三雲岳斗『少女ノイズ』

主人公は、とある子供の頃のトラウマから、殺人事件の現場写真をとることを趣味としている、男子大学生。塾講師のバイトをすることになるのだが、その仕事は、その塾に通う、斎宮瞑という、ある一人の女子高生の、監視役のようなものだという。彼女は、毎日、屋上に一人いるだけで、なにもせず、塾の授業に出ることもない。

彼女は基本的に僕に対しても関心を払わない。僕が話しかけても、そのほとんどは無視されて終わりだ。ごくまれに彼女のほうから質問してくることがあるが、それに対して僕が解答を与えると再び沈黙する。当然だが、彼女は僕の意見を聞かない。そして僕は彼女に命令できる立場ではない。

しかし、こういった、綾波レイのような設定は、最初の場面くらいで、その後は、多少、Sっぽい、普通の女の子、という描き方だ。普通とはいっても、成績トップクラス。
というのは、彼女は、このミステリー小説の中で、事件を推理していく「主体」として描かれる。そうなると、彼女側の動機が問題になるんですよね、これ、ミステリーの弱点ですね(まあ、頭がいいんで退屈しのぎと言ってもいいんですけど、逆にそういうレベルで描いてしまうと、犯人との対決の緊迫感がなくなる)。いつもそうですけど、推理小説の異常さは、その探偵の異様なまでの好奇心なんですね。
チープで幼稚な前向き発言が結論なのはご愛嬌。
ほっといても、回りのかわいい女の子が、「フツーの」自分をほっとかなく、かまってきて、モテモテ、というのは、前に、小谷野敦が、ドストエフスキーの『罪と罰』をこの点で不満をもらしていたが、村上春樹以来、こういう「フツーの自分」への(この上なくいとおしい)自意識のカタマリは(そんなにフツーなら興味もたなきゃいいのにね)、小説の中では、報われる、というわけだ。

少女ノイズ

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