カフカといえば、『城』であるが、この作品も、かなり前であるが、おもしろく読んだ。
失業していたか、という質問にたいして、カールは、あっさり一言のもとに、「そうです」と答えただけだ。「最後に君が勤めていたのは、どこでしたか」すると、紳士はそうきいた。カールが返事をしようとすると、その紳士は等さし指をあげて、「最後にですぞ!」と、もう一度くりかえした。最初の質問だけで、カールにはその意味がちゃんとわっていたのだ。ところが、後でつけ加えられた言葉にちょっと戸まどいをかんじながら、思わず頭をふって、それから、答えた。「ある事務所につとめていました」それは本当だった。(中略)「僕、技師になるつもりでした」そうカールは答えた。カール自身、この答えはいやでたまらなかった。 (中略)しかし、紳士はそれを額面どおりまじめに受けとった。彼はなんでもまじめ一方に考える男なのだ。「ふむ、おそらく君がすぐ技師になるというわけにゃいかないね」と、彼は言った。「しかし、まあ、たぶん、当分の間はなにか初歩的な技術方面の仕事をやってのけることも、まんざら君に不向きじゃないだろうな」「きっと、そうだと思います」と、カールは言った。
- 作者: フランツ・カフカ,中井正文
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1972/01/30
- メディア: 文庫
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