても、「それ」が「それ」でない、と言うことができない。

さて、困りました。
ひとまず、この関係をパラフレーズしておきます。

  • 秘密A ∈ 秘密集合
  • 秘密A:被秘密者集合 --> 秘密者集合

秘密Aは、ある被秘密者集合によって、それ以外の全ての国民に対して、「秘密」にされます。しかし、大事なことは、その秘密が「何か」を、秘密者集合の人たちは知りません。つまり、知らないうちに、その秘密についての「公表」をやっちゃってるかもしれません。すると、その「トラップ」を、素早く「発見」して、被秘密者集合は、その「秘密公表者」を、「犯罪」として裁かなければなりません。
さて。大変なことになってきました。
まず、被秘密者集合の人は、大変です。彼らしか、これが「犯罪」であることを知りません。つまり、彼らが「トリガー」を引かなければ、この犯罪は、犯罪として、だれも気付かないわけです。ということは、彼等は、

  • 年がら年中

自分たちが「知っている」その秘密が、知らぬ間に、漏れていないのかを、世界中の情報を集めて、チェックをしなければならないのです。そうでなければ、知らぬ間に、「秘密」が世界中を駆け回ってしまいます。

  • 全然、秘密でもなんでもなくなってしまいます。

困りました。彼らの役割は重大です。夜もぐっすり眠っていられません。
この情報は、国家の重要情報です。この情報を管理するのは、それなりの役職の、責任を任せられる人間しかできません。派遣労働者を雇って、彼らに、夜毎パトロールをしてもらうわけにもいきません。当然、このパトロールは、そういった責任を任せられる重要な役職の人間がやるしかありません。しかし、そんな暇があるんでしょうかね。
しかし、もっと問題なのは、そういった秘密を知っている人が、だれかを「秘密」漏洩した、と告発をした場合です。
まず、告発された人が、自分が「何」の秘密を漏洩したのかを知る手段はありません。なぜなら、それが「秘密」だからです。じゃあ、どうやって裁判をするのでしょうか。まず、その秘密を知っている人が、あいつは秘密を漏洩した、と裁判所に訴えることになるでしょう。
さて、ここで問題です。
その訴えられた裁判官は、まず、その訴えが「正当」であるかどうかを、どうやって判断すればいいのでしょうか。その訴えが、なるほど「秘密を暴露している」と分かるためには、その秘密の内容自体を知らなければなりません。
当然ですが、今までの、裁判所の範例では、それは可能ということになっていました。今回の法律では、どうでしょうか? むしろ、裁判官が、その秘密の内容を知ってしまったら、

  • 犯罪者

にならないでしょうか? だとすれば、その裁判官は、その訴えをどう処理するでしょう? とにかく、内容を確かめないで、「受理」しちゃわないでしょうか? では、受理したとしましょう。裁判が進んでいきます。もちろん、法廷にいる誰も、彼の秘密を漏洩とされているものが「何なのか」をしりません。だれも知らないのに、彼は「犯罪者」になります。なぜなら、彼を犯罪者にしないとすると、彼の「秘密漏洩」を全員が許した、ということになり、今度は、その裁判官たちが「犯罪者」となるからです。
一体、何が起きているのでしょうか?
秘密とは、一種の「忍者」だと言えるでしょう。忍者は、権力者の陰での依頼に基き、人を殺します。しかし、その殺人も陰で行われます。だれも、気付かないうちに、行われます。言うまでもなく、明治維新のときも、忍者が活躍しました。むしろ、日本の明治維新以降の近代国家は、こういった忍者たちによって作られたと言っていいでしょう。
しかし、こういった忍者による、「天誅」行動は、近代法と相性がよくありません。なぜなら、近代法は、罪刑法定主義に基いているからです。
私たち国民は、そもそも、国民主権の主権者として、一定の権利をもった存在であって、その権利を、なんの理由もなく、奪われることは許されません。もしもその権利を「制限」されることがあるとするなら、それは、なんらかの「罪」の行為と、対応してしか、行えない。それは、たとえ、行政府であろうと、そうなのです。
ところが、この秘密保護法は、その「罪」の「内容」を秘密にできる。つまり、

  • 本当にその秘密(=罪)があるのか?

が、究極的に、確認する手段がないわけです。つまり、罪刑法定主義の規則を逸脱するわけです。
つまり、この「ルール」が許されるとなると、そもそも、「罪」は必要ない、ということになります。なぜなら、どんな刑罰も、その

  • 秘密というプール

の中に、ある「ということにする」というだけで、だれも、本当にそれがあるのかを確認できないからです。
さて。何が起きているのでしょうか?
上記の、自民党の極右集団による、立法「運動」が目指しているのは、

だと言えるのではないでしょうか。彼らが「軽蔑」するのが、立憲主義です。つまり、そもそも、彼らは、ルールを軽蔑しています。愛国有理であって、非国民を暗殺するのは「正義」だと、本気で考えています。天皇への忠臣だけが唯一、世の中の考えるべき基準であって、戦後憲法など、平気で破ってなんとも思わない。というか、本気で、戦後憲法を破壊したいのです(その本気さは、自民党憲法草案を見れば分かりますが orz)。

ナチス期のシュミットは、「指導者原理」をナチス法治国家の中核に据えることによって、自由主義法治国家に見られる立法、行政、さらには司法の区別を廃棄しようとした。これは、例外状態においては眼前の具体的事態に対処するための「措置」が一般的法規範に優先するという1920年代の独裁論、および、変動する社会・経済状況に措置を通じて即座に介入できる行政府に立法府を超える役割を認めようとした30年代初頭の全体国家論の帰結にほかならない。そして最終的にナチス期になると、一般的規範としての法律は、状況に応じてそれを無限に柔軟に運用することを可能にする「指導」によってほぼ完全に宙吊りにされてしまう。かつて1920年代にベルリン商科大学の教授だったシュミットのもとで学位を取得し、ナチス台頭後にドイツから亡命したいわゆる「左翼シュミット主義」のフランツ・ノイマンは、まさにこれをナチスの法律イデオロギーの典型的特徴とみなすことになる。ナチス体制においては、法律を事実上無効化するまでに自由で柔軟な法運用が執行権力に認められるわけである。

正戦と内戦 カール・シュミットの国際秩序思想

正戦と内戦 カール・シュミットの国際秩序思想

これが「独裁」です。独裁者は、そもそも、「ルールに縛られない」。絶対許さないリストに載せたら、デスノートのように、彼らを抹殺するだけです。そもそも、なんでそんなことに「根拠」がいるんだ、と本気で考える連中です。好きなだけ嫌いな奴を抹殺するのが、進化論的、適者生存、弱肉強食だろ、と本気で考えている連中です。
鴻池という自民党議員が、山本太郎議員に「天誅を加えなきゃいかん」と言ったそうですが、これから、山本議員が忍者によって暗殺されたら、鴻池の刺客だと思うべきでしょう。しかし、それを「言った」ら、秘密保護法で、犯罪者扱いされるでしょうがね orz。