河合克敏『とめはねっ!』

私立鈴里高校の書道部は、部員が、たったの、5人。しかも、一人は、柔道部とかけもち。部の存続さえ、あやうい。
彼らは、部の存続をかけて、公開の書道を行う。
名付けて、パフォーマンス書道。
多くは、流行歌の歌詞を、その歌を、バックに流しながら、大きな紙で、書いていく。大きな文字を、大きな紙に、一字だけ書くような、そんなスタイルもあるようだ。
彼らは、目立たなければならない。みんなに注目されなければならない。みんなに興味をもってもらいながら、なおかつ、感動させる。そういった意味では、流行歌は適任だ。みんなが知っているし、みんなが歌える。そういった、キーボードで打たれる、決まりきったフォントじゃない、その一筆一筆から生まれる、その一字一字。それが目の前で、生まれていく姿は、本当は、感動的なことなのかもしれない。
人が人に興味をもってもらおうとするとき、文字を書くというのは、ずいぶんと原初的な姿に思われる。
この国に文字が持ち込まれ、文化が生まれてから、このかた、ずっと、この国では、文字を書いてきた。文字は、日本人の隣に常にあった。
子供たちは、今でも、習字を習いに行ってるのだろうか。
書道は、日本の歴史をはるかに超える時代から、中国において、続けられてきた。道教と結び付けられた、それは、独特の理論によって、ある種の、世界観、マンダラを現すものとなる。
若者は、そこに、メッセージを込める。彼らの声は小さい。だれも、立ち止まって、耳を傾けてはくれない。
伝えたい。知ってほしい。
だから、書く。
だれも書かない、大きな字で。だれも持ったことがないくらいの、大きな筆で。

とめはねっ! 鈴里高校書道部 1 (1) (ヤングサンデーコミックス)

とめはねっ! 鈴里高校書道部 1 (1) (ヤングサンデーコミックス)