ISの精神攻撃

そもそも、私に理解できないのは東浩紀先生の『観光客の哲学』における、欧州で頻発している

  • 無差別テロ

についての現状認識についての記述なわけである。

ぼくがここで念頭に置いているのは、ホームグロウン・テロリストやローンウルフと呼ばれる、先進国の内部で、組織的な背景がなく孤独に犯罪を準備する新しいタイプのテロリストたちである。彼らはイデオロギーをもたない。標的も政治家や経済要人に限らない。彼らはむしろ、この二一世紀の世界で幸せに生きる一般大衆、それ自体を攻撃する。

ゲンロン0 観光客の哲学

ゲンロン0 観光客の哲学

イスラム国(IS)がネットで公開した、ハリウッド映画ばりに過度な編集がされた処刑動画を見たことのあるひとならば、「まじめ」と「ふまじめ」とのあいだで宙づりにされるこの感覚に覚えがあるはずである。
ゲンロン0 観光客の哲学

この東浩紀先生の分析には、意図的かどうかは分からないが、ある説明の混乱がある。つまり、実際の無差別テロの行為者が、なぜ無差別テロを行うようになるのかという

  • 意図

と、そのテロ実行者に、「指令」を送っている犯罪組織であるISが「どういう考え」で、この無差別テロを意図しているのかの説明である。
例えば、以下の前回のイギリスで起きた無差別テロの分析の記事を見ると、よく分かるのではないか。

ロンドン(London)で2005年に起きた同時爆破事件の捜査を担当した元ロンドン警視庁(Metropolitan Police、Scotland Yard)刑事のデービッド・バイドセット( David Videcette)氏はAFPに対し、マンチェスターの事件では標的が考え抜かれた上で選ばれたとの見解を示した。
同氏は「一般の人々の怒りや嫌悪感が他のイスラム教徒にまで向けられるよう、考え抜かれた策略だと思う。そうすれば、メンバー勧誘活動の一助となるからだ」と語った。
仏情報機関、対外治安総局(DGSE)の元職員、イブ・トロティニョン(Yves Trotignon)氏は、マンチェスターでの事件について、昨年フランスのニース(Nice)とルーアン(Rouen)近郊で起きたトラックによる襲撃事件と司祭殺害事件との類似点があると指摘。
「今回の攻撃で非常に衝撃的なのはその標的だ。治安当局は一様に、一般の人々が耐えられないと感じる標的への攻撃を恐れている」と述べている。【翻訳編集】 AFPBB News
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170524-00000005-jij_afp-int

ISの行動で一貫しているのが、彼らが「計画」する無差別テロは

  • 欧州で平和に生活している人々の「精神」を破壊しようとする

攻撃だということである。大事なポイントは、これが「精神」攻撃になっている、というところにあるわけである。構造は以下である、

  • 空爆:欧米列強 --> IS
  • 空爆による死者:欧米列強 --> ISの活動拠点の周辺の住民
  • テロ:IS --> 欧米列強
  • テロによる死者:ISに協力する欧米列強の空爆による死者に恨みをもつ人々 --> 欧米列強

言うまでもないことであるが、欧州と中東は「隣り合って」いる状況で、距離も非常に近い。しかし、中東は今、ISに向けた欧米の空爆を始めとして、ほとんど「戦争状態」と変わらない。つまり、今でも「戦争」を行っている。彼らが欧州の各地でテロを行うのはこの「戦争」と地続きの感覚しかない。それは、北朝鮮が日本で拉致をしたのが、彼らが朝鮮戦争から続く「戦争状態」の感覚をもち続けていたことと差がない。
そして、ISが一貫して行っている戦闘スタイルが、欧米で平和に過ごしている人たちに「恐怖」という「精神の破壊」を行うための攻撃なわけであろう。
つまり、ISに言わせれば、こんなに距離の近いところで戦争が起きているのに、「そこ」と関係なしで平和を享受できるわけがない、と言いたいわけであろう。
これはIS側に言わせれ ば、欧米列強とISとの「正義」を賭けた戦いなわけである。なぜ、欧米のブルジョアたちは、彼らが住んでいる場所の近くで「戦争」が起きているのに、それを無視して過しているのか。なぜ中東の争いを止めるために行動しないのか。なぜ、中東の欧米も関係して起きている戦争で苦しんでいる人たちに彼らは金銭的、資材的にさまざまな援助を行わないのか。
これは「正義」が問われた状況なわけであろう。
ところが、上記の東浩紀先生のご主張は、これは「ふまじめ」が問われているのだ、と言っているわけであるが、上記のポイントは、そういった底辺の「若者」が「ふまじめ」なのは

  • 当たり前

なのであって(彼らはどこにでもいる「不良」なのであって、毎日馬鹿なことをやって過ごしている)、彼らに「指令」を送っている犯罪組織の「意図」こそが問題なわけであろう(そもそも、その犯罪組織の「指令」が無差別テロでなければ、無差別テロは起きていないのだからw)。
ますます、ISの「精神攻撃」が成功して、人々の精神が壊れていくような分析なわけであろうw
そうやって、欧州のブルジョアは彼らの住む「近く」で起きている戦争に「無関心」なままでいいのか? ますます、ISの精神攻撃が効いてくるだけではないのか? 次々とこうして、欧米列強の空爆で亡くなった中東の人の関係者の「恨み」をかって、ISの「指令」に従って無差別テロを決行する人々を

  • 生産

しているだけではないのか? つまり、まったく東浩紀先生の論点はピントが外れているわけである...。