柄谷行人「「努力目標」としての近代を語る」

大塚英志との対談。あらためて、ネットと匿名の問題が論じられている。

一方、ギリシアの民主主義は本質的に、くじ引きによるものです。直接民主主義といっても5000人も集まって議論ができるわけがないのです。あれはかたちだけです。大事なのは権力をもつポジションをくじ引きで決めたということです。しかも、任期が終わると、そのあと業績を厳重に審査した。弾劾した。その場合、審査や弾劾が遠慮なく自由にできるように、匿名制がとられたわけです。だから、ギリシアの場合は、あくまでくじ引きが優位にあるのです。匿名とかくじ引きとかいった方法は昔からあるのものですが、通信技術が発展しても、本質的には、このような方法しかない。民主主義の問題は、こういう技術と切り離せないと思います。

彼は、匿名性こそ、自由の根拠であると言ったが、この面でこそ、社会は、もしかしたら変わっていくのかもしれない。まあ、この方向での一つの変化は、個人情報保護法ですね。この法律そのものは、経済事案の話であり、一般人はほとんど関係ないはずなのに、学校の緊急連絡の名簿さえ配られなくなるし、面接で、名前をイニシャルにするなんてこともある。しかし、こんなものではないだろう。テレビ芸能人にしても、政治家にしても、全国民に顔が割れているがゆえに、うさんくさい儲け話をもって、うさんくさい人たちが、むらがってくるし、実際、問題発言によってテロの対象にもなりやすい。公的に発言することが、個人のプライバシーを切り売りすることだとするなら、リスクとの相談となる。こういった面で、近いうちにかは分からないけれど、おそらく徹底した変化が起きるだろう。その一つが、2ちゃんねるの管理者の人や、いろいろなブログの作者が、ペンネームでかつ、顔を正面でクリアに画面に現れないことで、テレビのニュース番組や情報番組に出演しているケースである。

新現実vol.5

新現実vol.5