この前、韓国の若者がどう日本のアニメを見ているのかを紹介する文章を引用した。それを再度、引用してみよう。
その学生によれば、はじめて日本の漫画やアニメの世界に触れた時、それまで自分を取り囲む韓国の文芸は、どれもが観念的な枠組みを押し付け、規範や教訓的な話ばかりであったことに気づいた。これに対して日本の漫画やアニメは、そうした論理的観念的な世界とは全く異なり、個人の揺れ動く感性やこだわりや官能の世界を全面に出しているのだという。自分たちは異本のアニメや漫画に接することで、韓国では接することのなかった新しい世界が目の前に開かれているのを実感したのだという。そして、韓国の観念的・教訓的な世界とは、男性の知的指導層が作り上げてきたのもであるのに対して、日本の漫画やアニメでは、女性性を何はばかることなく前向きで魅力的に提示しているのだという。
(伊藤亜人『日本社会の周縁性』)
日本社会の周縁性
ここで示されているのは、韓国が儒教の影響を大きく受けた国であることもあり、社会の「規範的」な締め付けが強い、ということを意味しているのだろう。
特に、上記の引用にもあるように、
- 高齢の男性による、若い女性の「有り様」そのものへの「説教=難癖」が強い
ということなんだと思っている。なんか目立つ女性がいると、すぐに、回りの大人が、「あいつは駄目だ」と説教を始める。そして、それが異様なまでに目立つのが、なぜか
- 高齢の男性が、若い女性の「道徳」について、年がら年中、説教をしている
という「文化」の国だ、ということなのだろう。つまり、やったらと、高齢の男性が、若い女性
- について
語って「ばっかり」いる、つまり、やたらと「関心」をもっている、少しでも「規範=道徳」から外れていると執念深く、ねちねち、ねちねち言われる、というところが異常だ、ということなのだろう。
そのため、ほとんど、韓国のドラマのヒロインは、みんな
- 金太郎飴
になっている。みんな、話すことも、考えることも「同じ」なのだ。というか、そうでないと、人前を歩けないのだw 年上の男たちが、「いかがなものか」と、怒りだすから。
しかし、である。
うーん。
私は逆に、考え込んでしまったのだ。ここで言っている、日本の漫画やアニメが、
- 女の子が「そのまま」であることを、まったく恥ずかしいことではなく、「そのまま」描くことを肯定的に描いている
ということが、結局のところ、どういうことなのか、と。
おそらく、韓国社会であり、儒教社会には、「男尊女卑」の思想があり、女性というのは、そのまま女性であるということが
- 価値の低い
ことである、といったような側面がある、ということなのだろう。つまり、男性しか価値がない。もっと言えば、だからこそ、女性が男性に対して、
- 男性の価値を高める
ように振る舞うことが、女性の「価値」と考えられ、それができているのかそうでないのかを、まさに
- 監視社会
として、女性が
- 男たちに「監視」されてきた
歴史がある、ということなのだろう。
例えばここで、掲題の、日本のロリータ・ポップにおける、やくしまるえつこであり、バンドの相対性理論を例に考えてみたいわけである。
2019年7月には自身のバンド・相対性理論の初ライブアルバム『調べる相対性理論』をリリース。その圧倒的な音楽に「ひとつの高みに達しようとしている」(松村正人/批評家・編集者)、「まさに他には無い音楽が鳴り響く」(鈴木慶一 ムーンライダーズ)と早くも数々の賛辞が寄せられる中、待望の最新シングル『アンノウン・ワールドマップ』をリリース。
アンノウン・ワールドマップ by やくしまるえつこ
ようするにここで言っている、やくしまるえつこの「唯一無二性」を考えたいわけである。といっても、そんなに難しいことを言いたいわけじゃなくて、なんというか、普通だったら、彼女の歌い方は、ささやくようなもので、まったく「歌っている」と受け取られないかもしれない。というか、韓国の説教くさい男たちの言い分だったら、「こんなの歌じゃない」となる。でも、彼女はこうやって普通に
- 存在
している。存在を、日本社会の中で許されている。むしろ、それが彼女の「個性」だということにまでされて、このようにある(なんだろう、彼女の曲の、物理学や数学からの、用語の使い方なんかが、一定の大衆との距離感を与えていて、それが少し、人々をかまえさせている、ということなのかもしれない)。
しかし、そうは言っても、やっぱり彼女の評価とは、その「ロリータ」性にあるわけであろう。
「(「ハイスコアガール」のヒロイン)大野さんの心を代弁してくれる歌声をもった人は、やくしまるさんしかいない」
アンノウン・ワールドマップ by やくしまるえつこ
ん? 「ハイスコアガール」というなら、アニメを見ている限り、大野というより、日高なんじゃねーか、と思わなくもないけど、まあいいや。
例えば、
の、学級「ほーかい」とか、
の、「みたー」とか、こういった
- 舌っ足らず
な、ロリコンっぽいものへの、なんらかの「エロティシズム」として、まさに、最初の引用が指摘していたように
- 官能の世界
- 女性性を何はばかることなく前向きで魅力的に提示している
といった形で、この日本社会が「肯定」していく、ということなのであろう。
いま空に手を伸ばす
火花のエフェクトが弾ける
見たことのない世界に胸が鳴る
風とともにフィールドが広がっていく
(やくしまるえつこ「アンノウン・ワールドマップ」)
まあ、この
- いま空に手を伸ばす
なんて、彼女が実際にそうやっているところをイメージして、また、それを「そのまま」に肯定する、日本的な文化ということになるだろうか...。
- アーティスト:やくしまるえつこ
- 出版社/メーカー: みらいレコーズ
- 発売日: 2019/10/30
- メディア: CD