特定秘密保護法という「キメラ」

つくづくも、特定秘密保護法は、考えれば考えるほど、興味深い印象が深まるというのが、その特徴であろうか。
そもそも、なぜ、多くの人たちが、この法律に違和感をもっているのか。それは、例えば、国連が定めている人権の規範に、明らかに、逸脱しているから、と言えるであろう。
では、それは「なぜ」起きたのかと考えたとき、いわば、

の日本の法制が、そもそも、国連の人権の規範から考えたとき、あまり、整合的でないから、ではないかと考えられる。つまり、それだけ、官僚にフリーハンドを許す法制になっているわけである。というか、もっと言ってしまえば、「ほとんどのことが明文化されていない」ということである。つまり、

だということである(これは、逆に言えば、憲法があるだけ、という状態なので、少なくとも、憲法違反まではやらないだろう、という国民の視点があるということだが、今回の法律では、その憲法違反され許されうる可能性を、どうしても国民は考えさせられた、ということになるであろう)。
じゃあ、なぜ、今回の法律制定が、これほどのビックイシューとなったのか? それは、この法律が、ある「目的」を達成しようとして作ろうとしたときに、「明示的」に、上記の、国連の人権の規範に逸脱することを、「再表現」せざるをえなくなった、ということではないか。
つまり、こうである。
今回の法律によって、政府が明確に言っているのは、

  • 今まで公務員の守秘義務違反が1万円であったものが10万円になった。
  • 今まで国会議員は罰則対象でなかったが、今回から、そうなった。

でしかない。つまり、この二つだけは、日本版NSCだかなんだかの同盟関係でやらなければならなかった、というわけである。ということは、どういうことか? この法律が、今の政治家と官僚の力関係を示している、と言えるのではないか。自民党は、少なくとも、上記の点以外において、官僚の「パワー」を縛ることはしないことを官僚に「約束」した上で、その最大公約数をとって法律を作ろうとしたら、こんなような、おぞましいキメラな「法文」でしか、明文化できなかった、ということである。
では、順を追って考えてみよう。
今回の法律の一義的な問題は、以下である。

  • 言論の自由の制限(=自由に言論行為を行うと警察に捕まる)

もちろん、なんらかの正当な理由において、この言論の自由が制限されることは、民主主義社会においても、考えられないことではないであろう。ということで、次に問われるのが、その逮捕の「理由」である。

  • その「逮捕理由」(特定秘密指定されている内容の漏洩)において、その行政の長が「秘密」に指定できる内容が、「国家の存続を脅かすもの」としかなく、別に、自衛隊の武器に関することや軍事暗号に関することなどといったような、「なんらかの具体的な分野の制限がない」ため、ある意味、なんだって指定可能になっている。

もちろん、そうだからといって、その「秘密」が、いろいろ考えた末に、国家にとって必要だと、国民も分かってもらえるようなことであるなら、私たちは、それなりに納得をするかもしれない、という、一定の合理性を認める可能性がないわけでもない。そう考えた場合、では、もしも、その行政の長が行った「特定秘密」が、他の法律に違反していた行為に関する情報だったり、憲法違反についてのそれだった場合にどうなるか、ということになる。

  • 行政自体の「法逸脱行為」に対して、それを「国民の対抗運動から守る」といった、「法逸脱国家」を許していく<全体主義>の側面をもっている。

だいたい、こんな所ではないだろうか。
以下の、自民党議員の磯崎首相補佐官の話は、上記に対する、政府なりの「言い訳」を、具体的な形で、整理していて、一聴の価値があるだろう。

D

磯崎議員の言っていることは、幾つかあるが、それを列挙してみよう。

  • 一般市民は対象でない。しかし、例外がある。それは、公務員に教唆した(そそのかした)場合である(教唆という定義がすでに曖昧である限り、事実上、どんな理由であれ、一般市民が対象となることは否定できない)。
  • 今でも、法律違反の内部告発した人は罪にならない、という法律がある。この法律でも、政治家が守らなければならないと考える。
  • 明文化していないが、もしも、法律違反の内容が秘密指定されたとして、その告発者は、法作成者としては、当然、告訴されてはけないと思う。しかし、それを判断するのは、検察であり検察が妥当な判断をするべきと思う(つまり、法にその規定がないから、検察の判断の「範囲」の問題となるわけで、検察の捜査の「範囲」を規定しようとしない、今の法の問題が問われているわけであろう)。
  • 行政の長に、違反時には、なんらかの罰則を課すべきという議論があるが、日本の法律で行政の長にそういった罰を規定しているものはないことから、それについては慎重であるべきだ(つまり、行政の長が、そんな違法なことをするわけがないのだから、そういった憂慮は不要なんだということであろうが、それは「通常」時の話で、ここで問題になっているのは、そういった「通常」から逸脱していく「堕落」形態なのであって、まあ、何も言っていないに等しい、ということであろう)。

うーん。結局、「秘密」である限り、憲法違反なんじゃないですかね。国会であれ、第三者機関であれ、

  • 堕落

するんですね(つまり、分野の限定など「明示的」な特定化されていない「秘密」を国家が持つということは、国民主権の国で「ありえない」でしょう。極めて限定的でない限り、定義矛盾そのものでしょう orz)。秘密である「あらゆる」存在は、たんに時間の経過と共に、堕落する。そのことを防ぐ手段は、公開することから得られるあ

以外にありえない。それを逃げる限り、日本の堕落は避けられない。つまり、この法律の憲法違反的性格を追求していく「勇気ある」国民が次から次へと立ち上がっていくのであろうか? 私には、むしろ反対に、政府や官僚に気に入られたい、この法律を「擁護」する「エア御用」たちが、次々と湧いてくる近未来しか予想できないわけである...。