桜庭一樹『少女には向かない職業』

最新刊を読もうと思ったのだが、もう少し、初期の作品を読んでからにしようかな、ということで、掲題の本を、まず読んでみた。
ただ、少し、あきてきたな。
彼女の作品を読んでいると、むしろ、思うのは、「もう一つの物語」についてだ。へんな表現だが。
高校生まで、生れ育ったまちにある、学校に通った自分としては、当然だが、そこに、ほぼ男子と同じだけの人数の、女子がいた。彼女たちは、一体、なにを考えて日々を送っていたのであろう。
なにか、彼女の話を読むと、その、すぐ自分の側にあったはずの、もう一つのストーリーを体験しているような気持ちになる。
彼女は、別に、天才ではない(『赤朽葉家の伝説』を読んだときは、本気でそう思ったものですが)。彼女は、ただ、思ったことを書いているだけだ。
今回の作品は、実は、けっこう、安心して読めた。
たしかに、この作品で、二人、主人公の、大西葵、に殺されるんだけど、私は、読んでいて、なんとなく、安心できた。
というのは、ドストエフスキー罪と罰』が作品の中にでてくるので、いくら、彼女でも、私が人類史上の最高傑作だと思っている本に、泥をぬるようなことをしないだろうな、という、なんとも、どうでもいい理由ですが。

静香は震え声で、でもきっぱりと言った。
「うそじゃないもん。ただ、あたしは......」
「ただ、なによ!」
「あたしは、葵の気を引きたかったの」
力が抜けて、あたしは肩をがっくり落としてしまう。静香は続ける。
「だって、あたしにとっては葵は特別な女の子だったから。同じ本で泣いてくれたし。夏休み、楽しかった。葵がほんとにお義父さんを殺したから、尊敬した。すごいって。やっぱりって。だけど夏休みが終わったらあたしのこと相手にしてくれないし、ほかの女の子とばかりつるんでるし。楽しそうで、悔しくて。葵をこっちに振り向かせたかったの」
「......」
「友達になってほしかったの」

いってみれば、今回は、DVに対して、被害者の反撃が「成功」したパターンだ。もちろん、こういう結末は、もう一つの、悲劇である。彼女が小さい頃は、お義父さんも、やさしい人だったし、彼女もなついていた。
ただ、忘れていけないのは、DVの、加害者、被害者の関係は、ひとつの「戦い」だということです。
なまぬるい、人生の晩年の、お互い弱りきって、お互い弱者になったら、和解といっても、それで全てが、報われる、とは違うでしょう。
大西葵は、(尊属殺人になるわけだし、)未成年とはいえ、これからの人生は、やさしいものにはならないだろう。
しかし、彼女は、罪を告白したかったのだから、告白できたことはよかったのだ。
そしてなにより、彼女は、宮乃下静香を、救った。少なくとも、それは、宮乃下静香に対する、義、の態度であった。彼女は自らに納得したから、自首した、ということなのでしょう。

少女には向かない職業 (創元推理文庫)

少女には向かない職業 (創元推理文庫)