佐島勤『魔法科高校の劣等生』

主人公の司波達也(しばたつや)は、この魔法科高校の1年生で、いわゆる、「二軍」扱いの「二科生」に所属している。
彼がこの学校に妹と入学してきたところから、話は始まる。
しかし、この作品は最初から、謎含みで、説明が進む。

「会社の仕事を手伝えという親父を無視して進学を決めたんだ。
祝いを寄越せるはずもない。
親父の性格はお前もよく知っているだろう?」

「共通義務教育ではないのだから、当たり前でもないさ。
親父も小百合さんも、俺のことを一人前と認めているから利用しようという気にもなるんだろ。
当てにされていたんだと思えば腹も立たんよ」

深雪は、父親が開発本部長を務める魔法工学機器メーカー『フォア・リーブス・テクノロジー』の研究所で達也が何をさせられているのかを、正確には知らない。彼が作業の片手間に作り上げたもので、まともな仕事を任せられていると誤解しているだけだ。
本当は、研究科のリカバリー装置としての扱いしか受けていないと知ったら、本気で交通システムを麻痺させかねない。

つまり、司波達也の父親は、彼を高校に行かせずに、自分の、かなりに大手の工学機器を作る会社の研究所の手元に置いておいて、仕事の手伝い(という、エリート教育。つまり、コネ入社)をさせようとしていたが、彼が拒否して、この学校に入ってきた、と言っているようである。
このように、彼の家庭は、それなりに大きな大企業の親の子どもで、金銭面で苦労はしていない、いいとこの御坊ちゃんという面はありそうだ。
また、上記の引用では、もう一つ、大事なポイントがあって、

  • 共通義務教育ではない

と言っていることから、つまりは、彼は、高校を「義務教育ではない」と考えている。つまり、「教育機関ではない」と思っている、ということである。
ここは重要なポイントである。
つまり、そうであるとするなら、なぜ彼は、わざわざ「学校」に来ているのか、ということになるから、である。
主人公の司波達也は、「二軍」扱いの「二科生」の生徒である。つまり、成績が悪く、下のランクの生徒だということである。
そうすると、なぜ彼は、その待遇に不満をもたないのだろうか、という疑問がわいてくる。
実際、この学校では、その「一軍」の生徒たちは、露骨に「二軍」の生徒たちを差別し、実際に、身分差でもあるかのように、下等に扱う「いじめ」が、陰湿に繰り返されている。
それについて、学内では、そういった待遇に不満をもつ「二軍」扱いの「二科生」の生徒たちで集まり、学校側に抗議している運動があることについて、彼が自分の考えを説明している場面が以下である。

「ヤツらのスローガンは、魔法による社会的差別の撤廃、それ自体は、文句のつけようもなく正しい」

「つまり、魔法に反対による差別に反対するというブランシュの主張は、結局のところ、魔法師が金銭的に報われることに反対するという主張になっている。
魔法師は無私の精神で社会に奉仕しろ、というわけだね」
「......随分自分勝手で虫の良い主張に思われます。
生活する上で、金銭的な収入が必要なのは、魔法師もそうでない人も同じであるはずです。それなのに、魔法師が生計を立てることは許さない、魔法を使える者も、魔法以外で生きる糧を稼がなければならない......。
それは結局、自分たちには魔法が使えないのだから、魔法を人の能力として評価したくないと言っているだけなのではないのですか?
魔法師が魔法を研鑽する努力は報われなくても構わない、魔法師の努力は評価されなくても当然だと言っているのですね......。
それとも、そのような人たちは、生来の才能だけでは魔法は使えないということを知らないのでしょうか? 魔法を使うには長期間の修学と訓練が必要だということを知らされていないのでしょうか?」

まず、どうもこの世界には、ブランシュという

が、世にはばかっている、ということらしい。そして、上記の学校に「抗議」をしている生徒たちは、彼ら「テロリスト」と繋がっている、という整理になる。
つまり、学生抗議集団は、この「テロリスト」集団の「下部組織」であり、完全に操られているのだ、と。
では、その「テロリスト」集団は、一体、何を目的に活動しているのか、ということになるであろう。
まず、彼らは

  • 魔法が差別に繋がってはならない

と主張している、ということらしい。ここで大事なポイントは、この「テロリスト」集団は、別に、この世から魔法がなくならなければならない、と言っているわけではない、というのだ。じゃあ、何が問題だと言っているかというと、

  • 魔法の「能力」という、優生学的な差異によって、格差社会が拡大するのが問題だ

ということらしい。
ここまで書いてきて、この作品が何が言いたいか、よく分かってきたんじゃないだろうか。
ようするに、この「テロリスト」とは、日本の左翼、新左翼の連中を言っているわけである。そして、大学の生徒会が、そういった新左翼系列の学生たちで、構成されていることを風刺しているわけである。
そもそも、私は上記が何を言っているのかが分からない。
まず、魔法がこの社会で役に立つことについては、だれもが賛成している。じゃあ、なにが問題だと言っているかというと、その魔法という

  • 特定の能力が結果として収入格差になること

が反対なんだ、というわけである。なに言っているの?
普通に考えて、

  • 特定の能力がどうかとか「関係なく」、収入格差になること

に反対だと言うなら、左翼ですよね。なんで、魔法限定なんですかね?
ようするに、ここで言っている「魔法」というのは、国語、数学、英語、理科、社会といったような「授業科目」と同じことを言っている、というふうに読むべきなのでしょう。

  • 国語が得意な子どもが就職に有利であることに反対。
  • 数学が得意な子どもが就職に有利であることに反対。
  • 英語が得意な子どもが就職に有利であることに反対。
  • 理科が得意な子どもが就職に有利であることに反対。
  • 社会が得意な子どもが就職に有利であることに反対。

どうも、ここで言う「テロリスト」は、こういったことに反対している、と言っているらしい。ようするに、

  • 偏差値反対

ということなのだろう。
それに対する、上記の反論は、何を言っているのだろうか? どうも、

  • いろいろな「学科」がある中で、わざわざ「魔法」だけを差別扱いするのは、「差別」だ

と言っているようなのである。じゃあ、魔法だけを差別しないで、みんな等しなみに差別したら満足なんですかね。
正直、私は上記が何を言っているのかが分からないんですよね。
たとえば、医学部を卒業して医者になった人は、高収入になって、人生の勝ち組になっていて、うらやましい、というのを、「魔術」という、なんの仕事をやって、大儲けしているのか、さっぱり分からない人たちが、なんだか分かんないけど、けっこう、いい儲けになっている、ということが言いたいようである。
さて。
どんな仕事なんですかねw
さらに嗤っちゃうことに、この「魔術」なるものを教える学校は、教師の人手不足で、数えるくらいのエリート高校しかない、ということらしいw
アホか。
まず、そんなに実入りが良くて、将来が安定な職種なら、大量の専門学校を作ればいいではないか。実技ができなくても、ペーパーだけでも、教えればい。
資本主義をなめんな。
しょせん、どんな専門職の労働者だろうが、資本主義の世界では、必ず、競争市場の登場によって、労働単価は下がる。つまり、いずれ魔法「労働」は、

  • 買い手市場

になる。いくらでも、安く買い叩いてくる「資本家」の、賃金奴隷になる。
おそらく、左翼が批判しているのは、

こういった延長に、「平等」論もあるわけであろう。
実際に、現在の東大の学生の家庭は、明らかに日本の平均的な所得より裕福な家庭が多いことが示されているように、

  • 家庭の金銭的な余裕

のあるなしが、間違いなく、子どもの進学の選択に影響しているわけでしょう。これのどこが「能力」なんですかね。
だとするなら、なんらかの「アファーマティブ・アクション」によって、大学制度には、なんらかの「平等」的な介入がいるんじゃないんですか?
どっちが「正義」でしょうかね?
あとさ。
上記の引用で、「長期間の修学と訓練」とか言って、そうやって、優秀な教師がいる有名塾に通える、自分の家の裕福さ自慢とかやっちゃってるわけだけど、よく考えてみてくださいよ。
社会人になると、さんざん「ブラック企業」とか、批判しているくせに、子どもの頃の学習時間は、「ブラック企業」じゃないんですかね。一体、家帰って何時間

  • 残業

させられているんだよ。もうそれ、「奴隷」レベルなんじゃねえの。そりゃあ、勉強やってない奴らに

もたまりますよね。高学歴の連中に、性格のいかれた連中が多いのも納得でしょう。勉強のやりすぎで、頭のネジが壊れて、まともな、社会人の常識がないんだよね。

「不足している現代魔法の才能を、別の才能で埋めた。
その術があったから、こうして第三者的な論評をしていられる。
もしそうでなかったら......『平等』という美しい理念にすがりついていたかもしれないな。それが嘘だと分かっていても」

淡々と語る兄の言葉に、反論しなかった。達也が何を言おうとしているのか、深雪も既に理解していた。達也は自分を嘆いているのでも自分以外の誰かを憐れんでいるのでもなく、自分も含めた「人の弱さ」について語っているのだった。
「魔法の才能に劣った者は、劣っているという事実から目を背けたくて、平等という理念を唱える。
魔法が使えない者は、それもまた人の持つ才能の一種に過ぎないということから目を背けて、嫉妬を理念という衣にくるむ。
では全てを分かった上で扇動しているヤツらの、本当の目的は何か?
ヤツらの言う平等とは、魔法を使えても使えなくても同じに扱えということだ。
魔法による社会的差別の撤廃とは、魔法という技能を評価しないということだ。
それは結局、魔法の社会的意義を否定することだ。
魔法を評価しない社会で、魔法が進歩するはずはない。
魔法による差別反対を叫び、魔法師とそれ以外の者の平等を叫ぶヤツらの背後には、この国を、魔法が廃れた国にしたい勢力が隠れている」
「それは一体......?」
「良くも悪くも、魔法は力だ。財力も力、技術力も力、軍事力も力。
魔法は戦艦や戦闘機と同じ種類の力にもなる。現に魔法の軍事利用は世界中で研究されているし、魔法技術を巡る軍事スパイの活動も活発だ」
「では、魔法否定派は、この国で魔法を廃れさせることを目的にしており、その結果としてこの国の力を損なうことを目的にしているということですか?」
「多分ね。
それ故に、テロという非道も辞さない。
では、この国の力が損なわれて、利益を得るのは誰だ?」

なんか、すごいよね。左翼はテロリストで、中国、北朝鮮とつながっていて、日本を転覆させようとしている。反原発も、中国や北朝鮮に操られた左翼の陰謀で、原発を止めさせることで、日本の科学技術を滅びさせることで、日本の弱体化を狙っている。いや、すごいね。
しかも、さ。

  • 「自分」は、それ「以外」の才能があるから救われている

だってさ。才能があるんだってさ。よかったね、才能があるから、幸せなんだね。つまり、才能がないと不幸せ、を認めちゃってるんだ。あんたの幸福論、ほんと、すごいね。

「それは......そうかもしれないけど......。
じゃあ、司波君は不満じゃないの?
魔法実技以外は、魔法理論も、一般科目も、体力測定も、実戦の腕も、全ての面で一科生を上回っているのに、ただ実技の成績が悪いというだけでウィードなんて見下されて、少しも口惜しくないの?」
必死に言い募る紗耶香の姿に、達也は軽い苛立ちを感じた。
彼の不満も無念も、彼女自身の想いとは関係のないことだ。
変えたいと思っているのが彼女自身なら、何故自分の想いを語らないのか。
「不満ですよ、もちろん」
だから彼は、
「じゃあ!」
「ですが、俺には別に、学校側に変えてもらいたい点はありません」
自分自身の想いを、語る。
「えっ?」
「俺はそこまで、教育機関としての学校に期待していません」
僅かに一欠片ではあるが、紛れもない本心を。
「魔法大学系列でのみ閲覧できる非公開文献の閲覧資格と、魔法科高校卒業資格さえ手に入れば、それ以上のものは必要ありません」
自分自身までも突き放したような達也のセリフに、紗耶香の表情が固まった。
「ましてや、学校側の禁止する隠語を使って中傷する同級生の幼児性まで、学校の所為にするつもりはありません」
その言葉は一見、「雑草(ウィード)」と二科生を見下す一科生(ブルーム)の間違ったエリート意識を批判しているようで、その実、自らの満たされぬ想いを誰かの所為にしようとしている自分たちの弱さを責めているようにも、紗耶香には感じられた。
「残念ながら先輩とは、主義主張を共有できないようです」
そう言って、達也は席を立った。
「待って......待って!」
振り返ると、椅子に座ったまま----もしかしたら、立ち上がることができず----蒼い顔で、すがりつく様な眼差しで、紗耶香が彼を見上げていた。
決して、睨みつける、ではなく、真摯な、必死な視線だった。
「何故......そこまで割り切れるの?
司波君は一体、何を支えにしているの?」
「俺は、重力制御型熱核融合炉を実現したいと思っています。
魔法学を学んでいるのは、その為の手段にすぎません」

ここで、あらためて、

  • 共通義務教育ではない

が問題になってくる。主人公の司波達也は、高校を、教育機関だと認めない。なぜなら、ここは「義務」ではないから。義務でない場所で、一部の人間に対してだけ、「強制=教育」がされることは、不平等だから、認められない。
じゃあ、高校に彼は何を求めて来たのか。

  • 非公開文献の閲覧
  • 高校卒業の資格

だそうです。じゃあ、なんで生徒会なんかに入ったんでしょうね。
生徒たちが、力を合わせて、学校側に、なんらかの改善要求をしていくことは、自治の観点からは、

  • 当たり前

だと思うんですけど、彼は「学校側に変えてもらいたい点はありません」だってさ。
なぜなら、

からだ、と。つまり、彼にとって、高校は教育の場ではないんですね。言うまでもなく「未成年」の子どもたちが「幼児」的なのは、当たり前だと思いますけど、彼は、きっと、高校生なんですけど、すでに二十歳以上なんでしょうね。すでに、立派な社会人(になった気でいる)のようです。
どうしましょうかね。
しまいに、将来の夢は「重力制御型熱核融合炉を実現したい」って、分かったよ、原発バカ。生徒会なんかで、他の生徒に実力差を見せつけて、パンピーを見下している暇があるなら、さっさと、飛び級で、理研でも入って、小保方と、実験ノートに、はあとマークでも書いてろ orz。

「壬生先輩の為ではありません」
冷たく突き放す口調に、紗耶香がショックを受けた顔で黙り込む。
「自分の生活空間がテロの対象になったんです。俺はもう、当事者ですよ。
俺は、俺と深雪の日常を損なおうとするものを、全て駆除します。これは俺にとって、最優先事項です」

言うまでもないですけど、「駆除」って、優生学主義であり、科学主義者であった、ナチス・ドイツが、好んで使った、

  • 害虫の駆除

の比喩ですからね。こうして、ユダヤ人は「強制収容所」で「駆除」された、というわけですからね。
主人公の司波達也は、ブランシュという左翼運動家集団を、勝手に「テロリスト」呼ばわりして、敵は、俺の鉄拳制裁で、「駆除」するんだ、と。ところが、このブランシュがなぜ「テロリスト」なのかの説明は、どこにもない(少なくとも、今まで読んだ第2巻までは)。そうらしい、という感じだけは、暗に示唆するわけだが、上記で、私が検討したように、そもそも、論理的に、整合性がなさすぎる。
話の最初から、「テロリスト」という言葉だけは、なにもかも「自明」であるかのように最初から使われているが、なぜ、その組織は「テロリスト」なのかの、まったく合理的な説明が省略されている。
とにかく、最初から、

  • 悪(あく)

であり、

  • 敵(てき)

なんだから、みんなで、こいつらを<駆除>しよう、リンチしよう、と言っているだけ、というわけである。
しまいに、すごい展開なのが、学内の左翼学生運動に参加していた、壬生紗耶香(みぶさやか)は、この流れから行くと、敵(てき)認定というわけで、放射能の安全厨が、京大の小出先生を

  • 敵(てき)

として、「絶対許さないリスト」に入れているのと同じように、まったく、妥協の余地なしかと思ったら、彼女は例外で、

されていた、ときやがった。すごいね。今度は、オウム真理教かよ。彼女は精神を操られていたんだから、そのマインドコントロール解ければ、

  • 友(とも)=味方

だってことで、もう後腐れがないってわけですか(ということは、もしも、wマインドコントロールじゃなかったら、死んでも、憎み続ける、ってわけですね orz)。
(それにしても、安全厨の「絶対許さないリスト」って、何人ぐらいいるんだろうね。今回の鼻血の件で、「美味しんぼ」の作者は間違いなく、この「絶対許さないリスト」に入れたんでしょう。でも、この人、東大で物理を学んでてるんだ。)
そして、極めつけは、司波達也に魅かれていた、壬生紗耶香(みぶさやか)が別の優しくてマメな彼氏にのりかえたのは、「司波君は、ちょっと手が届かないかな」だってさ。
すごいね。好かれたという総括も、なんの脈絡もない意味不明の伏線だとしたら、それが、ふられるときまで、「好き」だけど身を引いた、とか、バカじゃねーの。どこまでモテキャラにしてーんだよw

魔法科高校の劣等生〈1〉入学編(上) (電撃文庫)

魔法科高校の劣等生〈1〉入学編(上) (電撃文庫)