今西憲之『闇に消えた1100億円』

大和都市管財事件は、第二の豊田商事と言われたほど、巨大詐欺事件であったが、いずれにしろ、違いがあるとするなら、被害者側が勝訴したことなのだろう。
抵当証券という、今のサブプライムローンに似たものであるが、元本保障はないが、高利回り。これを、多くのお年寄りが、購入した。
しかし、倒産。
多くのなけなしのお金をつぎ込んで買ったその証券は、ただの紙切れとなった。

最初に見つけたのは、妻だった。新聞に掲載された広告を手に、
「これ、どうかなぁ」
と尋ねてきた。そこで、小野は会社の経理担当者に聞いてみた。
抵当証券は元本保証やない。約束通り、配当がなされないこともある」
そこで、自宅に帰ると小野は、
大和都市管財って、アカンわ。元本保証じゃないから」
と妻に言った。
しかし、妻も看護婦として、自分で稼いでいる。小金を金融商品に投資するのが大好きだ。小野がそう言っても買いたそうにしていたという。それでも、OKを出さなかった。だが、妻は、
「きっと大丈夫。この時期、銀行よりも大和都市管財ってところのほうが絶対いい。五%よ。あれだけ大きな広告が出ているんだし、きっと大丈夫」

大和都市管財がつぶれるって......」
小野は妻に切り出した。妻の表情は一瞬にして、凍りついた。声も出ず、拳を握りしめ、ブルブルと震えるばかり。
「ほら言うたやろ、大和都市管財なんてアカンって。言った通りや」
と小野はそう言いかけた。しかし、妻はあまりにショックで、瞬きできないほど身体まで硬直している。
思わず、言葉をグッと飲み込んだ小野。話しかけても返事がなく、自殺しかねないほど憔悴している。その日は一日、妻と一緒に自宅で大和都市管財の捜索の様子を報じるテレビのニュースばかり見ていた。

被害者たちは、その新聞の記事を見た朝、すべての仕事もなげうって、大和都市管財のビルに押し寄せたことだろう(ナニワ金融道を思い出しますね)。
しかし、そこにはもう、金目の物など一つも残っちゃいない。
さて。どこに行ったんですかねー。
豊永社長がギリギリまで、会社の現状を「隠して」集めまくった、お金。
豊永社長は、訴えられ、懲役12年。
たったのね。

小野にいたっては、かつて建設会社の工事現場監督として鳴らしたこともあって、
「豊永のふてぶてしい態度、ホンマに腹が立った。現場から鉄パイプを持ちかえって、隠して法廷に持ち込んで、殴ってやろうか、何度、そう思ったか。天誅を加えてやりたいという思いに何度もかられた」

俺の金どーしてくれんだ!!!
分かってんのか。そのお金。どれだけの思いをして、今まで、集めたものなのか。毎日毎日、朝から晩まで、働いて働いて、少しづつ、少しづつ。安月給を節約して節約して、こつこつ、こつこつ、...。
それは、俺の「全て」だったんだ!!!
被害者はまた、泣き寝入りするしかないのか...。
どうせ、お金が元に戻るわけでもない...。
しかし、彼らは立ち上がる。
なんのためなのか。
被害者たちは、この事件のもう一つの「当事者」の、国を訴える手法にでた。
なぜ国か。
早い話、大和都市管財が完全なブラックであることは国は、とっくの以前から知っていたからだ。国にはこういった金融機関の「監視」義務があるとされる。当然だ。第二の豊田商事を再現するわけにはいかないだろう。
国は早くから、大和都市管財の経営状態が著しく悪いことを知っていた。それどころか、「そういう警告書まで提出していた」。
しかし、国は、豊永を生かした。
なぜですかね。

そんな中、井上に電話を何度もよこしてきたのが、大和都市管財の社長、豊永。井上は豊永と会ったことはないが、何度も電話で話したこと明かした。
「何回かしつこく電話がかかってくるんです」
と言い、その内容については、
「あまりまともな話をしないんです。本質を言ってくるのではなく、因縁をつけてくる。まともな会話になっていないんですね。覚えているのは、突然わめき出すこと。何か恫喝するような。あまりにひどいので、机のところに受話器を置いてしゃべりたいだけしゃべらせたというような記憶もあります」
そして、平成九年六月の立ち会い検査では、よりひどくなったようで、
「すごかったですよ。切っても切ってもかかってくるんで。最後、交換のほうに、もうつなぐなと言いました」
平成七年八月に「同和団体」の名前を出して業務改善命令の発令を「恫喝」で乗り切った豊永は、井上にも同じ手を使ったのである。

こうやって、豊永は生き残った。しかし、こうやって「国のお墨付き」をもらった豊永は、「国がこうやって、自分のところは大丈夫って言ってるんですよ。ちょうどここに、国のハンコがあるでしょ。国がダイジョーブって言ってるんですから。どーぞアンシンして私に全財産を預けてくださいって。国がホショーしてるんですって。なんかあったら国に言えばいーんですよ。
私が嘘言う人間に見えます?」
私は、この裁判が「勝利」だとはどうしても思えない。なぜなら、一切の預金がパーになった人たちの、汗と涙の結晶のそのお金はもう戻ってこないからだ。
なにかが間違っていないだろうか。
これのどこが、「リスク」なのか。
人間は、金を目の前にちらつかされると、「すべてを捨てる」。南アの犯罪者があそこまで、過激になるのは、実際に、土地を掘り、資源を世界中に売り、巨万の富を築き、プール付きの、巨大豪邸を建て住んでいる人間たちがいるから、ではないのだろうか。
しかし、彼らは、どうやってそんなお金を手に入れたのか。豊永は、その目の前のお金のために、上記の引用のような、ほとんど狂っているのと変わらないような、「恫喝」を国家官僚にしかける。意味不明のことをしゃべちらかして、何度も何度も切っても切っても電話をかけてくる。
金、金、金、金。
お金を稼ぐとは、こういう人間と「戦う」ということだ。負けたら、骨の髄までしゃぶられる。私たちはいつもこういった「あたり屋」豊永の「いんねん」と対峙し自分を守り続けなければならない。
安心社会など「どこにもない」。
豊永は、国家官僚に近づいただろう。当時の自民党の大物政治家にも近づいただろう。そうやって、免許取消をなんとかして勝ち取ろうとする。
しかしね。
それによって、どれだけの被害が広がったものだろう。そのどれも、ほとんど被害の回復が見込めないところまで、手遅れも手遅れ。
なにかがおかしくないだろうか。
まず、消費者は、こういったあまりに「リスク」の高すぎる商品に、ほとんどのあり金をつぎこむことが、「ハイリスクハイリターン」の名のもとに、正当化されていいのだろうか。
もちろん、もし、これが、純粋なゲームなら、思考実験としては、考えてもいいだろう。しかし、こうやって、国家が「恫喝や政治家の圧力」によってであれ、「真面目に仕事をしないのだ」。
まずここが、ちゃんとしてるだろう、というところから、おかしくなっているのだ。そして、上記にもあるように、国は完全な「責任者」であることがはっきりしていながら、ろくな保障もやらない。
つまり、国がちゃんとしてい「ない」ということを前提に、システムを構築しなければならない、ということだ。
だとするなら、本当にお金のない家庭が、こつこつためた全財産を、こういうハイリスク商品に「すべて」つぎ込めないシステムであるべきなのではないだろうか。こういう彼らには、彼らの資産のうちの「それなりの」割合が手元に残らなければ「ならない」のではないだろうか。

闇に消えた1100億円―巨大詐欺・大和都市管財事件国賠の闘い

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