桜庭一樹『推定少女』

直木賞作家の、初期の作品。以前、ファミ通文庫だったものの、角川文庫での再販。
主人公の「僕」、巣籠カナ、は受験をひかえた、中学生。ある日、学校の裏で、宇宙船が墜落した、という噂がとびかっているとき、部屋で、義理の父親を、弓矢でうち、二階から、つき落とす、ところから、話は始まる。
「僕」は、恐くなり、逃げだすのだが、隠れていた場所の、ダストシュートで、ピストルを握りしめ眠っている少女を見つけるところから、彼女(彼女が「白雪」と名づける)との、二人三脚の、東京への、逃避行(家出)が始まる。
カナは、その道すがら、義理の父親の様子を見に、病院に寄るのだが、そこで、母親が、父親を傷つけた、自分の子供が許せず、「この手で殺してやりたい!」、とつぶやく言葉を聞き、ショックを受ける。
主人公の少女の、この家出という行為、そこにある、大人社会への、不信感、とあいまって、一緒に逃避行につきあってくれる、謎の少女、白雪、との、友情、精神的な親愛、信頼感、とのコントラストが、ストーリーが進むごとに、深まり、強調されていき、作品は、なんとも言えない、緊迫感と、迫力をもって、ラストに向かう。
ところが、エピローグは、なんと、3つ、提示される、という変なことになっている。
一つ目のエピローグは、(あいまいな形ではあるが、)二人の逃避行が、これからも続く、ことが示唆されて終わる、というもので、これが最初に書かれたそうだが、編集者(どっかのアホ)により、ボツにされた。
「少女が家に帰って、ハッピーエンドにしろ」という、ごたっし、だったらしい。それで書かれたのが、三つ目で(主人公は、見事、高校受験も合格して、短大まで、行くことになる)、これを、コンパクトにしたものが、二つ目で、これが、ファミ通文庫版、ということらしい。
昔、『蜃気楼の戦士』というSFが、ハッピーエンド版と、そうでないのがある、というのを、あとがきに書いてあって、変に思ったことを、なんとなく思い出した。
読んだ印象としては、一つ目のエピローグ、以外、考えられない(といいますか、生理的に、私は、これ以外は受け入れられない)。
そうなんだけど、三つ目が、あまりに、いいわけ的に、ごちゃごちゃ書いてしまったので、逆に、こっちは、こっちの、細部を徹底的に埋められてしまった、ストーリーができてしまっている感じで、後の祭り、かな、と(なんとも、後味の悪い、ビルドゥングス・ロマン、が、また一個、生まれた、というところでしょうか)。
なぜ、二つ目、三つ目、が、決定的にダメか、というと、とにかく、一つだけ、どうしようもないのは、エピローグまでの、さまざまな、主題を、全部、無かったことにして終わる、というスタイルだから、ですね。こんなふうになるなら、なにも書かない方が、いい。
(エンディングまでのストーリーには、多くの可能性を感じるからこそ、あえて、言うわけですが、)むしろ、そのストーリーの細部は、一つ目のエピローグ「、の後」。何冊か、続編を続けることで、そこに、本当の決着をつけるべきでしょう。それは、多くの読者が思っていることなんじゃないですか。

推定少女 (角川文庫)

推定少女 (角川文庫)