宇野直人『李白』

江原正士、という人との対談形式で、李白の、詩を紹介していく(NHKラジオが元ネタらしい)。
李白は、最も、中国の、詩の歴史の中で重要だと言っていいのではないか。杜甫が、彼の、10歳くらい下で、李白の40台で、2年ほど行動を共にするのであるが、そういう意味でも、最も重要と言っていい。
ちょうど、遣唐使の時代であり、彼が王宮に使えた時期は、楊貴妃全盛の時代。彼女についても、彼は、3編読んでいる。
よく知らないが、逆に言えば、楊貴妃の名声も、李白のその詩とともに、後世に受け継がれたということなのだろう。
ただ、上品な人ほど、李白は、我慢ならない。ほとんど、女と酒ばかり、詩によんでいる。神仙思想、道教に親しんだ部分もあり、杜甫が、中国一となっている理由は自明でしょうね。

望夫石
髣髴古容儀
含愁帯曙暉
露如今日涙
苔似昔年衣
有恨同湘女
無言類楚妃
寂然芳靄内
猶若待夫帰

望夫石
髣髴たり 古の容儀
愁ひを含んで曙暉を帯ぶ
露は今日の涙の如く
苔は昔年の衣に似たり
恨み有ること湘女に同じく
言無きこと楚妃に類す
寂然た 芳靄の内
猶ほ夫の帰るを待つが若し

「よく似ているなあ、石になる前の、人間だった頃の姿に。この石は悲しみを含んで朝日の光を帯びて、私の前に立っている」。

「石の表面にはびこる苔、それは昔、人間だった時に着ていた衣服を連想させる」。

「この石がもっている恨み嘆きは湘女と同じだ」。

「じっと立っているようすは昔の楚妃と同じである」。

「ひっそりと寂しそうに、きれいな朝もやの中にたたずんで、この石は今もなお、夫の帰るのを待っているのだろうなあ」。

これは若い頃のものだそうで、望夫石、というのは中国各地にある伝説なんだそうですね。湘女とは、堯の二人の娘。楚妃とは、春秋時代の息侯夫人。
なんてったって、楊貴妃を、読んでるわけですからね。彼女も、半端なもんじゃ満足しないでしょ。
西洋の騎士道と比べれば、アジアは、ひかえめですけど、やっぱり内に秘めたものはあるんじゃないですかね。
恐らく、李白については、日本でも多くの歴史上の文化人が親しんできたんじゃないんでしょうかね。あんまり詳しくないけど。

李白―巨大なる野放図

李白―巨大なる野放図