小畑峰太郎『STAP細胞に群がった悪いヤツら』

ついこの間まで、巷は、STAP細胞の話でもちきりであった。果して、小保方さんは嘘を言っているのかどうか。果して、今の今に至るまで、その再現実験とやらが、おもわしい結果となったという話は出てこない。
しかし、この話がそんな「ウブ」な議論によってなされていたわけがない。

いまひとつ、この会見の重要なポイントを明らかにしておきたい。小保方がネイチャー論文の趣旨を、「STAP現象が起きたこと、つまり『現象論』を示したものであり、『最適条件』を示したものではない」と言い出した点である。
つまり、実験をしていたらSTAP細胞が出来てしまったので、その現象を報告したまでで、詳しい解析は今後の論文で明らかにするつもりであったという一種の言い逃れ戦術である。

私たちは、小保方さんのどこか科学者らしからぬベビーフェイスから、まさか彼女が嘘をついている、ということはないんじゃないのかと思いがちだ。そして、論文には瑕疵があり彼女自身も認めたが、それが「悪意」からなされた、ということまではないんじゃないのか、と擁護する。
実際、彼女が作っていたとされる実験ノートは、まさに素人以下だったと見なされ、むしろ、彼女は誰かに操られていただけの学生以下なんじゃないのか、というわけである。
しかし、大事なポイントはそこではない。会見での上記の彼女の発言が示しているように、彼女は「逃げ道」を用意していた。つまり、かなり用意周到に「確信犯」として行っていたことが分かるわけである。

この約二週間前の四月一六日。対照的な記者会見が、東京・神田で行われていた。
笹井芳樹CDB副センター長の自己弁護に終始した会見である。御覧になった方はよく覚えておられよう。笹井は、自らの責任をほとんど認めようとはしない戦略でカメラの放列の前に姿を現したのである。人事は、竹市センター長の責任。実験は若山照彦山梨大学教授の責任。論文執筆は、ファースト・オーサーの小保方晴子とラスト・オーサーのチャルズ・ヴァカンティ。笹井が論文執筆に加わったときには、すでにSTAP論文の概要は出来上がっていて、しかも自ら希望して参画したのではなく、竹市センター長に請われて、最後の二ヶ月だけ関わったと釈明たのである。したがって、画像の差し替えや切り貼りなど不正行為を見抜くことは土台ムリであるから、STAP論文において、捏造・改竄・盗用の不正行為に手に染められるわけがなかったと弁明したわけである。しかも、小保方は直属の部下ではなく、独立した研究室のリーダーだったので、不躾に実験ノートを見せるように要求することなどできなかった。そして記者会見の最後では、こうぬけぬけと言い放ったのである。
「私の(メインの)仕事として、STAP細胞を考えたことなどない」
この会見を、同じフィールドに立つ科学者たちはどう見たのだろう。
「評価ゼロでしょう。多くの学者が『この人の発言には信用できないところがある』と思い始めたのです」

なぜ小保方さんがユニットリーダーであったのだろうか。彼女ははっきり言って、それまで、なんの実績もない。そういう人がリーダーになるということは、実質、ほとんどのことを、誰か、本当のリーダーがすべてやっていた、と考える方が普通であろう。それが笹井さんであることは、外から見れば、一目瞭然であった。その彼が、こういった「言い訳」に終始したことは、むしろ、科学コミュニティの中では、驚くべきこととして受けとられた。つまり、この笹井さんの会見が、ほとんど、今回のSTAP騒動を決定的にした。多くの科学者が、笹井さんは「正直ではない」と受け取った。つまり、彼の信用が、ここでなくなった。これが、この事件の

  • 全て

だったことが、後から振り返ったとき、分かるわけである。

血液病理学の専門家である難波が問題視した、STAP細胞がマウスの白血球(T細胞)から作られたことを証明する、遺伝子解析実験において白血球(T細胞)由来ん遺伝子配列、TCR再構成がなかったことについて、笹井は実に不可解な説明を行った。STAP細胞にTCR再構成が見られないという事実は、STAP細胞が何から作られたものか、説明がつかないということである。だた笹井は、「T細胞由来の遺伝子は、母親、父親から引き継ぐものなので、TCR再構成が見らえなかったからといって、STAP細胞から分化したことを否定する材料にはならない」と強弁する。それに加えて、医学的な見地から言うと、T細胞は、キラー細胞とも言われる細胞で、マウスや人の体内に入ってきた病原体を殺すために、自ら姿を変えるという特殊な能力をもつ。さらにT細胞は、自らの細胞内に、この病原体の情報を記録し、取り込んでいく。いわゆる「免疫」といわれる生体の防御システムなのである。
このため、もともとT細胞には、病原体を殺す性質上、遺伝子配列が不安定という特徴がある。
しかも、このトイッキーな、なんとでも言い逃れのできる余地を作ってくれる、特殊な性質をもつ細胞をあえてSTAP細胞作成に使うことを提案したのは、元理研CDB特別顧問の西川伸一であったと、笹井は会見で述べたのである。西川がSTAP細胞捏造事件の全貌を知る立場にいることを強く示唆する発言であった。少なくとも、小保方の研究不正が彼女個人の不正ではなく、理研CDB、理研幹部をも巻き込んだ組織ぐるみであったことを匂わせている。

今回のこの奇っ怪な事件は、小保方さんや笹井さんといった、一個人に問題を収斂させることは、どう考えてもできない。そう考えるには、いろいろと奇妙なことが多すぎる。その一つとして、上記の引用では、なぜ「T細胞」が選ばれたのか、ということが疑われている。つまり、T細胞という厄介な対象であれば、どんなことでも起きうる。なんとでも言い訳が後から可能になる。つまり、彼らは本気で真面目に、STAP細胞の存在の証明をやろうとしていたのか、

  • それ自体

が疑わしいんじゃないのか、という疑惑さえ浮かんでくる。実際、理研は特許の方は今だに取り下げていなかったりする。そうすると、彼らの「目的」というのは、そもそも、そこになかったんじゃないのか、とさえ言いたくなるわけである。

しかし一方で、財界などからの公共事業を求める声は大きく、ちがう形で増額される予算が存在していた。その受け皿となっているのが科学技術の研究および振興という分野である。一般に学術研究の発展は望ましいとと受け取られ、国民からの反発も少なくないからだ。しかし、研究に際しては建物や設備などの拡充が不可欠で、こうした国家による設備に対する投資は事実上の公共事業として機能している。
これは、科学の発展と経済が結びつく事例であり、公共事業に関する予算が削減される中、唯一の聖域として残った科学技術の研究および振興に関する予算の重要性は飛躍的に増大していくことになった。
言わば国策として、経済の潤滑油さながらに、「聖域」たる科学技術予算が、機能しているのである。
そして、その筆頭格であり、最も多額の予算が存在する分野として、これまでは原子力発電事業こそが、その聖域に君臨してきた。
原子力発電の「推進」に関しての主務官庁は経済産業省であり、「研究」に関しての主務官庁は文部科学省であった。その一方で、規制を行う原子力保安院経産省に置かれていた。規制に関して、推進する立場の主務官庁の意向が働けば、事実上、規制が骨抜きになる可能性があり、本来なら規制に関しては独立した行政機関の形が望ましいことはいうまでもない。この点は過去に指摘されていたにもかかわらず、設置が実現見なかったのは異例である。
二〇一一年三月一一日に発生した東北大震災と津波によって連動して起きた福島第一原子力発電所の事故の結果が甚大であり、原子力そのものへの反発の声が大きいことから、科学技術の研究・振興としても原子力発電所への国家予算の増額は難しくなっている。新たな「聖域」を探す必要に経産省と文部省は迫られていた。
白羽の矢が立てられた一つに、再生医療研究があった。

シーメンスという会社の株の不可解な動きから、インサイダー取引の疑いもある。この事件は、どう考えても、一部の科学者の研究にとどまらず、大きなお金の動きを伴って、事件は大きく動き、笹井さんの自殺を結果して、今に至っている。どうもキナ臭いわけである...。

STAP細胞に群がった悪いヤツら

STAP細胞に群がった悪いヤツら