エリック・ホッファー『構想された真実』

彼を知らない人が、ほとんどであろう。故人であるが、アメリカの伝説的な人です。私にとって、仕事を始めて何年かたった頃、彼の作品を読んだりなどして、大変、影響されてきたと思う。彼も、ドストエフスキー罪と罰』への影響を語っているところがあります。

ドストエフスキーの『白痴』は、ほとんど内容をおぼえてしまうぐらい読んでいたが、ほかの作品は一度しか読んでいない。ところが、『罪と罰』と『カラマーゾフの兄弟』を読み返してみて、この数年間に自分の心が成熟していることに気づく。最初読んだときには理解できなかった物語の細部から大きな喜びを得ることができる。ドストエフスキーを始めて読んだころ、なぜか陰鬱な気分になったが、いまや最も悲惨な話にさえ、その底流に歓喜が感じられる。(中略)ほんの少し話すだけで、その人物は身のまわりに、登場する人物は、この国の人たちよりも、そしてたぶんロシアを含むどの国の人たちよりも、奇怪で突飛な存在だろう。しかし、そこには人間的なものの本質が凝縮されているのであり、どんなに常軌を逸っした変わり者であっても、彼らはわれわれの心情と思考に近い存在だ。ドストエフスキーの極端さには、壮大なものが隠されている。それは人間という実体の核心にある激情的なものや、未知に深層とおなじみの日常生活の表層との間にある大きな隔たりを垣間見せてくれるのだ。

エリック・ホッファー自伝―構想された真実

エリック・ホッファー自伝―構想された真実