上野千鶴子『おひとりさまの老後』

上野さんについて語るのにふさわしい人は、私などよりほかに、いっぱいいるだろう。
私は、別に、彼女の、いい読者ではないが、いろいろ思うところはある。
上野さんは、言わば、日本のフェミニズムの論客として、常に、第一人者として、あげられてきた。
それは、どういうことなのか、なんだけど、ただ、彼女の場合、そのフェミニズムは、マルクス主義フェミニズム、ということなのかな。そういう立場を自称していたように思う。その辺りが、彼女の主張に、普遍性を与えているところは、確かにあるのでしょう。
日本において、明治以降、普遍的な思想として存在しえたのは、キリスト教と、マルクス主義の、二つしかなかった(以前にも、そんなことを言いましたが)。そう考えると、マルクス主義の射程の中で、日本のイエ制度や日本のカイシャ主義を、女性の立場から整理する言説は、重宝されてきた。
自分たちという、非常に狭い世界で、日々の暮しをしている人々にとって、そういった自分たちの関心を、外の広い世界と「つなげて」くれる、大きい物語とつなげてくれる言説というのは、貴重なんだと思うんですね。
もう一つの彼女の特徴は、その饒舌さ、なんでしょう。実に、歯に絹を着せずに、あけっぴろげに、思ったことをなんでも、発言してきた。その、言葉じりをとらえて、いろいろ言われたこともあるようだが、そんなものはつまんない話でしょう。
掲題の最近出版された本であるが、さらに、パワーアップしてるんじゃないかな。本当に、好き勝手、語ってますね。気持ちいいくらい。
実は、今、たいへんな時代に至ろうとしている、第一次ベビーブーマー団塊の世代の、定年退職、だ。これだけの、大量の人が、介護対象となったとき、この国は、一体、どうなってしまうのであろうか。
こと、こういう時期になっても、オピニオン・リーダーとして、語られる彼女の言葉は、いつもの、へらず口だ。

法律が親族遺留分を守ったのは、自分勝手な遺言を残して、配偶者や子どもの生活保障を考えないオヤジの専横から女、子どもを守るためというが、ホントにそうか。
「自分のものなのに、自分の権利が半分しか及ばないなんて、親族遺留分はけしからん。勝手に処分してなにが悪い」とわたしがいきまくと、あるひとがこう言った。
「たとえばさあ、お金持ちのお年寄りの最期を親切な家政婦さんが看とって、そのひとに全財産残すとかって遺言されたら、やっぱり困るでしょ?」
なにが困るんだろう?

彼女こそ、「真」の自由主義個人主義、ではないかね。彼女の語ることで、一つとして、ダメだな、と思ったことないんですけどね。
しかしですねー。この素晴しい本に、ナンクセをつけた、いつもの東浩紀さん。

「希望は戦争」といった極端な言論が出てくる背景には、その世代間格差がもはや絶対に埋められないという絶望がある。その立場からすれば、団塊世代はせめて私的に遺産ぐらい残すべきであって(だって団塊ジュニアは年金も貰えないし資産も形成できないのだから)、上野氏の主張は「既得権」への最悪の居直りだということになるだろう。
東浩紀ジャーナル第9回・言論は世代を超えられないのか?」

NHKブックス別巻 思想地図 vol.2 特集・ジェネレーション

NHKブックス別巻 思想地図 vol.2 特集・ジェネレーション

そう、東さんは「思う」ってだけでしょう。なんでそれが、「上野さんは最悪の居直り」になるの。
上野さんは、どうみても、自由主義の立場から語られていますよね。それと、東さんの主張と、なんの関係があるのでしょうか。もっと言えば、赤木さんの主張にしたって(私は必ずしも賛同しませんけど)、別に、なにも、東さんの考えに賛同する文脈で言ってるわけじゃないんでしょ。勝手にこういう文脈で、もってこられて迷惑なんじゃないですかね。
東さんは、すでに、自分の目標は、コミケなどの、オタク・コミュニティを、なんとか、保存して行くこと、って、立場を表明されてますよね。ああいう、ガキの性欲にまみれたエロゲーで遊べる子供たちの散財を維持できるマッチポンプは、親が、子供の頃から、一身に、身命を賭して、汗水垂らして稼いできた、なけなしの、お金から、むしりとるしかない。
だから、東さんは、こう言いたいんでしょ。「親の皆さん。子供がかわいいですよね。孫かわいいですよね。この子たち、大人になっても、国が助けてくれないんです。かわいそうですよね。どうやって生きていけばいいのか。あなたたちが、稼いだお金を、なんとか大切にされて、子供たちに、残してやってくださいな」。
しかしねー。

しかしわがままに生きるとは残酷に生きるということでもある。上野氏のアドバイスは要は、運の悪い子の世代は見捨てて老後を楽しもうというものであり、それは残酷と言えば残酷だ。
東浩紀ジャーナル第9回・言論は世代を超えられないのか?」

NHKブックス別巻 思想地図 vol.2 特集・ジェネレーション

NHKブックス別巻 思想地図 vol.2 特集・ジェネレーション

なんで、上野さんの言う生き方が「わがまま」「残酷」なの。
いーじゃないですか。お金をどう使いたいのかに、なんで、子供が、まるで自分の権利であるかのように、口出し、するの。
私は、むしろ、ここにこそ、日本人が、なかなか、ボランティアや、寄付をできなくしている、エゴイスティックな、なにかがあるんじゃないかと思っているんですけどね。

おひとりさまの老後

おひとりさまの老後