グナル・ハインゾーン『自爆する若者たち』

著者は、ドイツの社会学者、経済学者、だそうだ。
ジェノサイド研究の、第一人者だそうで、読むとその話題は、多岐にわたる。
著者は、「ユース・バルジ(youth bulge)」という現象に注目する。バルジとは、人口ピラミッドの、外に異様に広がった部分のことらしく、つまり、人類の歴史における、多くの大量虐殺、テロは、この、子供たちの異様なまでの、増加が、こういった現象の「原因」なんだ、と極論する。
ただし、ここで、注意しなければならないのは、たんに、子供が多いことが問題ではない、という。事実、著者は、中国における子供の人数が、世界第2位であっても、問題とは考えない。なぜなら、中国は、むしろ、高齢化をどんどん進めているからで、問題は、その比率なのだ、と。
子供だけが、多くなるということは、どういうことか。それは、「やることのない」人が、大量に生み出されることなのだ、という。次男・三男は、親の資産を相続しない。相続してももちろんいいのだが、その資産が少なければ、相続しないのと変わらない。
その場合、著者は、彼らが、直近やることは、自明だ、とする。それは、長男との、相続闘争、である。しかし、この闘争は、いわば、負けることが必然であるか、逆に、なにかアクションを起こすということは、(当然、兄弟間の衝突を意味するわけですから)悲劇的な結末しかありえないのだから、いずれにしろ、暴力的な風潮を助長することには変わらないだろう、という。
では、彼らは、なにを始めるか。なにもしない。なにもしないということは、なにかやるべきことを求めて、「さまよう」ということだ。
著者は、そこから、テロリスト集団への、加入などの、社会的な、居場所を求める放浪が始まる、とする。もし、テロリストにならないとすれば、なにになるか。移民である。
このあたりで、著者の関心が、分かるだろう。ヨーロッパは、下層労働者を、常に、移民によって、ひき受けてきた。彼らとの、つき合い方は、身近にある、喫緊の問題なのだ。著者は、子供のクラスにおいて、移民の比率が、4割を超えると、急に、クラス全体の成績が下がる、ということに注目する。

これまでにジェノサイドに適用できる国際刑法は多数生まれているものの、その執行後はジェノサイドで得をした者も再び人権に護られることとなる。ドイツやイラクの集団殺害に関わった者の子供たちが、自分の父親に殺されたユダヤ人やクルド人の孤児よりも権利は1グラム少なくなるなどということは決してない----前者が後者の殺害を夢見ることがあろうとも、だ。罰せられうるのは、じかに唆したり手を下した者のみである。

著者は、すごいですね。ジェノサイドは、結局は、「得」なんだそうだ。

最終的に犯罪行為を止められたとしても、せいぜいがミロシェビッチ一族が国際刑事裁判所に出てくるぐらいで、つい今し方までこういう殺害を指導者に望んでいたほかの「セルビア人」はみな人権の保護下にとどまる。勝利を収めなおかつ罰も受けずに済んだ「セルビア人」にとって大きな範例となるのは、ヒトラー以後では、西洋ではよく知られている、1945年以後の平時における東ヨーロッパのドイツ人問題の処理である。約210万の生命が奪われ----そのうち13万5000はセルビア人が優勢なユーゴスラビア内である----、さらに1300万が追放され、その多くは逃亡の辛苦の末に亡くなっている。

A級戦犯ということで、(次男・三男で構成される?)国家元首や、総理大臣あたりが、さらしものの血祭りにされて、(長男の?)庶民は、なんのおとがめもない、というわけだ(こういうのを聞くと、昔の武士のハラキリや、笠井潔さんのように、決闘権、というのは必要な気もしてきますよね)。
ジェノサイドは「勝利」なんだと。だから、日本は大日本帝国復活を目指し、ドイツはナチス復活を目指す、というわけですか。その調子なら、世界征服も夢じゃない、ってわけですか。いいですねー、学者になるなんて、こんなこと言ってりゃ、なれるんですから。極右のセンセーが「ニューウェーブ」とか言って、重宝してくれるってわけですか。こんな学者になる早道があったんですねー。
オビに、佐藤優さんの推薦文があったが、暴力の源泉として、ベビーブーマーに注目することは、おもしろい。しかし、彼の言説は、どこまで「科学的」であろうか。
なぜ、急激な子供の増加がある地域に発生し、そして、そのムーブメントはやがて停滞し、今の日本のような、逆ピラミッドになるのか。
彼は、最後は、女性だ、という。なぜ、現代の日本において、子供がこれほど少ないのか。それは、究極的には、女性が子供を生まないから、だ。それは、しっかりと、避妊の知識が浸透しているということであり、結構なこと、とも言えるが、逆に言えば、女性がもし、離婚するなどして、一人で育てていくような情況を想定したとき、大変、苦労することが想定されている、ということでもある。
裁判所は、男性からの養育費の請求の取り立てに、甘すぎるであろうし、そもそも、子供の教育費など、公的機関、または、民間のボランティアによって、「平等」に差配されるのが、当然であろう。
こういったことをまともにやらずに、イエの中の男の、家長としての権威ばかり主張している、保守派に、年頃の女性たちは、ほとほと、愛想をつかしているというわけだ。

自爆する若者たち―人口学が警告する驚愕の未来 (新潮選書)

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