大江健三郎「政治少年死す」

大江健三郎の、「セヴンティーン」の第二部である。主人公が、左翼のリーダーを刺殺してから以降は、ちょっと、煩雑になって、まとまりがなくなっていくけど、それ以前の筆力は、やっぱり、大江健三郎だ。これだけの、密度のものを書くというのも、さすが、一世代前の文学者だ。ひきこまれて、考えさせられた。
この作品において、主人公は、右翼の17歳の若者なのだが、彼の天皇に呼びかける姿は、キリスト教における、イエスを想起させる。そもそも、皇国史観における、右翼の天皇への態度は、かなりキリスト教のにおいをさせる。平泉澄のクローチェへのこだわりにしても。日本の歴史においてキリスト教は、ひとつのつまづきの石だ。織田信長以降、徹底的に弾圧され、庶民内において、それは恐怖とセットの反射的感覚となっていくが、一時期は、本当に国民のほとんどが、キリスト教徒になったのだ。そのことの意味はなんなのか、ということだ。この世界宗教と日本人との関係。また、仏教を勉強している年上の女性があらわれ、親しくなる場面も示唆的だ。
主人公は、犯行におよぶ前日、悪夢のような夢をみる。理科系の苦手な自分は、どんなにがんばっても防衛大学校には入れない。自分は実はヘタレなのではないのか。チンポをどんなに刺激しても立たない、自分はインポテなんだ。自分が、美智子となっていて、結婚の前日、恐怖のあまり、むせび泣いてる。天皇に「なんだ汚らわしい」というように無視される。...。

スキャンダル大戦争 (2)

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