宮台真司『教育をめぐる虚構と真実』

国は、この何十年ずっと、教育改革をやってる。総理大臣が変わるたびに、教育改革を叫んできた。でも、自民党が教育改革を常に党是としているのは、理解できる。徳育や、天皇教育をやりたいのだろう。
この本には、一カ所、興味深い個所がある。

彼(津田君)はなかなか変わった人で、横須賀近辺で生まれて米軍基地で音楽を演奏していたんです。それなりに悪いこともひととおりやったみたいで、一回捕まってブタバコへ行ったこともあるといいます。その後「このままだと俺の人生はどうなるんだろう」と思って海外へ行くのだけれど、お金がない。そこで思いついたのが、炊きだしをやっているボランティア団体を手伝うと、とりあえず食えるということでした。
というわけでニューヨークからパリへ、また別の場所へと、世界中を点々としながら十六年間炊きだしをやり、最後に流れついたのがアフリカのルワンダの難民キャンプだった。そこで日本のビデオを難民たちに見せる機会があった。たまたまそのビデオに、新宿のホームレスの人が駅で寝ているのが映っていたんです。
「あれはどういう人だ」とルワンダの難民が訊いた。津田君は「ホームレスと呼ばれる人たちだ」と答えた。でも難民たちは納得しない。というのも、日本って彼らからすると夢の国ですよ。夢の国になぜ自分たち難民のような人がいるのか、ってどんどん質問される。ついには「おまえはなぜこの人たちを助けないで、こんなところにいるんだ」と説教までされたらしい。

この本に、ぐちゃぐちゃ書いてある不毛な教育議論(教育利害当事者に教育を語るは資格はない)を、ふっとばすシーンですね。
私が、かみつきたいと思うのは、クラス分けだ。クラス分けが悪い、とは言わない(クラス分けをやらないなら、大学のような単位制、となるのだろう)。しかし、もし、ひとたびやると決めたなら、徹底的にやるべきだ。中途半端な形でしかできないなら、やめるべきだ。
中学1年のクラスは、3年まで変えるべきでない。せっかく、彼らは、一年間、お互いの特徴を理解してきて、これから、という時に、なぜ、今までの、団結を壊すようなことをするのか。
そして、中学1年の最初の日に、全員が全員の希望する進路に行けるように、全員で助け合い、一緒に努力し合うことを、誓えばいいだろう。
そうすれば、あとは、子供たちが自分たちで、いろいろ考え、3年間を有意義に過すよう、日々、考えるだろう。
学校がやることは、あとは、子供たちに、場所を自由に使うことを許し、子供たちに、教育過程で身に付けさせなければならないことについての質問は、すべてに答える、それだけで十分でしょう。
つまり、「自治」です。
クラスという共同行動を強制しておきながら、一部の人だけ、行きたい進路に行けるような形の、努力を奨励することは、欺瞞的だ。
一方に進路に悩んでいるクラスメートを無視し、力になれないまま、自分だけ、進学できたとして、それのどこが幸せだというのか。こんなことじゃ、精神衛生上も、よくないでしょう。
中には、行きたい進路に進めなかった人も、あらわれるだろう。しかし、そうであっても、みんなで精一杯支え合ったなら、お互いの信頼感は続くであろう(別に、そうなったことは運命ではなく、ちょっとしたかけ違いで、立場は逆だったのかもしれないわけだし)。また、その後にしても、その時のクラスのみんなでなら、なにかやってやれることはあるはずだ。
ただ、このシステムは、一部において、実現している。部活動である。部活動においては、教師は、サポート的な立場でしかなく、予算獲得を含めて、部員の活動次第となる。むしろ、このことは、すべて、「部活動」的な形態で問題ない、ことを暗に示唆している。
学校というところは、二つのメッセージを発し続けている。
「団結しろ」
「団結するな」
子供たちはこのダブルバインドによって、精神的に混乱した状態にいる。
なぜ、学校は、こうなのだろうか。それは、学校そのものが、ダブルバインドになっているからなのだろう。一方で、生徒や、その親の方を向きながら(月謝という形で、決して、無視はできない)、他方、校長、国家を向かざるをえない(国の補助金によって、運営が実現できている限り、彼らのプレッシャーを常に感じざるをえない)。
また、もう一つの矛盾は、それぞれの進学校の、大学のパイは決まっている、とされていることだ。
しかし、むしろ問題なのは、生徒を選ぶのが、学校職員側の裁量になっている、ことではないだろうか。なぜ、このことに疑問をもたないのであろう。学生こそが、後輩を選ぶべきではないのか。私はそれほど過激なことを言っているだろうか。
究極的には、学校職員(国家公務員、つまり、国家)側が、パイを決め、自分たちの気に入った人間を入れ、気に入らなかったら、どんなに成績がよくても、蹴落とす。この構造をほっといて、よくも、「教えてやってる」だと。えらそうに。
そんなに、自分たちの今は、成功して、幸せ一杯ですか。よかったですね。